第13話


「こ、こんなにいっぱい……⁉」


 受付嬢のスティアさんが、カウンターに乗った大量の魔石を前に固まってしまった。


「ついつい、調子に乗っていっぱい倒しちゃって……」


「モグラ叩き、いっぱいしちゃいました……」


「が、頑張りすぎです、お二人とも……。デ、デビルモール30体討伐の報酬銅貨30枚と、モグラの魔石73個×銅貨7枚で、合わせて銅貨541枚となります……」


「そ、そんなに……⁉」


 今度は僕たちのほうが驚く番だ。これで所持金の銅貨49枚と合わせたら590枚だ。


 これじゃ重くなりすぎるので、銀貨5枚と銅貨90枚に分けてもらうことに。あんまり貯まるようなら魔法の袋に入れてもいいんだけど、いずれにそうするにしてもすっきりしてたほうがいいしね。


 モーラさんが雨漏りする部屋があるって言ってたから、これで少しは修繕の足しになるんじゃないかな? この異世界では、銀貨5枚あれば小さな家が建てられるっていうし。


 そのときだった。ギルドの職員らしき男が深刻そうな顔つきで現れたと思うと、スティアさんに耳打ちした。



「……あの……すみませんが、クルス様、少々お待ちください」


 スティアさんはそう言い残して、奥にある個室の中へ引っ込んでいった。なんだか妙な空気だな。一体何が起きたんだろう……?


 それから少し経って彼女は戻ってきた。


「……お待たせしました。があなた方とお話したいそうです」


「えぇ?」


「どうぞ、奥のほうへ」


「……」


 戻ってきたスティアさんの言葉に対し、僕とユイは驚いた顔を見合わせる。ギルドマスターが僕たちにどんな用事があるっていうんだ……?


「やあ、ようこそ。ここに座ってくれたまえ」


「なっ……⁉」


 僕たちは唖然とするしかなかった。そこにいたのは、紛れもなくあの召喚士の男だったからだ……。


「どうした? 二人とも、座らないのか?」


「あ、は、はい……」


 僕たちは用意された椅子に恐る恐る腰かけることに。罠とか仕掛けられてないよね? それにしても、まさか彼がオルトン村のギルドマスターだったなんて……。


「この間は、実に申し訳ないことをした。お前たちが外れスキルだからと冷遇してしまっていたが、驚異的なスピードで依頼をこなす様子を見てそれは間違いだとわかった」


 召喚士の男は、本心かどうかはわからないけど謝罪までしてきた。あまりにも意外な展開だ。あれだけ高圧的だった人が。彼はどんな意図があってこんなことを言ってくるんだろう?


「それより、僕たちを召喚した理由は、一体なんなんですか?」


「私もそれを知りたいです」


「……まあそう慌てるな。それについてはこれから話すつもりだ。自己紹介が遅れたが、俺の名はガリュウだ。この村のギルドマスターも兼ねているが、国のために働ける者を探す、いわゆるスカウトの役目もある召喚士でね」


「国のために働ける者?」


「そうだ。この国は強大な力を持つから圧力を受け、脅威に曝されている。その国から自分たちの国を守るために、俺はあれだけの大掛かりな召喚を実行して、お前たちを含めた多くの転移者にスキルを付与させた。とある国というのは、エルフたちの国のことだ」


「エルフたちの国?」


「そうだ。やつらは人間と違ってスキルを持つことができない。いや、持つ必要がないくらい強い。いずれ、この国を滅ぼすだろう。だからこそ、希望が欲しかった。エルフの国を滅亡させるためには、手段を選ばないくらいの狡猾さと、強力なスキル持ちが必要なのだ……」


「なるほど。それで人柄が良い、一見外れスキル持ちの僕たちを冷遇したってことですね」


「……まあ確かにその通りだが、あのときは急いでいたんでな。ただ、当たりスキル持ちならば人柄など関係なく歓迎するぞ。で、どうする? 今からでも遅くない。その素晴らしい能力を活かして俺たちの仲間になってくれ。そうすれば、この国の精鋭部隊である右列の一員として優遇してやるぞ。どうだ?」


「……お断りします」


 僕はきっぱりと断った。エルフの国っていうのがどういう国なのかもよくわからない上、このガリュウという召喚士の男に対しては今までの不信感もあったからだ。


「私も、クルスさんと同じです。ガリュウさんでしたか? あなたは信用できません」


「……そうか。それならばいい。すぐにだろうが」


「……」


 僕たちは召喚士ガリュウの傍を離れ、その場をあとにした。


 すぐに後悔することになる、だって? 不気味なことを言ってたな。


 ん、周囲が騒がしくなってきた。火事だとか逃げろとか。なんだ?


 急いで外へ出てみると、建物の一部が燃えているのがわかった。って、あの辺って、もしかして……。


 俊敏値を100にした僕は、ユイの手を引っ張って現場へと急ぐ。


「……な、な……」


 騒ぎの中で僕たちは呆然とするしかなかった。燃えていた。あの『モーラ亭』が、真っ赤に炎上していたんだ……。


 ち、畜生……! あいつらがやったんだとすぐにわかった。僕らが従わなかった見せしめとして、召喚士が右列の配下に指示したんだ。


「こんなの、酷い……」


 ユイもがっくりと膝を落とし、項垂れていた。彼女も僕と同じように、異世界での故郷を失った気分なんだろう。本当に許せない……。っていうか、モーラさんが無事だといいけど……。


「クルス様っ!」


「あ……」


 誰かと思ったら受付嬢のスティアさんが声をかけてきて、手紙を渡してきた。


「これを預かっていたのでお渡しします」


「僕たちに?」


「はい。変な男たちが来て、これを渡してくれって……」


「……」


 僕はユイと顔を見合わせると、一緒に手紙を読むことに。


『モーラ亭の主人を預かっている。やつの命が惜しいと思うなら、村の外れにある水車小屋近くまで来い』


 宿を燃やした挙句、モーラさんまで人質に取るなんて、こりゃ許せないね。久々に無茶苦茶頭に来ちゃったよ……。



 僕たちが約束の場所へ駆けつけると、水車小屋の影から右列の連中がうようよと出てきた。そのうちの一人が、エプロン姿の女性の首にナイフをつきつけてるのがわかる。


「モーラさん!」


「く、クルス、ユイ……なんで来たんだい。あたしなんかほっといてもいいのに……」


「……」


 人柄がSのモーラさんらしい台詞だ。


「てめぇ、余計なこと言うな。人質の癖に自分の立場わかってんのか⁉ おい小僧、その弓を下ろしてこっちへ来い! そしたらこの女を解放してやる!」


 男たちが怒鳴っても、モーラさんは顔色一つ変えなかった。本当に優しくて強い人だ……。


「モーラさん、姿は見せたくないから、しばらく目を瞑ってて」


「あい、わかったよ。あたしは、どうなってもいいから、早く逃げな……。こいつらの言うことなんか絶対に聞くんじゃないよ」


 モーラさんは死を覚悟したのか目を瞑るけど、それでもやっぱり怖いのか少し体が震えてるのはわかる。


「あぁ⁉ この女、てめえ、本気で死にたいのか⁉ おい、小僧。もし逃げたり妙な動きをしたりしたら、本当に殺すからな。このクソ女の喉を掻っ切って、美しいバラを見せてやるぜ。それにな、俺たちのスキルは最高にクレイジーな効果でなあ――」


 べらべらと喋ってた男を筆頭に、連中の額に矢が突き刺さる。大したことのないスキルだってわかってたから、調べる必要もなくあっさり終わった……。

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