第9話


 あくる日の朝、僕はユイと一緒に冒険者ギルドにいた。お互いに依頼を受けるためだ。


 僕の場合は、ちょっと欲張ってゴブリン討伐5匹の依頼を、ユイはスライムと大ネズミの討伐の依頼を受けることにした。


 これらを成功させることで、どっちも同じタイミングでEランクに昇格できるからだ。ちなみに、一度に三つまで依頼を受けることができるんだとか。


 依頼の貼り紙の予備をカウンターへ持っていくと、受付嬢のスティアさんが声をかけてきた。


「クルス様、おはようございます。今日も精が出ますね……って、その方は恋人ですか?」


「あ、スティアさん、おはよう。この人は……」


「はい、恋人です!」


「や、やっぱり……。意外と隅に置けない人なんですね。クルス様も」


「い、いや、違うし!」


「……はあ。そういうことにしておきます」


 なんかスティアさんがいかにも不機嫌そうにプイッと顔を背けてるし。ま、まさか僕に気がある? ただ、僕って人柄はともかく容姿がアレだし、多分演技だろうけど……。


「ユイ、恋人宣言は自重するように」


「はぁーい」


「……」


 ユイの間延びした返事を聞くと期待できなさそうだ。悪戯が好きな子なのかな。まあ自分でジョーカーって自称しちゃう子だしね……。



「やっほー!」


「ちょっ……⁉」


 草原に着いた途端、ユイが駆け出した。


「ユイ、危ないって!」


「クルスさん、大丈夫ですって! なんたって、私には【糸】がありますからぁー!」


「いや、確かにそうだけど、体のすぐ横に即湧きとかもあるし……って、言ったそばから!」


「あうっ⁉」


 ユイの足元にスライムが現れたので、即座に弓矢を放って始末した。スライムは動けなくても、触れた相手を溶かすことができるから要注意だ。


 彼女は手でごめんっていう仕草をしつつ舌を出して笑ってる。まったくもう……。


「それじゃ、クルスさん。私の勇姿、しっかり目に焼き付けておいてくださいね。ふわぁ……」


「はい、緊張感なし」


「えへへっ」


 ユイは天然なんだろうなあ。本当に小動物タイプだ。


「ふぅ、ふぅ……」


「……」


 それから3匹、ユイが【糸】で動けなくなったスライムを棍棒で叩いて倒すのを見届ける。


 順調だとは思うんだけど、見ていてなんとももどかしい気分だ。


 もっと楽に倒せる手段とかないかな? たとえば、僕が倒しても彼女が倒したことになればいいんだけど。そんな甘い考えは……って、そうだ。


【糸】って、相手の動きを止められるわけだから一応攻撃系のスキルなんだよね。だったら、僕が倒しても討伐数にカウントされてもおかしくない。


「ねえユイ、【糸】でスライムの動きをかたっぱしから止めてみて」


「えぇー? で、でも、そんなにいっぱいすぐには倒せないですよー」


「僕が倒すから」


「ふぇ?」


「いいから、やってみて!」


「あ、はいです!」


 ユイが【糸】スキルを使い、スライムたちの動きを封じていく。範囲系なので、一回でも近くにいるスライムをひとまとめにして足止めできるんだ。


 なのですぐ10匹分溜まって、僕は弓矢を10本放ってみせた。


「あれ、クルスさんが倒すんですかぁ⁉」


「ユイ、ちょっとギルドカード見て」


「えぇ? あっ……! 10匹討伐終わってます!」


「やっぱり……【糸】で動きを止めたスライムを倒した時点で、パーティーの連携プレイとして捉えられたってことだね」


「な、なるほどぉー……」


「よーし、この調子で大ネズミ討伐にいこっか?」


「はぁーい! あ、でも、SPがなくなったので休憩しましょー」


「あ、そうだった……」


 僕たちは岩場に座って、草花の匂いや穏やかな風を感じるのだった。


 それから大ネズミを倒すべく、僕たちは森林へ向かう。


「ギリリッ……!」


 やつらが群れで向かってきたところをユイに【糸】で丸ごと止めてもらい、矢を放って倒す。


「すごーい! 大ネズミの依頼もすぐに終わっちゃいました!」


 森に入ってすぐ大ネズミを10匹仕留めたのではしゃぐユイ。まもなく我に返った様子になった。なんだ?


「どしたの?」


「レベルが3から8まで上がってます……!」


「うわあ……。僕も9まで上がってるし。ってことは、連係プレイで討伐数がカウントされるだけじゃなくて、経験値も普通に稼げるんだね……」


「そうみたいです。クルスさん様様ですね!」


「……さん付けか様付けかどっちかにして」


「じゃあクルスどので!」


「な、なんかそれだと騎士っぽいから却下で……」


 まあユイのキャラクター的にはさん付けのほうが合ってるかな。巫女さんだしね。


 ユイの依頼が二つ終わって、今度は僕の番だってことで小高い丘にある神殿の廃墟跡に向かう。


 ここは思い出のあるところっていうか、僕たちがこの異世界に召喚された因縁の場所だ。


 そのせいかユイも緊張した様子で黙り込んでいる。この周囲にゴブリンたちが出るってこともある。


 ゴブリンはスライムや大ネズミに比べると狡賢くて強いらしいからね。それでも五匹討伐ならいけると思ったんだ。


「ギギギッ……」


 まもなく、例の耳障りな声が聞こえてきた。いた、ゴブリンだ。全部で七匹いて、足並みを揃えるようにしてこっちへ向かってくる。


「来い、ゴブリン……」


 前回は逃げるしかできなかったけど、今回は違うぞと気合を入れる。


「ギギギギギイイッ!」


 やつらが一斉に駆け出してきた!


「ユイ!」


「は、はい!」


 ユイがゴブリンたちを【糸】で足止めしたところで、僕は複数の弓矢を放つ。


「ギギッ⁉」


 矢はそれぞれ、ゴブリンたちの額や胸部に命中した。よし、倒したと思ったの束の間、やつらは生きていた。


 な、なんでだ? ……って、そうか。命中率は高くても、相手が一つ分ランクの高いゴブリンとなると威力が足りないんだ。


 それならとばかり、僕は無限に矢を打てることもあって量で攻めることに。


 だが、やつらはそれでも倒れなかった。さらにユイの【糸】の効果が切れたあと、仲間の死骸を盾にして向かってくる。うわあ、どうしよう……って、そのとき、僕はを閃いた。


「グゲゲエエエエェェッ!」


 矢を浴びたゴブリンたちが、死骸ごとバラバラになって息絶える。凄まじい威力だ。


 何をやったかっていうと、矢を放ったあと、腕力値を100に切り替えたんだ。ユイに【糸】を再使用してもらうまでもなく倒せた。よーし、これでゴブリン五匹の討伐完了だ。


 お、ゴブリンの魔石が2個落ちてる! スライムと大ネズミの魔石が珍しく1つも落ちなかったので、揺り戻しってやつかな? ホッとした。


 あと、これでレベルも念願の10まで上がったと思う。ステータスがどうなってるのか気になるけど、この辺りは危ないからあとで確認しよう。


 さて、オルトン村へ戻るか。

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