第6話


「つ、つよぉ……。あ、あのあの、ありがとうございまふっ! 助けていただいたお礼として、銅貨1枚……い、いえっ、2枚差し上げます!」


 女性が感激した様子で駆け寄ってくると、銅貨を2枚渡そうとしてきた。


「いやいや、僕は当たり前のことをしただけだから気にしなくていいよ」


「ほ、本当にいいんですか? 強いだけじゃなくていい人なんですね! ……っていうか、あなたって異世界こっちの人じゃないですよね?」


「うん。君もそう見えるけど、向こうから異世界に召喚されてきたの?」


「あ、はい! でも……召喚士の人にお前は外れスキルだって怒鳴られて、左列に並ばされました……」


「そうなんだ。じゃあ僕たち同じ境遇だね」


「……え。あんなに強いのに左列にいたんですか……⁉」


「ま、まあ一見外れスキルに見えるスキルだろうからね。しょうがない」


「な、なるほどです……」


 女性は慣れてきたのか、興味深そうに目を大きく開けて僕のことをじろじろと見てきた。なんだか小動物みたいな人なんだけど、巫女さんっぽい神秘的な空気もある。


 人気のない場所にいることもあって、僕は自分のことを彼女に話すことにした。【互換】で固定ステータスを覗いたら人柄がAだったので信用できると思ったんだ。


「――と、こういうわけなんだ……」


「へえー……。各能力値に100ポイント振って一人でサクサク狩れちゃうなんて、スーパーレアなだけあって凄いスキルなんですね、【互換】って……」


「うん。ただ、これが活きるのはレアスキルの【HP100】のおかげでもあるよ。シンプルだけど、これと組み合わせたらもう怖い物なしだからね」


「確かに、怖いくらい相性ばっちりです……。あ、今度はこっちのことをお話しますね」


「うん」


「私、巫女をやっているものでして。学校から帰ってきて境内の掃除をしていたら、何故かいきなりこっちに飛ばされてきちゃいました……」


「あ、やっぱり巫女さんだったんだ」


「はい。まだ女子高生の若造ですけどね!」


「しかもJK⁉」


「はい、ジョーカーです!」


「ははっ……」


 ジョーカーって……。ユーモアもありそうだ、この子。


「転移したあとのことですけど、ゴブリンたちが出たの覚えてますよね?」


「あぁ、あれね……」


「あのあと、ゴブリンたちは誰かを追いかけていったんです。その人、姿がよく見えないくらい物凄いスピードでした」


「……」


 それ多分僕だ。


「私は怖くて足が竦んでたんですけど、あの人のおかげで助かったんです。動けるようになったあと、あそこからなんとか逃げきることができました」


 そういえば、僕の場合はあのとき俊敏値にたまたま100振ってたのもあって、ゴブリンたちから逃げることができたんだよなあ。もしそうじゃなかったら自分が犠牲になっててもおかしくない。


「それで気づいたら私はこの村にいて、道の脇に座って泣いてたんです。そしたら、さっきのあのおじさんに声をかけられて、それで右列に……」


「右列に入っちゃったんだ……」


「は、はい……。でも、右列の人たちってガラが悪い人ばっかりで怖くて、なるべく一人で行動するようにしてたんです。それで三日間かけてやっとスライム狩りの依頼をこなしてギルドを出たところであの人に見つかっちゃって、あんなことに……」


「なるほど……」


「……あ、あの、よかったらでいいので、私と組んでいただけないでしょうか? もちろん精一杯頑張りますし、お役に立てなかったら捨てちゃっても構わないので……!」


「ちょ、ちょっと待って。【互換】で君の情報を調べてからでもいいかな?」


「あ、もちろんです!」


「……」


 一人だとやれることに限界があるだろうし迷ってるわけじゃないけど、一応彼女のステータスを調べておかないとね。



 変動ステータス


 名前:赤理あかり ゆい

 性別:女

 レベル:3


 HP:7/10

 SP:1/5

 腕力:1

 俊敏:1

 器用:1

 知力:1

 魔力:1


 固定ステータス


 才能:B

 人柄:A

 容姿:A

 運勢:C

 因果:A


 スキル:【糸】【観察眼】


 装備:皮の服 皮の靴 棍棒



 ステータスを確認したところ、申し分がなかった。ただ、気になるのが因果というのが異様に高いということ。つまり、相当な巻き込まれ体質ってことだ。これって、ほっといたらまずいと思うし尚更断れない。


 自分に能力がなかったり自信がなかったりっていう状況なら、どっちにも危害が及びそうだってことで断るかもしれないけど、今の自分なら大丈夫なはず。


 スキルについてはあえて調べずに彼女の口から聞いてみようと思う。なんせ僕の【互換】スキルは鑑定スキルではあるけど、モンスターを鑑定できないしそれ専用のスキルじゃないから表向きのことしか見られないかもしれないしね。


 ……って、さっきから彼女、何してるんだ? 僕に向かって時々ウィンクしてみせたり、肩を出してみせたり、アピールに必死だ。


「そ、そんなことしなくても、仲間にするから大丈夫だよ」


「本当ですか⁉ あ、ありがとうございます! 私は赤理結っていいます。あなたは?」


「僕は来栖海翔。どう呼んでもいいよ」


「それじゃあ、クルスさんって呼びます!」


「……」


 別にクルスでもいいんだけど、僕のことをカイトって呼んでくれる人も出てこないかなあ?


「んじゃ、君のことはユイって呼ぶね。ところで、【糸】と【観察眼】ってどんなスキル?」


「あ、これはですね。【糸】はスーパーレアスキルでして、半径2メートル以内に見えない糸を張り巡らせて、敵をしばらく足止めする効果があります」


「ってことは、範囲系で動けなくすることができるんだね。さすがスーパーレアスキル」


「えへへっ。しかもこれ、SPがある場合はモンスターや侵入者に対して自動的に発動するんですよ」


「へえ、そりゃ凄いや……」


 彼女のスキルも一見外れのようで実は当たりのパターンだね。


「ちなみに、私のもう一つのスキルは、【観察眼】っていうレアスキルです。スキルを深掘りできて、相手の色んな情報を見ることもできますよ!」


「スキルの深掘り?」


「はい。たとえば、その【互換】スキルについてこの【観察眼】で調べれば、隠された情報が浮かんでくるんです」


「隠された情報?」


「自分が知りたい情報だけ、括弧で区切って教えてくれます。よかったら試してみましょうか?」


「あ……それなら、是非【互換】スキルを深掘りしてくれないかな?」


「もちろんオーケーです。それでは、調べさせてもらいますね……」


「……」


 彼女が真剣な顔で僕をじっと見つめてくる。なんだか照れるなあ。


「……あ、見えてきました!【3.同種類のスキル、一種類のみ、しばらく対象とスキルを入れ替えることができる。4.アイテムの説明を別の言い方で互換することで、物の効能をすっかり変化させることができる】そうです。すごっ!」


「そ、そりゃ確かに凄い……」


 色々制限があるとはいえ、相手とスキルの入れ替えができるのは便利だ。しかも、アイテムの説明を別の言い方で互換して効能を変えるなんてチートすぎる。


 現金な言い方だけど、この人を味方にしたのは大正解だった。これで【互換】スキルの本来の力が発揮されるわけだから……。

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