第3話


「う……?」


「おや、ようやく目覚めたみたいだね」


 気が付くと、僕は陽だまりに包まれたベッドの上にいた。


 傍にはエプロン姿の綺麗な女性がいて、凄く居心地がいい。ここは天国かな……?


「ここは……?」


「ここはね、オルトン村の宿だよ。で、あたしは宿の主人のモーラ。あんたは村の入り口で倒れてたから、ここまで運んできたのさ。ほぼ一日中寝てたんだよ?」


「そ、そうだったんですね。ありがとうございます、モーラさん……!」


 とても親切な人だ。それにしても、一日中寝てたなんてね……。


「あ、僕は来栖海翔っていう名前です。助けてもらったのはありがたいんですけど、お金がなくて……」


「クルスっていうんだね。お金ならいいよ。あんたって別の世界から来たんだろ?」


「え、どうしてそのことを?」


「あははっ、そんなの格好でわかるよ。なんか最近、大規模な召喚があったみたいで、それっぽい見た目の連中がこの村でも結構見かけるんだよ。クルスもその一人ってわけさ」


「な、なるほど……」


 よく考えたら、服装がこっちの人とは全然違うしすぐわかるよね……ってことは、左列だけじゃなくて右列のやつらもいるんだろうな。胸糞悪いけど……。


「そんならお金を持ってなくて当然だからね。ほら、これお小遣いの銅貨10枚」


「えぇ? お小遣いまで貰っちゃっていいんですか……?」


 僕はモーラさんから銅貨を10枚も貰った。


「この世界じゃ一番安い硬貨だけど、それ一枚で一食分にはなるよ。あんたはなんか人が好さそうだからね。これで服とか靴とか色々買うといいよ。さて、色々と忙しいから失礼するね」


「あ、はい。どうもありがとう……!」


 忙しいのに助けてくれた上、こうしてお小遣いまでくれるなんて神様みたいだ。なんとかお金を稼いで返さないと。


 宿をあとにした僕は、防具屋で一番安い中古の皮の服と皮の靴をそれぞれ銅貨2枚、1枚で購入した。でもこれだけじゃ戦えないから武器も必要だってことで武器屋にも寄る。


 剣や棍棒やロッド等、色々置いてある。というか、どういう手段で戦おうか? 腕力を100にしたとしても、接近戦だとHPが1しかないからすぐやられちゃう。


 ……あ、そうだ! ステータスの一つの器用って確か、命中率にも関わるんだよね。それなら遠距離から安全に攻撃できるし弓がいい。でも、どれも高いなあ。残り銅貨7枚で買えそうなものがない。


「お客さん、何か探してるのかい?」


「あ、はい。あの、店主さん、銅貨7枚で買える弓ってないですか?」


「銅貨7枚ねえ。うーん……それなら、これはどうだい?」


「これは?」


 おじさんから弓と30本入りの矢筒を見せてもらった。


「中古でヒビが入っちまってるから命中率が下がるけど、使えなくもない。ま、矢を30本くらい放つ程度なら持つだろう。こいつなら銅貨1枚で譲るよ」


「ほ、本当ですか⁉ じゃあそれで!」


 よーし。それくらい持つなら充分だ。僕は小声でステータスオープンと唱えると、【互換】スキルでステータスを入れ替えることに。



 名前:来栖 海翔

 性別:男

 レベル:1


 HP:1/1

 SP:4/5

 腕力:1

 俊敏:1

 器用:100

 知力:1

 魔力:1


 装備:皮の服 皮の靴 弓 矢筒(30/30)



 こんなもんでいいかな? 【互換】スキルでの入れ替えは一種類のみしかできないので、この状態からさらにSPをHPと交換するなんてことはできない。


 どんな結果になるか楽しみだ……って、そうだ。どうせモンスターを倒すんだったら、冒険者ギルドで登録しておいたほうが報酬とかも貰えてお得なはず。


 そういうわけで、僕は人柄が良い村人にギルドのある場所を尋ねて向かうことに。ここがどんな世界だとか色々と聞きたいことはあるけど、それはあとでもいいや。


 まずは冒険者になって空腹をしのげるくらいにはなりたい。今もずっとお腹が鳴り続けてるような状態だしね……。


 親切な村人から道順を教えてもらって歩いていると、やがて冒険者ギルドが見えてきた。ドーム型で、周囲は様々な武器や防具を身に着けた人たちで賑わっている。


 これも聞いたことなんだけど、冒険者ギルドっていうのは、危険な仕事を引き受ける冒険者たちを登録し、依頼や支援を斡旋する団体のことなんだとか。


 ギルド内に入った僕は中を見渡した。中央には円状のカウンターがあり、そこでは書類をチェックする受付嬢の姿があった。


「……あ、あの、ちょっといいですか?」


「はい。私は受付嬢のスティアと申します。どういったご用件でしょう? 迷子でしょうか?」


「……」


 ありゃ、迷子だと思われちゃったみたい。まあ確かに童顔って言われることはよくあるけど。


「いえ。僕、冒険者になりたいんですけど……」


「わかりました。銅貨1枚お持ちでしょうか? それならここに必要事項をお書きください。ギルドカードをお渡ししますので」


「あ、はい!」


 緊張しながらも冒険者になりたいと言うと、彼女は快く応じてくれた。


 書類に色々と書いて、銅貨1枚渡して手続きを完了させる。あとはギルドカードを受け取るだけだ。あー、わくわくするなあ。


 ん、周りから笑い声が聞こえてきた。なんだ?


「誰かと思ったら、例の左列のやつじゃん」


「あー、あのぼっち君ね。俺らみたいに冒険者になるつもりか?」


「……か、関係ないし……」


 酷い言われようだと思ったら、ガラの悪い右列の連中がここにもいたのか。


「あぁ? 陰キャじゃ無理無理。しかもなんだよその弓、ボロボロじゃん。家で大人しくゲームでもやってろっての!」


「まあ、ネットは繋がらないからロープで首を吊るしかないけどな」


「ギャハハ!」


「……」


 腹が立つけど無視無視。まさか右列の連中がいるなんて思わなかった。


 でも、数が少ない上にリーダーの召喚士の姿も見かけない。あいつらの中でもさらに選別されたのかな?


「冒険者様、ギルドカードができましたよ。色々と言われているようですけど、気にしないでくださいね」


「ど、どうもありがとう、スティアさん!」


 僕は受付嬢のスティアさんからギルドカードを受け取った。慰めてもらったのもあって涙が出そうだ。


「いえいえ。このカードには冒険者様の名前、冒険者ランク、受けた依頼についての情報が刻まれていて、討伐したモンスターの数が更新される仕組みです。指紋認証もあるので、盗まれても他人の手柄にはなりません」


「へえ、便利なんですねえ。魔道具ってやつですか?」


「はい、そうですよ。モンスターを倒すとそれに応じた形の魔石が出ることがあって、その魔石を材料にしています」


「なるほどなるほど。ほかに気を付ける点は?」


「依頼は三回成功するとランクが上がりますが、一回失敗すると、今までの成功がリセットされてまた三回成功させないといけません。Eランク以上では、二回失敗すると降格となります」


「どうもありがとう、スティアさん」


「いえいえ、どういたしまして。気を付けてくださいね」


 貰ったギルドカードにはこう刻まれていた。


 名前:来栖 海翔

 冒険者ランク:F(0/3)

 受けている依頼:無し


 僕は早速、Fランク用の依頼を受けることにして、貼り紙の中から自分にできそうなのを探すことに。


 FランクだとFランクの依頼しか受けられないそうだから限定されそうだと思ったけど、意外に色々と見つけることができた。


 Fランクの依頼は、スライム、ゴブリン、オークを討伐してほしいってのがほとんどだ。定期的に駆除しないと大量発生するので近場の人々に被害が出るんだそうだ。


 ……よし、これに決めた。


 この中でも、遠距離から簡単に倒せそうなのがいいってことで、僕はスライム10匹の討伐依頼を選ぶことに。


 スライムたちは水場近くに好んで棲むそうで、放置すると増殖して水を減らしたり水質を汚染したりする危険性もあるみたい。


 依頼を受けてみたところ、制限時間は三日後の夕方までで、成功報酬は銅貨10枚だった。これなら食事代と宿代くらいにはなりそうだ。

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