第2話


 名前:来栖 海翔

 性別:男

 レベル:1


 HP:1/1

 SP:4/5

 腕力:1

 俊敏:100

 器用:1

 知力:1

 魔力:1



 試しにHPと俊敏値を指で入れ替えてみると、本当に変わったので驚く。


 ってことは、今滅茶苦茶速くなってるってことかな? その代わりHPが1になったからかなりやばい状態だけど。


 どれくらい速いのか走って試してみたいなあ。逃げたと思われそうだからやめておいたほうがいいか。


【互換】スキルを使うと相手の情報も見ることができた。これはいい。さすがスーパーレア。人柄とかも見られるから嬉しい。


 人柄のランクFは最悪の人間性、ランクSが最高のお人好しってところか。あの男性は見た目通りガラが悪いとか、あの女性は目つきが鋭いのに人が好いとか色んなことがわかって楽しい。


 しばらくして全員スキルを受け取ったみたいで、行列はなくなった。


 その間、あの召喚士の男は神父から聞き取りをしてメモを取っていた。どういうつもりなんだろう?


 ん、彼はメモを書き終わったみたいで、僕たちのほうを鋭い目つきで見てきた。


「お前たち、よく聞くがいい。これより、当たりスキル持ちと外れスキル持ちの選定作業に入る!」


 彼は沈黙を破り高らかにそう宣言した。選定作業? どういうことだ? 周辺には不穏な空気が流れる。


 召喚した理由を教えてくれるんじゃなかったのか、とかそういう疑問の声も飛んだが、召喚士は何も返してこなかった。


「当たりスキル持ちは右に、外れスキル持ちは左に並んでもらう! それを決めるのは私だ!」


 召喚士がそう言いつつ、一人ずつ指を差して並ばせ始めるが、態度が全然違う。『お前はこっちだ』と右列に並ばせる一方、『おい、お前は外れだから左列に並べ!』と威嚇していた。


 それだけじゃなく、蹴りを入れてでも左列に並ばせてて、見ていて気分が悪くなってくる。


「おい、クルスとかいうやつ! お前は外れだから左列だ!」


「……」


 それは僕も同様だったらしく、目を吊り上げた召喚士によって左列へと誘導された。右側は明らかに優遇されていて、僕が並んでいる左側はどう見ても冷遇されていた。


 最初は様子見だった右列の人たちも、次第に態度が大きくなっていくのがわかる。


 僕たちのほうに対して嘲笑うような顔つきで『左列じゃなくてよかったあ』とか、『あいつらはもう終わりだ』とか口にして露骨に馬鹿にしてくるようになった。ここまで差別されると怒りが込み上げてくる。


 てか、よく見ると右列の人たちは確かにレアスキル持ちも多いけど、大したことがないスキル持ちもいるのにどうしてなんだろう?


 人柄が悪いのは共通していて、調べたらほとんどがFやEだった。逆に左列のほうは僕を含めて人柄がいいのばっかりだ。目が疲れるので全部は見てないけど。


 じゃあ、右列を優遇する召喚士はもっと性格が悪いんじゃないか? そう思って【互換】を使ってみたらステータスが一切表示されなかった。あれ? なんか鑑定を妨害するスキルでも持ってるのかな?


「神父よ、スキルの付与ご苦労だったな。喉が渇いただろうから水を飲むといい」


「い、いや、今はまったく渇いておらんのだが……」


 ん? 神父さんが召喚士に水筒を渡されたものの、やたらと怯えた様子で飲もうとしない。どういうことだろう?


「さあ、遠慮せずにどうぞ。それとも、私の善意を踏みにじるつもりか?」


「……わ、わ、わかった……」


 水筒を口にする神父さん。まもなく目を剥いたかと思うと、血を吐いて倒れた。しかも、一向に起き上がる気配がない。え、死んだ……?


「どうやら神父のが悪化したようだ。薬を飲ませたが間に合わなかった……。可哀想だが仕方ない。そろそろ出発しようと思う」


 周りから悲鳴が上がる中、召喚士は一切表情を変えずにそう言った。確かに神父さんの顔色は悪かったけど、僕にはあの男が毒を飲ませたように見えた。一体どうして……。


「右列のみ、私のあとについてくるのだ。どうした、早くしろ。ついてきたくないならここにいても構わんが、どうなっても知らんぞ?」


 神父が謎の死を遂げたことも相俟って、その脅しが効果覿面だったらしい。右列の人たちが続々とついていき始めた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 僕らのいる左列の一部が、慌てた様子で召喚士たちのあとを追いかけていく。


「あ、あんたはなんで神父さんを殺した? 俺たちを置いてどこへ行くつもりだ?」


「ん、なんだ? 私が神父を殺したなどと人聞きが悪い。それに、私たちがどこへ行こうとお前たちには関係のないことだ。外れスキル持ちが調子に乗るな」


「お、おい、勝手に召喚しといてその言いぐさはないだろう!」


「そうだそうだ!」


 僕たちもその声に便乗して召喚士に抗議する。こんなの怒って当然じゃないか。どうして僕たちを召喚したのか、その理由すら話さずに放置するなんて。


 すると、召喚士に優遇されている影響か、右列のほうからも野次が飛ぶようになった。


「外れスキル持ちの雑魚どもがギャーギャー言うなっての」


「そうよ。羨ましいからって逆切れはよくないわ。外れスキル持ちなんだから捨てられてもしょうがないでしょ? それを受け入れなさいよ」


 それをきっかけにして、左列と右列の口論がどんどん発生し始める。こりゃ収拾がつかなくなってきた感じだ。


 でも性格が悪い右列のほうが圧倒的に優勢で、その中から出てきた強面のおじさんがリーダーっぽく仕切り始めた。


「ここは俺に任せてくれ! おい、左列の陰キャどもはそこでじっとしてろ。俺らの影でひっそりやってろってんだ。現実世界でもそうだったようにな!」


「そーだそーだ、ギャハハ!」


「それとも、ここでやり合って殺されたいかよ? 俺らは当たりスキルばっかりなんだからどっちが勝つかは明白だけどな。警察でも呼ぶか? 呼べるもんなら呼んでみろってんだよ、ほら、早く!」


「……」


 やつらは勝ち誇った顔で、高笑いを上げながら召喚士についていく。僕を含めて誰もがうつむいて追いかけることはできなかった。


 一体全体、僕たちはこれからどうなってしまうっていうんだ……。


「ギギギッ……」


 耳障りな声が響いてきてまもなく、茂みから何かが複数飛び出してきた。


 子供のような背丈で緑色の肌を持つ、小剣を手にした化け物だった。こ、これは……。


「ゴ、ゴブリンだ!」


「逃げろぉっ!」


「え、何これ。着ぐるみ?」


「ギギギイッ!」


 着ぐるみだと疑っていた男は、ジャンプしたゴブリンに首を跳ね飛ばされた。


 血飛沫とともにキャーと悲鳴が上がる。


「う、うわああぁぁっ!」


 みんなが散り散りになる中、ゴブリンたちが僕のほうに……って、何この異様なスピード……⁉


 あ、そういえばHPと俊敏値を入れ替えてたんだった。100もあるおかげで捕まる心配がないこともあり、ゴブリンたちを人気のない場所に誘導してから逃げ切ることができた。


 でも、その分体力もないのかずっと走ってると眩暈がして倒れそうになる。


 そこから僕は一人ぼっちの状況でしばらく歩き続けた。


 やがて村らしきところへ到着したかと思うと、そこに入ったところで安心した影響か意識を失ってしまった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る