こちら裏日本庁舎異世界課
高井真悠
第1話 裏日本庁舎異世界課
現代において、幽霊・妖精・魔法・妖怪・天国・地獄…これらは「あるかもしれない」程度の認識だ。いや、深く信じている者もいるが、一般的に広くその存在を認知されているか?と言われたら誰もが「否」と答えるだろう。
実際に見たり、触れたりした者も存在しない事になっている。
しかし、ここにはそれらが居る。
魔女は空を飛び、自然の中には妖精や、妖怪が住み、法を犯せば地獄に送られ、清き者は天国へ行く。
ここは「裏日本」日本であって日本ではない場所。
つまり…異世界である。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おはよーございまーす」
ここは裏日本庁舎。裏日本で生活する者たちの為の生活支援、各種手続き、インフラ整備、トラブル解決等を請け負う役人達が詰める場所。
その施設の一角にとある課がある。
その名は「異世界課」…ここ、裏日本に流れ着いた異世界人の為の課だ。
私、一ノ瀬ハルカは異世界課の事務員。
まぁ、やる事といえばお茶汲みとか掃除とか…つまり、雑用である。
異世界課に人が来る事は滅多にない。
そりゃ、頻繁に落ちてくる人なんて居ないよね。ちなみに、私は落ちた方だ。
「ハルカ〜、お茶くれ〜」
「はーい。いつものでいいー?」
奥の机からそう声を掛けてきたのは、課長の玄武爺。カメの亜人で、この世界でもかなりのご長寿さんだ。そして、私の命の恩人でもある。
私が落ちたのは5歳の頃。もう、あまり覚えてないけど幼稚園の園庭で遊んでた時に…うん。まぁ、落ちた年が年だし、一人じゃ生きていけない。そこで、私を引き取ったのが玄武爺なのだ。
そして、玄武爺の手伝いという形でこの異世界課で雑用をしている。
「おぉい、ハルカ居るかー?」
玄武爺にお茶を出していると、窓口で誰かが呼んでいる。見ると2m以上の大男、鬼族のバラギさんが立っていた。
真っ赤な皮膚に赤茶色の髪。口から覗く犬歯は鋭く、額から角が2本生えている。
「どうしたんですか?ココに来るなんて珍しいですね」
バラギさんは、ここの職員ではない。なので庁舎の中で出会うのは大変珍しかった。
「うむ、仕事だぞ」
「…!」
仕事。つまり、異世界から誰かが落ちてきたという事だ。
バラギさんに案内されて、庁舎に併設されている病院へ向う。落ちた人はまず最初にココへ運ばれる事になっていた。バラギさんはこう見えて看護師なのだ。
庁舎の医務室はとても広い。何せ、様々な人種?が働いているのだ。バラギさんのように大柄な人でも使えるようなサイズになっている。
「落ちた人はどこです?」
「こっちだ。種族はおそらくお前と同じ。まだ目を覚ましていないから、詳細はわからねぇな」
部屋に入ると、そこに寝かされていたのは黒髪のきれいな女性だった。バラギさんには扉の外で待機してもらう。相手がどんな人種か分からないので、防護術を展開しておく。これは、その中に入ると誰も危害を加えることが出来なくなるというもの。玄武爺から仕込まれた術の一つだ。
そっと、女性の手に触れて覚醒を促す。これも術の一つ。
「ぅ…ん」
女性が目を開いた。瞳の色が真っ赤だ…同郷人ではなさそう。
「?!何者だ!!」
女性は起き上がると同時に何かを手から放とうとした…が、防護術の効果でなにも起こらない。
「まずは落ち着いて下さい。私は貴女に危害を加えるつもりはありません。私の言葉はわかりますか?」
「このような場所に連れてきて何をするつもりだ?!」
「えぇと、言葉はわかります?私の言葉」
「くどい!わかっておるわ!我の質問に答えよ!」
「あ、良かった。通じてますね。えーと、まず落ち着いて話を聞いてもらわないと、なにもお答えできません」
「くっ…」
「落ちたばかりですし、まずは状況を整理していきましょうか」
「おちた…?状況…?」
落ちたての人は誰もが興奮状態にあるので、まずは冷静さを取り戻してもらう事が必須だ。でなければ、何一つ理解してもらえないからね。
こうして、カウンセリングを行うのも異世界課の大切なお仕事です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます