第4話 舞と麗奈(舞視点)

「舞ちゃんまだレベル2なんだ〜。ぷぷぷ、ゴミね」

 麗奈れなはあからさまに私を見下してそう言った。


 麗奈は同じ中学校のクラスメートだった。過去形なのはもはや学校に通っていないからだ。私だけじゃない、生徒の大半は学校に通わずに働いてマカを稼いでいる。


 ダンジョンや魔物の知識を学習できない学校に行っても時間の無駄。どれだけ学歴が高くてもレベルが低ければ誰も尊敬してくれない。


 麗奈は私を逆恨みしていた。彼女が好きだった男子が私が告白したのだが、あっさりと私が断ったのが気に入らなかったようだ。彼女は妙にプライドが高い。それでも特に害はなかったからあまり気にも掛けていなかった、「シューターズ・クラウド」が出現したあの日までは。


 麗奈の父親は警官だったが、「大変異」以降の社会でみるみるうちにレベルを上げっていった。しばらく経って、彼は人を殺してレベルアップをしたという噂が立ったけど、実際のところはよくわからない。ただ、天使が東京を治めるようになってからはあまりレベルが上っていないので、有り得る話だと思ってる。


「麗奈ちゃんはレベル12なんだね。すごい!」

 本当は顔に唾を吐きかけてやりたいが、私はおべっかを使った。こんな自分が本当に嫌だ。だけど、下手に逆らったら母と姉に迷惑をかけてしまうかもしれない。


 麗奈の父親が大量のマカを娘に与えているので彼女はレベルが高い。かなりの親馬鹿らしい。ちなみに家は母子家庭だが、麗奈の家は父子家庭だ。


 麗奈の母親が亡くなったのはごく最近で、麗奈の父親は容疑者のひとりだった。が、政府が崩壊してしまったので、そのような小さな事件は有耶無耶のまま放置されている。


 東京は天使の直轄地なのだから、彼女に襲われる心配はあまりないのだけど、10倍近いステータス差がある人と相対するとプレッシャーがすごくて気分が悪くなる。


 それに彼女の父は現在では天使軍に属しているから、ひょっとしたら職権乱用で闇から闇に葬り去れられてしまうかもしれない。実際にそんなことができるかどうかはわからないけど、麗奈はそんなことを仄めかして暗に私を脅迫するのだ。


「ダンジョンでちょっと頑張ればレベル12なんてすぐよ。まぁ、ダンジョンに行ったことがないアナタにはわからないでしょうけどー」

 麗奈はそう言って長い髪を書き上げた。一挙手一投足がいちいち癪に障る。


「知らなかったー。そうなんだー」

 私は醒めた声で相槌を打った。


 彼女の父親は久我山ダンジョンポータルの守備隊長だという話だ。どうやら職権乱用で自分の家族を無料で入場させているらしい。他にも黒い噂はあって、賄賂として300マカほど麗奈の父親に払うと非正規ルートで入場できるという噂だ。

 腐敗している。この国はもともと腐敗していが、天使がトップになっても直らない。


「やっぱり天使軍に入らないとダメね。運送業ってたしかに実入りは良いみたいだけど、すぐ死ぬからー。アナタのママも時間の問題ね。私に土下座して頼むんだったらー、天使軍の人事部を紹介してあげても良いんだよー?」


 今まではヘラヘラと笑って聞き流していたが、流石に頭にきた。


 私はママを尊敬している。「シューターズ・クラウド」が出現してしばらく経つと、家の近所にも魔獣化した動物たちが跋扈するようになった。それを撃退して治安を維持した中心人物がママなのだ。ママは魔獣との戦闘を通して自力でレベル13まで上げて、その後エンジェリック・トランスポーテーションで働くようになったのだ。


 輸送中に魔物や盗賊などに襲われる可能性がある危険な仕事だが、運輸業無しでは生活が成り立たないのだから誰かがやらなければならない重要な仕事だ。


「ママは平気だから、ご心配なく!」

 私はそう叫んで、その場を立ち去ろうとした。


「なによ心配してあげたのに、その態度は!? レベル2の分際で生意気よ!」

 麗奈は怒りの形相でそう叫んだ。


 私は必死で逃げた。

 振り返ったらすぐそこに鬼のような形相の麗奈がいるのではないかと思うと生きた心地がしなかった。

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