第24話 進化準備完了

 翌日も明るい時間は鬼人館の入り口で効率の良い狩りをして、夜になると闇騎士を求めて徘徊したが闇騎士は見つからない。これはひょっとしたらもうリスポーンしないのではないのだろうか?


 地下22階でふたたび闇騎士に遭遇したのでリスポーンするものだと思いこんでいたが、あの時はフクロウ組を結成してもらった直後に現れた。


 つまり「闇騎士を倒したことがないパーティがいたので出現した」のではないだろうか? あるいは「パーティメンバーに闇騎士を倒したことが無い者がいる」みたいな条件があるのかもしれない。


<闇騎士の出現条件については十分なデータがありません。が、その可能性はあります>


 ソフィアにもハッキリはわからないようだ。


<「この階層ではもう馬は手に入らないかも知れない」>

 俺は自分の考えを詩織に説明した。


「うーん。ひょっとしたらそうかも知れませんね。でも、ここでの狩りは効率が良いから、お屋形さまもすぐに進化できそうです。ボスを倒すのは進化してからにしたほうが良いのでは?」

 

 確かに。どうせボスを倒した後ですぐに進化するのならば、進化してからボスと戦ったほうが良いだろう。俺が『進化のコクーン』に入っている間に、他のメンバーのレベルも上がる。そのほうがよほど安全で賢いような気がしてきた。


 結局、その日も鬼人館で狩りをした。鬼人達がリスポーンするまでの時間は近所に出る巨人兵を狩ってさらに効率を高める。15時間近く戦い続けて一日580万マカの最高記録を叩き出した。


 遭遇する敵を倒しながら、街に向かっていると進化の準備が整った。夜だと言うのに闇騎士の気配はどこにもなかったので、恐らくこのメンバーで探し回ってももう出会うことはないのだろう。


 せっかくなので宿屋で1番良い部屋を借りてそこで進化しようと思ったのだが、詩織が俺を引き止めた。


「ガラガエルさまが進化する前に自分のところに立ち寄るようにって言ってました」

「え、いつ?」

「5〜6日前です」

「まるで俺がこの階層で進化することを知っていたかのようだな」 

「何時になっても構わないので必ず来るようにと言ってました」


 あまり気が進まないが、守護天使の要望を無視するわけには行かないので、広場の噴水前にガラガエルを訪ねた。真っ暗になった町の広場で、スポットライトのように街灯で照らされたガラガエルがぽつんと突っ立っている。不気味だ。


「おいレオナイトのファック野郎、お前ここでファッキン進化しろや」

「いや、宿でしようと思っていたんですが」

「あ!? 俺はファッキン魔族担当なんファック。だからこんなファッキン糞鎧をファックさせられてるんファック。魔人に進化ファックんだったらファッキン俺の前でファックや」


 だいたい何が言いたいんだか分かるようになってきた自分が怖い。どうやらガラガエルは魔族を担当する天使なのでガーマの鎧を着るはめになったようだ。担当者なので自分の目の前で進化しろという主張らしい。


「それって魔人に進化したらガラガエルさまに討伐されてしまうって意味ですか?」

 魔族担当ってことはその可能性もある。そうなってしまうと勝ち目がないので天人てんじんに進化したほうが良いだろう。


「ファック? そんな訳ねぇファック! 見守るだけだっつーファック」

 どうやら攻撃を受けることはないようだが、正直言って嫌だ。ラクスティーケやミルチェルならば嬉しいが、ガラガエルに見守られてもね……。


 しかし断るのは難しい。敵視されるようになったらかなりやっかいだ。


「わかりました……」

 押し切られてしまった。レベル46になって強くなったとは言え、相手はステータス10万前後の化け物だ。勝ち目はない。まぁ、確かに彼が見守っていれば、安全は安全なんだろうけど……。


「ついにレオニャも進化するのきゃ。楽しみだにゃー」

「お屋形様が進化している間もしっかりとマカを稼ぎますゆえご安心ください」

「鬼たちとの戦闘も馴れたから、オヤカタサマなしでも勝てるだろう」

 みんな感無量といったような表情だが、詩織の表情だけが心なしか硬い。


「やっぱり屋外だと恥ずかしいから宿で——」

 と言いかけたが、ガラガエルが険しい表情で睨んでくる。

 俺は観念して進化の種3つを一気に飲み込んだ。

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