第56話 猫人アヤさん爆誕

 今の俺の動体視力は人間離れしている。その動体視力でもまともに捉えることができない程のスピードでそのは闇騎士を吹き飛ばし、連撃を加えていく。


「アヤさん……なのか?」

 闇騎士と戦っているのは猫型の獣人だった。

 背は俺よりも高いぐらいだ。2m近くあるだろう。

 背中や下半身は長い毛に覆われている。

 

 アヤさんの変化を唖然として眺めている俺に魔馬の【闇ブレス】がヒットする。俺は我に返ってMPを使い切るまで【閃光刃レイディアント・スラッシュ】を連続して放った。削り切ることはできなかったが残りHPが二桁になり、魔馬は身動きが取れなくなっている。


「アヤさん、これを使ってくれ!」

 俺はそう叫んで『密蔵の篭手』をアヤさんに向かって放り投げる。『密蔵の篭手』はまるで真の主を見つけたかのようにアヤさんの両腕に半ば自主的に装着された。


アヤさん 

種族  猫人みょうにん(獣人)

レベル 31

HP  1683/1683(+336)

MP  1002/1002(+200)

膂力  1688(+337)

体力  1622(+324)

知力  946(+189)

素早さ 2884(+1442)

器用さ 698(+139)

直感  1360(+272)

運   1007(+201)

スキル【炎咆哮フレイムロア(ユニーク)】【獣化+1】【咆哮+6】

   【乱撃爪+6】【破転爪+5】【破転蹴+1】【絶牙+4】【無詠唱+7】

   【念話+4】

魔法 【火+6】【風+4】【水+2】【氷+3】【土+5】【雷+3】

   【光+2】【回復+4】【補助+2】

耐性 【物理+6】【精神+6】【毒+6】【麻痺+3】【石化+1】

   【火+6】【風+4】【水+3】【氷+3】【土+4】【雷+3】【光+2】

 

獣王の首輪(※能力を発揮するために必要な要件を満たしていません)

種類    アクセサリー

クラス   レジェンダリー

アビリティ 素早さ50/100%向上(30%上昇)、その他ステータス25/50%向上(15%上昇)、HP自動回復毎分25/50%(15%上昇)


『獣王の首輪』をかなり使いこなせるようになっためステータスの上昇が凄まじい。

『密蔵の篭手』を装備すると同時にアヤさんは両手に氷属性をエンチャントした、長さ60cmほどの氷の棘が指の延長線上に発生する。目で確認できるほどに属性強化された氷の爪だ。

 すでに回復していた詩織はアヤさんに補助魔法を掛け、続けざまに闇騎士に防御力減少のデバフを掛ける。


 エピック防具を全身に身に着けた、闇騎士は異常に硬い。

 アヤさんが放った怒涛の連撃を受けたというのに未だにHPは半分以上残っていた。自分に向かって突き進んでくるアヤさんに対し、闇騎士は【破荒突き】で対抗する。近接武器の攻撃とは思えないほど射程が長く、そして疾い。


 しかしアヤさんはスピードを緩めずに斜め前方にぎりぎりのタイミングで回避しながら【炎咆哮フレイムロア】を放った。元々はアヤさんのオリジナル技『火炎咆哮ブレス』だったが、進化に伴いユニークスキルの【炎咆哮】に昇華している。


 ソフィアによるとユニークスキルは通常スキルを+10まで育てた場合よりも更に強力だという。闇騎士の火耐性は高いがそれでもHPを500以上削られ、【破荒突き】を放った直後の状態で硬直する。


 2倍増された氷属性が付与されている【乱撃爪】が8回連続で闇騎士にヒットする。しかし闇騎士はしぶとい。まだHPが残っている。


 アヤさんは息付く暇を与えずにサマーソルトのような新スキル【破転蹴はてんしゅう】を放って敵を空中に大きく蹴り飛ばす。そしてドリルのように回転しながら跳躍すると、闇騎士の喉笛に噛み付いて【絶牙】を放ち闇騎士を屠った。


 強い。闇騎士を一方的に蹂躙した。

 無論、詩織が与えたバフやデバフの効果もあるし、闇騎士がすでに下馬していたということもあるのだろうが、凄まじく強くなっている。


 そして美しい。

 俺は進化して猫人となったアヤさんの姿をまじまじと眺めた。

 人間の姿に猫耳と尻尾が生えただけという訳ではない。

 もっと本格的なケモナー仕様だ。顔と胸部と臀部でんぶを除いて全身が三毛の長毛に覆われている。


 剥き出しになった乳房の数が2つなのを確認して俺は安堵した。猫成分が強く出すぎて8つになったらちと困る。

 乳房はそれほど大きくないが形は素晴らしい。重力を完全に無視するかのように斜め上をむいている。アヤさんは動き回るのであまり大きすぎると不便だろう。大きさは詩織が担当しているので問題ない。


「アニャイは猫人みゃうにゃんアヤさんにゃ。今後ともよろしゅーにゃ」

 アヤさんは口元を大きく開いてニヤリと笑いながら自己紹介した。


「アヤさん……」

 感動して二の句が継げない。

「アヤさん、カッコいいです!」

 すると詩織が大声で補足してくれた。


「にゃー」

 アヤさんは上機嫌だ。四つん這いになって尻を持ち上げ「ポンポンおねだり」のポーズを取る。


「いや、人型になったんでちょっとそのポーズはエロいんですが……」

 そう呟きながら尻尾の付け根をポンポンとリズミカルに叩く。

「にゃー、そこいーにゃー」

 確かに話せるようになったが、コミュニケーション自体はあまり変わっていないような気もする。だが、その御蔭で本当にアヤさんが進化したのだと実感した。


 敵は【闇騎士の足甲】というレリック装備をドロップしていた。素早さと直感が40%上がる。身につけていたのは全身エピックなのにドロップするのはなぜかレリックの足甲だけという不思議な現象だが、そういうものだと思って受け容れる。


 全部位の闇騎士シリーズを揃えると揃え効果で「闇攻撃無効」「物理耐性+3」「闇魔法+3」に加え「攻撃で敵HP吸収」という効果が付くようだ。見た目がカッコいいので俺がもらうことにする。アヤさんには『韋駄天の足高』があるし、今の詩織の格好でこれを付けるとトータルコーディネートが台無しだ。


<魔馬をテイムできるかもしれません>


 ソフィアにそう言われて、瀕死のまま放置されていた闇騎士の愛馬のことを思い出した。馬よりも先に主人を倒すとテイム可能になるのだという。


 なるべく上等なアイテムで回復したほうがテイムの成功確率が上がるようなので、思い切って最後のエリクサーを魔馬の身体に掛けてやった。

 すると、馬が召喚魔法の巻物スクロールに変化する。


<召喚獣とするには名前を付ける必要があります>


 うーん。黒鹿毛の牡馬か。懐かしの名馬2頭の名前を足して「スペシャル・クリスエス」とか? ちと長いな。スペクリ? 響きがいまいち。「シャルエス」はどうだろう? 悪くない気がする。


 MPがちょっと足りなかったので宮殿の前まで歩いてから召喚する。こんな時でさえマジックポーションを節約するとは我ながら貧乏性だ。


「いでよシャルエス!」

「ヒヒン!」


 おお、これで俺も馬持ちか。ちょっと騎士っぽくなったな。


 地下22階に随分と長居したが、アヤさんも戦線復帰したし明日からは地下23階だな。すでに日付が変わってるから、今日からか。

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