第16話 謎解きと罠
食事が終わり、水魔法を使って食器類を洗っていた時に不意に宝箱の後ろにある壁が目に入った。なぜ今まで気が付かなかったのだろう? すこし色が違う。
俺はその壁の前まで歩き、手に持っていた棍棒で壁を叩く。すると奥にあるもう1つの部屋が顕になった。隠し扉を開けて入った場所にもう1つ隠し扉がある、というのは割りとよくあるパターンだ。いままで見落としていた自分が情けない。
棍棒を放り投げ、『天魔のハルバード』に持ち替えて中に進む。先程までいた部屋と同じぐらいの大きさだが、中には何も置かれておらず魔物もいない。額装された1枚の絵が正面の壁に飾られているだけだ。
絵の下にあるプレートには『ミノタウロスの王』という題が書かれていた。軍団を率いた巨大なミノタウロスがドラゴンと戦っている様が描かれている。
ミノタウロスって単体のモンスターってイメージだったけど、種族扱いっぽいな。
わざわざ隠し扉を用意していたのだから、絶対にこの部屋になにかあるはずだ。絵を動かすことができないか試してみると、あっさりと取り外すことができた。絵に隠されていた場所は窪みになっていて台が置いてあり、台にはちょうど先程拾った魔石が入るぐらいの大きさの半球状の凹みがある。
「なるほど……そういう仕掛けか」
俺はそうつぶやきながら、アイアンボアの魔石をそこにはめ込んだ。
「ゴゴゴ」
鈍い音を立てて、左側の壁が沈んでいく。
壁の向こう側には黄金色に輝く通路が現れ、その奥にある小部屋に宝箱が置いてあった。これまでに見た宝箱の中で一番大きく、宝石が散りばめられており豪華だ。まばゆい光を放って輝いている宝箱をみて俺たちは興奮した。
「よっしゃー!」
「ニャーッ!」
嬉々として、宝箱に向かって駆け出す。
いったい何が入っているのだろう? 逸る心を抑えられない。
だが廊下を数歩進んだところで突如足が空を切った。
「!?」
一瞬パニックになりそうになったが、すぐに状況を理解した。
落下している……罠だったのだ。
振り返ってみれば、壁の色の違いはちょっとわざとらしかったし、隣の部屋で簡単に入手可能な魔石がキーアイテムになってるのもちょっと不自然だ。謎を解いたと勘違いさせておいて罠に突き落とすという狡猾な手法だ。
「アップドラフト!」
落ちた時の衝撃を和らげるために俺は風魔法を使って上昇気流を発生させた。そしてサーコートの前裾を両手で広げて、できるだけ落下スピードを軽減させる。
かなり深い穴のようだが、そのおかげで魔法を放つ余裕が生まれた。落下スピードは若干落ちているとはいえ、それでもまだかなりのスピードだ。すごい勢いで地面が眼前に迫ってくる。
恐ろしいことに地面には数十本の槍が上向きに埋め込まれていた。単なる地面でも普通は死ぬのだから随分と徹底している。
「アヤさん、土!」
俺が叫ぶと同時にアヤさんが土魔法を発動して落下地点を埋め立てていく。間に合うかどうか微妙なタイミングだ。俺は最大限の集中力を発揮して上昇気流を強化した。
「ガツン!」
インパクトの瞬間に魔力を体に流して硬化したが、強烈な衝撃が全身を襲う。上向きに設置された槍は完全には埋まっておらず、少し突き出ていた穂先の部分が腹に突き刺さる。
「ぐあっ!」
激しい痛みに耐えかねて俺は思わず叫んだ。ほぼ同時にアヤさんも「ギャッ!」と叫び声を上げる。だが、叫ぶことができているということはまだ生きているということだ。
俺は立ち上がろうともがいたが、無理だった。体が言う事をきかない。ブルブルと震える手をなんとか動かして、マジックポーチからハイポーションを取り出して飲み干す。
回復すると同時に立ち上がって、すぐにアヤさんにもハイポーションをふりかけた。ハイポーション1本では全回復しない。ポーションとマジック・ポーションを追加で飲んで、ようやく通常状態に戻った。
ギリギリだった。HPの9割ぐらいは持って行かれたに違いない。ゴブリン部屋に閉じ込められて強制的にレベルアップしていなければ、恐らく即死だっただろう。
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