第6話
しばらくして、祖父が部屋から出てきました。祖父はなにも言いませんでした。タオルと着替えを抱えたままの私から、タオルをとり、頭をふいてくれました。それからあたたかいコートを私に着せて、「今日はおかえり」と言いました。
祖父に促されて、私は外にでました。外は悲しいくらい晴れていました。まだ涙が頬あたりにわだかまっていました。家に帰るまでに泣きやまなければ、と私が鼻をすすった時でした。
祖母の部屋に続く窓が目に入りました。ここから、いつも翔は窓をたたき、祖母に声をかけていたのかと思うと、悲しくなりました。
そこで私は目を見開きました。
足跡を見つけたのです。
ぬかるんだ地面に、小さな足跡が、家の門から祖母の部屋の窓のところまで、ずっと続いていました。
私はその足跡を見て、急いで家に帰りました。
家に帰ると、翔の姿を探しました。私たちの部屋へ入ると、翔は布団の中で寝息をたてていました。母がそばにいて、しっと口元に指を立てました。
「翔は外にでた?」
私が尋ねると、母はいぶかしげに、
「なに言ってるの。外なんてとんでもない。ずっと寝ていたわよ」
と答えました。私は混乱しました。しかし、そこで、母に濡れた服を見咎められ、着替えさせられました。
着替えて母がお茶を温めてくれている間、私はふらふらと玄関に行って、翔の靴を見ました。靴の底はなにも汚れていませんでした。
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