第12話 妹と学校から帰った
「大丈夫?はい。これ使って」
憐れんだ顔をした植野から一枚のタオルを受け取り、俺は濡れた髪の毛と顔を拭いた。
受け取ったタオルからは柔軟剤の芳しい香りが漂っていて、感触もふわふわしていて心地が良かった。
「タオルありがとうな」
「別にいいよ」
俺からタオルを受け取ると、それを見ていた茶髪で短髪の如何にも運動部に所属していそうな容姿の植野の友達は少し驚いた表情をして俺ら二人に喋りかける。
「久野原君と付き合ってるの?」
「馬鹿!そんなわけ……」
「そ、そうだよ……」
友達にからかわれて顔を真っ赤にする植野。俺も同じく恥ずかしさで頬が熱くなってるのを感じた。
その様子を見た植野の友達はニヤニヤしながらさらに畳みかける。
「だってさー。普通好きでもない男の子にタオルを貸さないよ?」
「だから違うって言ってるのに!!」
「そ、そうだよ……俺と植野は幼馴染!!」
顔を下にして恥ずかしがる植野と俺。それを見て「初々しいねー」と言いながら僕ら二人を見つめる。さらにその後植野の友達は植野に耳打ちをすると「馬鹿!何言ってるの!?」と顔をさらに真っ赤にしていた。
「何を言ったんだよ……」
「へへへ内緒~」
この女子生徒本当に道理を聞き分けないな……。友達の植野だって困ってるじゃないか……。ここは俺が強く言っておくべきか。そう思って声を出そうとすると。
「じゃあ二人でごゆっくり~」
「だから違うって言ってるだろー!?」
その場から空気を読んで走り去って行く植野の友達に強く言いつけるように叫ぶが、かなりのスピードで走っていて聞こえていないようだった。
あの女子生徒名前なんて名前だ?今度会った時は覚えてろよ……。
「なんかごめん」
顔を下に向けた植野へ謝罪の言葉を投げるも返事はなかった。ていうかなんで俺が謝らなきゃいけないんだよ、元はと言えばあの女子生徒のせいなのに……。
「別に……じゃないから……」
「え?」
「久野原の彼女って思われるのが嫌じゃないって言ったの!!」
急な大声に驚き尻もちを付きそうになるがなんとか踏ん張る。それにしても最初に小声でぼそぼそと言うのはなんなんだ?
唖然とした様子でいると植野は顔を真っ赤にしながら教室へ戻ろうと僕の前を通ろうとするとすれ違いざまに植野は一瞬俺の顔を見て口を開いた。
「クレアさんには負けないから……」
「いやだから、クレアとはそんな関係じゃ……!!」
俺はそう言いかけるも、もう遠くとへと走り去った後だった。なるほど、なんとくなくわかってきた気がする。お昼に俺の教室に来たのも今日の朝のクレアと密着していたという噂を聞いたから、その真相を確かめるにために来たんだろうな……。
あの友達には「このままじゃクレアさんに取られちゃうよ?いいの?」とかそそのかされてそうだ。
だが何はともあれ誤解を解いておく必要がありそうだ。このままだと取り替えしのつかないことになってしまいそうな気がして仕方がない。
もういっそのことクレアが妹になったと言う事を話してしまうか……。どうせバレるんだろうから今のうちに話して楽になったといた方が良さそうである。それと父さんから頼まれた事は秘密で通すように言っておかないと……。アイツが知ってしまえばクレアと対立して今後の二人の関係に亀裂が入ってしまう。それだけは避けなければいけない道だ。
こんな事になるなら植野には最初に話しておくんだったな。後悔先に立たずとはこの事か……。
「へっくしょん!!」
大きなくしゃみをすると急に悪寒が襲い掛かってきた。やばいこのままだと風邪を引く……早く戻って着替えよう。俺は急いで教室へ戻ったのだった。
気が付くと俺は机の上でうつ伏せになって寝ていた。そういえば体育の後の授業で急な眠気に襲われてそのまま寝てしまったんだっけ?辺りを見渡すともう他の生徒は帰っていて自分一人のようだ。
やばい俺も帰らないと……。立ち上がって教科書類を片付けようとすると急な立ち眩みとめまいに襲われ倒れかけてしまう。マジで風邪引いてしまったのか?水を浴びてそんなに時間が経ってないように思うんだが……?そうはいっても悪寒とだるさもある……。だけどこれくらいなら……。俺は気力を振り絞って教科書をカバンに片づけ、カバンを背負い教室を出ようとすると、ばったり教室に戻ってきたクレアと鉢合わせる。
「ようやく起きたんだねー友太君」
家にいる時と同じ砕けた口調で話すクレアに俺は慌てた口調で言う。
「馬鹿! 学校ではその口調で……」
「でも、もう殆ど生徒の皆はいないよ?」
「嘘だろ? 何時?!」
「5時半過ぎたところだけど」
どおりで空が真っ赤に染まっていて陽も沈もうとしているわけだ……。かなりの時間眠っていたんだなと頭を抱える。このまま教師にも見つからなかったら学校の中で閉じ込められていただろう。
「お前何で学校にいるんだ?」
「ちょっと、先生が教材運ぶの手伝って欲しいって言うから手伝ってたー」
笑顔でそう答えるクレア。転校してまだ日が浅い生徒に手伝わせるなんて性の悪い先生だな……。
「友太君、一緒に帰ろ?」
「あ、あぁ……」
一瞬ダメだと言いかけたが、まぁほとんど生徒も残っていないだろうと思い承諾する。一緒に歩いてるの見られたらまずいなぁとも考えていたがクレアは「校門で待ってるねー」といい走り去って行ってしまった。まぁ校門で落ち合うならいいか……。俺はふらつきながらも校門へ向かうのだった。
校門を出るとスマホで誰かとLINEをするクレアの姿があった。夢中になっているクレアへ「おまたせ」と声を掛けるとすぐさま振り向いて「じゃあいこっか」といい並んで歩き始めた。
「ほんとお前学校にいる時と違うよな」
俺はずっと疑問に思っていたことを投げかける。学校と家では猫を被っているかのように別人に見えるからだ。
「そ、そうかなー?」
「なんか学校ではお上品な女の子というか……」
「ほんとに? 私お上品な人に見える??」
そう言って俺の顔に自分の顔を近づけ来るクレア。それに対して俺は少し緊張しながら「見える」と答える。
「やったー!」
「そんなに嬉しいのか?」
子供の用に飛び跳ねて喜ぶクレアに対し、呆れ果てた表情をしながら聞く俺。というかスカートが短いからあまり飛び跳ねすぎると見えるぞ?
「うん、立派な英国淑女を目指すために日々努力してるもーん」
「英国淑女って……」
クレアはスカートの両端をもって少し上げまるでお姫様がする挨拶時のような格好をする。それはやばい……それ以上上げるとマジで見える!!ステイステイ!!
「あー、もう少しで見えそうとか思ってるでしょ?」
「んなこと……」
「本当に?」
顔を近づけてきたクレアに、俺は顔を赤くして答える。そうするとクレアはニヤリと口を緩めて俺に小声で耳打ちをする。
「ねぇ……?昨日のあれ履いてるよ?」
「ば、馬鹿!!!」
「冗談、冗談ー流石に恥ずかしくて学校には履いて行けないよー」
ベロを小さく出して「Just kidding」と流暢な英語で喋った。本当に冗談だよな?とは言っても流石にクレアの性格じゃ恥ずかしくて無理か……。というより流石にあの下着を履いて行くのは例え義妹であってもお兄さん許さないからね!!
「というか、顔真っ赤だけど大丈夫?」
「お前が変な冗談を言うからだ!!」
「てへへへ……」
とは言っても俺の体はもういつ倒れてもおかしくないくらい弱っていた。でも流石にここで倒れるのはまずい……!!なんとか家までもたせないと。
「ところでスーパー寄って行くんだけどいいよね?」
「いいけど」
「じゃあ帰りに買い物袋持ってね」
「わかったよ」
「わーい、じゃあ早く行こうね!!」
クレアはそう言って俺の手を握り、スーパーマーケットまで引っ張って行くのだった。てか、家までもつよな?俺……。
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