第7話 妹のパンツを見た

「おい!なんなんだあの弁当に入ってたおにぎりの形は!」

「何って、ハート型でかわいかったでしょ?」


 家に帰り、キッチンの前に立ち煮物を作っていたクレアへ金切声を上げる俺に笑顔で答えるクレア。


 キッチンに立つクレアは白い布地でピンク色のハートがプリントされたエプロンを制服の上から付けており、髪は料理の邪魔にならないように後ろで束ねられてポニーテールになっていた。


「かわいかったけど……植野と小原に変な目で見られたんだが?」

「そ、そうなの?」

「そうだよ!! だからハート型はもうやめてほしいんだけど」


 可愛い妹がせっかく作ってくれた弁当にケチをつけるのはとても心苦しいが、小原には変な目で見られるし植野に至ってはもう少しのところでバレるところだった。

 

 今日のところはなんとか振り切れたが、これが毎日続くようでは対処しきれない。

 

「わかった明日からハートはやめるね……」

 

 あれ?意外と素直に受けて入れてくれたな、もっとなんで?とかかわいのにーとか言って駄々をこねそうとか思っていたが、素直に受けて入れくれて良かった。と胸を撫でおろす。


 キッチンから立ち去ろうとすると、クレアから忍び泣く声が聞こえてきた。


「そうだよね……友太君がダメって言うなら仕方ないよね……」


 振り向くとクレアが目に涙を浮かべて鍋をゴムヘラで何度も同じ場所をかき混ぜていた。


 なんだろう?この罪悪感……すごく胸が苦しくなってくるこの感覚……。泣いてしまうってことはよっぽどハートが好きなんだろうと思われる。それを俺は一方的に……。


「ごめん……」

「よろしい」


 俺がそう言った途端に晴れ渡るような笑顔を向ける。


 こいつ絶対噓泣きしてたな……。くそぉ!! 騙されたぁ!!


「ところで友太君ーご飯出来るまでにコインランドリーで乾燥してきてー?」

「なんでそんなこと……干せばいいだろ?」

「別にいいんだけどーそんな事をしてバレてもいいの?」

 

 ニヤニヤと笑いながら「いいのかなー?」と脅すように言うクレア。


 確かに俺の家のベランダに女性の服とかが干してあれば朝投稿する生徒に怪しまれてしまう。


 まぁそうならないためにもコインランドリー乾燥機を利用するのが最善策だろう。


「脱衣所に手提げカバンを置いてあるからよろしくねー」

「わかった」


 脱衣所に付くと自分の洗濯物を手提げカバンに入れる。相当な量がたまってるなぁ……。そういえばクレアが来てから洗濯してなかったけ……?


 そんな事を思いながら詰め込み終わり、2つのカバンを持ち上げるともう片方の手提げカバンから何かが落ちる。

 

 どうやら小さなピンク色の布ようだ。ハンカチか?と思って拾い上げる。


「ちゃんと入れとけよな……」


 落ちてぐちゃぐちゃになったピンク色の布をもう一度畳もうと思って広げると、それがハンカチではないことに気づく。


「パ……パンツ!?」


 それは紛れもなくパンツだった。小さなリボンと可愛らしい花柄の刺繍がされているものだ。いやいやなんだよパンツくらい普通じゃないか……。それくらいスーパで売ってるし普通、普通。


 そう思いながら畳むとお尻の方の布の面積がかなり小さいことに気づく。あれ?パンツってもっとこう包み込むような感じじゃなかったけ?


 だんだんとそのパンツが普通のパンツではないことに気づく、これってもしかしてTバッグと言うものなのでは?エッチなビデオとか、グラビアアイドルの表紙でとかでしか見たことがなかったが、まさかこんな形で本物を見ると事になるとは……。


 さすが外国人と言ったところだろうか?


「あれあれー? 友太君何見てるのかなー?」

「うわぁ!」


 振り向くと脱衣の入り口にニヤけた顔で立っているクレアの姿があった。


 それにしてもこの状況はやばい……。俺がクレアの洗濯物を漁ってパンツを広げたんじゃないか?と思われても仕方のない状況である。


「もしかして私がそれを履いて学校に行ってると妄想したー?」

「してねーよ!!」

「残念ー。でもそれ家にいる時用だから、学校には履いて行ってないよ」


 いやいやさすがにこれを履いて学校へ行くのは如何に義妹と言えでもさすがに容認することはできないぞ……。


 てか家用と言ったか?てことは家にいる時は高確率で履いてるって事!?


「あ、やっぱり妄想してるー」

「うるさい! 行ってくる!!」

「いってらっしゃーいー」


 俺は顔を真っ赤にしながらニヤニヤしているクレアの前から逃げるように退散していく。はぁ知らなければ良かった事を知ってしまった気分だ……。



 家から歩いて数分、スーパーの駐車場にある新しくできたコインランドリーへ到着する。


 前までは家から20~30分の場所にあるコインランドリーまで行っていて、とてもつらい思いをしていたのだが、最近新しくできたこのコインランドリーのおかげでもうそんな思いはしなくても良くなった。


 できてから初めて来たのだが、中は相当広くかなりの数の洗濯機や乾燥機が置いてあった。その中の一つに俺とクレアの洗濯物を詰め込みスイッチを入れた。さてこれで待つだけだ。


「久野原がコインランドリーって珍しいね」

「よ、よぉ植野」


 振り向くと黒い手提げカバンを肩に下げた植野が立っていた。突然の登場時に俺は少し焦りながら挨拶を返した。

 

「植野はコインランドリーよく利用してるのか?」

「使ってないけど、家の洗濯機が壊れちゃって……」

「へー」

「って、ちょっと! 私の下着もあるんだからあんまり見ないでよ!」

「あぁ!ごめん!」


 俺は慌てて目を逸らした。俺は下着と言われて家で見たクレアのパンツを思い出した。まさか植野も……。いやいやさすがにないか……。

 

「それにしても一人暮らしにしては洗濯物多くない?」

「ま、まぁね……」


 植野は俺の入れた洗濯機の中で回る大量の洗濯物を見てそう言う。


 回ってて良かった……。回ってなかったらクレアの洗濯物を見られてしまうところだった。と安堵する。


「まぁいいや、近くの喫茶店で何か食べない?」

「あぁ、別にいいよ」


 俺たち二人はコインランドリーを後にして近くにある喫茶店へ向かった。




 喫茶店に着いた二人はお互いに向かい合って座り、それぞれコーヒーとケーキーを注文する。


 それにしても今日の植野はいつにましても機嫌が悪いような?いつもは笑顔をあまり見せない寡黙なイメージの植野だが、今日はあからさまに機嫌が悪いとわかるくらいオーラのようなものを出していた。


「ねぇ」

「なんだよ」

「久野原私に隠し事してるよね?」


 唐突な意表を突く質問に俺は面食らって「なんで?」と返してしまう。


「だって久野原クレアさんが来てから様子がおかしいよ」

「そ、そうかな?」

「ほらその反応!! その反応が怪しいって言ってるの!!」


 珍しく声を声を荒らげる植野。やっぱりあの昼休みの時のハート型のおにぎりを見られた時の反応があからさまだったからそりゃ怪しまれるよなと思う。


「別に普通だと思うけど……」

「嘘だ……絶対何か隠してる!私久野原を幼いころから見てきたからわかる、何かを隠している時は言動がおかしくなるって」


 この状況はまずいな……。吐くまで帰してあげないぞっと言っているようだ。


 できればここで実は父さんが再婚してクレアが妹になったんだと言って、植野を安心させてあげたい気持ちは山々なんだが、クレアが俺の家に来た目的を聞けば、クレアと植野が対立してしまうのは目に見えていることだ。それだけ何としても避けなければいけない。


 だから今はクレアが妹であることは、クレアが目的を諦めてくれるまではなんとか隠し通したいのだ。


 さて今はこの苦境何とか乗り越えなければいけないのだが……、どうしたものか。


「あー!! やばいこの時間だー!! 帰らなきゃ!!」


 俺は携帯を取り出し、画面を見て言いながら立ち上がり店を退散しようとする。苦し紛れだが今はこの方法しか思いつかなかったのだ。


「待って!」


 店の入り口まで来た時植野に腕を掴まれた。さすがに逃がしてくれなかった?と覚悟を決める。


「もし何か悩みと不安があるんだったら絶対に私に相談してね」

「わかった」


 俺はそう言って喫茶店を後にする。何か逆の意味で誤解を生んでしまったようだが、まぁなんとかなってよかった。

 

 植野のあんな悲しげな顔を見たの小学校以来だな……。

 


 コインランドリーから乾燥させた洗濯物を回収しそれぞれ俺の物とクレアのものを分けてそれぞれの手提げカバンに入れる。植野が喫茶店から戻ってこないか内心ビクビクだったが、早い目に終わって良かった。


 植野もそうだが喫茶店にも悪い事をしてしまったな……。飲み食いしてないとはいえ注文してそそくさと出て行ってしまって、植野に今度お金を渡しておかないと。

 

 やっぱり、言った方が良かったんだろうか?植野の前から去ってから後悔の念が押し寄せてきた。いやもし言って今までの関係が崩れてしまうの嫌だ……。そう考えると言わない方が良かったのだ。


 今は……バレたくない……。






「ただいまー」

「友太君おかえりー」


 家に帰ると小走りでクレアが玄関にはやってきた。乾燥させた洗濯物を見せると「よくできましたー」と言いながら僕の頭を撫でた。いや……、乾燥機に入れてスイッチを押すだけだから……そんな褒められるものではないと思うけど……。


「ご褒美に明日あのパンツ学校に履いて行ってあげるー!!」

「それだけはやめて!!」


 俺は全力でそういうクレアを止めた。

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