第3話 妹が甘やかしてきた

 分け合った大盛のスパゲティーとサラダを食べ終えて皿を洗っていた。


 クレアはスマホでイギリスにいる親に連絡しているようだ。というかクレアは俺と同い年なんだよな、学校はどうするんだろうか?


「クレア学校はどうするんだ?」

「え? 友太君と同じ学校に通うよ?」

 

 そういや外国からの転校生が来るって言ってたような?それはクレアの事だったのか……。父さんも根回しがうまいな。


 いやちょっと待てよ?もし一緒に歩いて投稿していたらクレアと兄妹って事がバレるのでは?


「だから、友太君。明日は一緒に登校しようねー♡」


 一緒に登校しようねーって簡単に言ってくれるが、一緒に歩いていたら目立つし、学校中のうわさにもなる。もしかすると妬まれるかもしれない。


 そんな事になれば面倒な事になるのは目に見えている。それだけは阻止しなければいけない。


「いや、それだけはやめてくれ……」

「どうして……?」

「できれば少しの間俺とクレアの関係は秘密にしたいんだがダメか?」


 クレアはガッカリした様子だったが、秘密にしたい趣旨を話すと少しニヤっと笑った。


「意外と初心なんだね……」

「うるせぇ……」


 クレアは「可愛いー」と言いながら僕の頭を優しく撫でてきた。


 別に初心とかそういうのじゃない……単にバレた時のリスクを考えると今は秘密にした方がいいと思っただけだ。

 


 小原や植野には言っても良いのではないか?とも考えたが、小原にはいろいろとからかわれそうだし、不意に他の友達に言いふらしてしまいそうだ。


 植野に至っては、同い年の女の子と男の子一つ屋根の下で暮らすなんて、破廉恥だとか言われてしまいそうだし、何よりクレアの目的がバレてしまえば、どんなことを言われてしまうやら……。


「どうしようっか? 私が朝早く家を出れば良いかな?」

「そうだな、その方がいいや……」

「わかった。じゃあ、そうするねー」


 これで一緒に住んでることがバレるという事はなくなりそうだ。後は、学校で如何に他人の振りができるかだ……。




「ふぅ……」


 一息ついてお湯がはられた湯船につかる。本当に今日一日でいろいろとありすぎて疲れた……。この年になって兄弟ができるなんて思わなかった。嬉しい反面少し複雑な気分だった。

 その複雑な気分の要因は大きく分けて二つあった。


 一つは交友関係を作っていないことが親父にバレていたことだ。別に父さんに言う必要もないと思っていて何も言わないままにしていたが、流石は父さん。やはり気付いていた。


 まぁでも前まで大勢の友達を連れてきていたのに急に連れてこなくなったら怪しむし当然っちゃ当然か……。


 二つ目は父さんがクレアにもう一度俺に交友関係をもつようにしてくれと頼んでいたことだ。これに関しては俺は変わるつもりはないし、これからも変える気はない。

だけどクレアがどんな手を使って、俺を変えようとしてくるのかが不安だ。彼女はイギリス人だし日本人とは違う……。本当に何をしでかすが不安だ。


 本当に何も俺に説明しないままこんな事をしでかした父さんには後で電話で文句を言ってやらないと……。


 それにしても疲れた体に染みるなぁ……。


「友太君、背中を流そうか?」

「え……!?」


 突如脱衣所から響くクレアの声驚く俺、てかなんで脱衣所にいるの?


 あ、そうか……しまったぁ!!一人暮らしの癖が抜けきっておらず鍵を閉め忘れてしまっていた。これは不覚……。


「いや、いい!!」

「もうー、友太君は恥ずかしがっちゃってー」

「そんなんじゃない!!!」


 俺が湯船から立ち上がると同時に脱衣所のドアが開く。そこから出てきたクレアはバスローブ一枚だった。たわわに実った豊満な胸、そして同い年とは思えない大人の体つきをしていた。


 ……さすが外国人の女の子は成長が早いとかうわさに聞くが本当だったんだな。いやいや何を俺はぼーっと見つめてるんだ!!


「あれー? 友太君ー? 何私の体見てるの? いやらしい~」

「見てねぇよ!!」

「ほーら背中を流してあげるからー、こっちに背中向けてー」


 この状況は非常に危ない……。妹とは言え同い年同士の男女が裸でお風呂に一緒に入っているのは精神衛生上よろしくない。このままだと理性が……!!


 俺はタオルで大事な場所を隠し脱衣所でタオルと着替えを持って一心不乱に部屋へ走った。後ろから「湯冷めしちゃうよ~?」なんて聞こえていたがそれも無視して自分の部屋に戻った。


「なんなんだ……一体……」


 とりあえず風邪を引く前に濡れた体を乾かさないと……、それと濡れた廊下も拭かなきゃ。




 その夜、俺は夢を見ていた。


「いやぁぁぁ!! やめてぇぇ!!」


 目の前にいるのは、小学生の頃の植野。何人かの男子生徒が植野の周りを囲んでいて彼女を殴ったり蹴ったりしていた。

 今目の前で起こっているのはまごう事なきいじめだ。


「やめろ!!!!」


 俺は小学生の頃は正義感が強く、誰かがいじめられたり、仲間外れにされているのが許せなかった。


 それは植野も同じだ。だけど言動が強すぎるあまり度々トラブルを起こしてしまっていた。特に男子生徒との折り合いが悪く、このように逆にいじめられてしまい。僕が助けると言うのがセオリーとなっていた。


 だけど今回は違った。今までのヘイトが溜まっていたのだろう、いつも以上にいじめがひどかった。体中傷だらけで、顔や手からは血が出ていた。


「よぉ、久野原~いいとこに来たなぁ……」

「今から、植野に良い事しようと思ってたとこなんだよ」

「何……?」


 男の子は「ひひひ緊張するぜ~」とニヤついた顔をしながら植野スカートを捲りあげる。


「ちょ、ちょっと何をするの……? い、いやあああ!!」


 植野は突然の出来事に怖じ恐れ、抵抗しようとするが、もう一人の男子が暴れる植野の体を抑えつける。そしてあろうことか捲りあげた男子が植野の履いていた下着を脱がそうとしていたのだ。


「久野原~、お前もこっちに来いよ~楽しい事をしようぜ~?」

「お前ぇぇぇ!!!」


 それが僕の最後の記憶だった。気づけば僕はどこから取り出したのか手にナイフを持っており、男子生徒に馬乗りになってそのナイフを向けていた。

今でも思い出す。その男子の死の恐怖に陥っていた顔を……。


「はぁはぁ……」


 夢から目覚めた俺は飛び上がるように起き上がった。息は荒くなってるし、体は汗でぐしょぐしょだった。またあの時の夢を見てしまったかと頭を抱える。


 もう小学生の時の事だと忘れようとしていたが、時々このように思い出したかのように夢で見るようになっていた。やっぱりまだ……未練が……いやいやもう終わった事なんだ。いつまでも過去に縛られてはいけない。前を向いて今を生きなければ……。


 スマホを見るとまだ夜中の1時だ。とりあえず水を飲んで落ち着こうとリモコンで電気を付けた時だった。


「嘘だろ……」


 俺の隣にはいるはずのないクレアが小さく寝息を立てて寝ていたのだ。いやいやなんで?寝た時はいなかったはずだし……。


 それにさっき廊下を拭いている時に「どこで寝ればいい?」って聞かれた時は二階の父さんの部屋といったはずなのに。


 電気を付けたことで眩しかったのか、クレアは目を擦りながら目を覚ます。


「あ、友太君……」

「何で寝てるの? 二階の父さんの部屋って言っただろ?」

「だって、暗いところは怖いし、一人は寂しいんだもん……」


 クレアは少し涙をながらそう言う。くっ……このまま無理やり追い出してしまえばドアの前でギャン泣きされても困るな……。しょうがないか。


「はぁ……わかったよ……、今日だけな」

「やったぁ! 友太君ありがとうー」

 

 はぁ……女の子の涙にはめっぽう弱いんだよなぁ俺……。


 女の子と寝たことがない俺はすごくドキドキしていた。


 こんな事は生まれてこの方初めてなのでとても緊張していたのだ。すごい胸の鼓動が速くなってる……。落ち着け相手は妹だぞ……。血が繋がってない義妹だけど……。


「ところで友太君って私と同じ年齢なんだよね?」

「あぁ……そうだけど?」


 いきなり何を聞いてくるんだ?別にそんな事は関係ないと思うんだが……?


「誕生日はいつなの?」

「俺は4月だ」

「そうなんだ……、私は6月なんだよね……」


 がっかりした様子で自分の誕生日を言うクレア、ていうか妹だと思ってたけど誕生日が俺より早かったら姉という事になってたのか。


 てかなんでガッカリしてるんだろう?姉の方が良かったのかな?


「なんでガッカリしてるんだよ」

「私、実は甘やかせられる弟が欲しかったんだよねー、いっぱい抱きしめたり、ご飯を食べさせてあげたりしてあげられる弟がね」


 なるほどだからあんな風に植野よりも世話焼きな事をしていたのか……、別に俺をからかっているわけではなかったわけだ。

 まぁそれでも少しやりすぎな面もあるが、いいお嫁さんになりそうである。


 それにしても俺が弟だったらどうなっていたのか、皆目見当もつかない、兄で良かった。


「でも甘やかす妹もいいね」

「え……?」


 俺がそう返した時にはもうクレアは夢の中へと旅立っていった。さっき兄で良かったと安心したのも束の間。僕が兄でも甘やかしたいと言い出したぞ?


 妹に甘やかされるって……、それはもう駄目兄なのでは?


 それにしてもなんで甘やかしたいんだろうか……? まぁいいや今日は寝よう。

 俺もそのまま夢の中へ旅立っていった。

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