第2話 家にイギリス人の女の子が来た

 俺は呆然と玄関の前で立ち尽くしていた。とりあえず整理しよう。父は今イギリスにいます。イギリスで再婚しました。そしてその母方の方には俺と同じ年齢の女の子の連れ子がいます。その娘が日本に来たい!と言って俺の家に向かっています。いやいや展開が急過ぎる!!


 突然妹ができた事による驚きもそうだが、その娘が日本に向かっているという事への驚きが一番大きい。ていうか早く家の中へ入って掃除しなければ……。

 

 急いで家の中へ入ろうとした時突如として後ろから「あーーー!!!」という女の子の驚いた声が響いた。驚いてとっさに振り向くと先ほど道を聞いてきた銀色の長い髪の女の子が立っていた。


「えっと、どうかされました?」

「どうかされましたか? じゃない!! 君さっき嘘ついたよね!?」


 女の子は相当ご立腹のようで、頬を膨らませていた。というか嘘なんかこの娘についた覚えはないはずなんだが。


「俺なんか嘘ついた? 全く覚えがないんだけど?」

「本当に覚えてないの? さっきの事!」


 さっきの事と言えばこの娘が「ひさやはら」という人の家がどこか聞いてきたことであるが、それに対して俺は知らないと正直に答えており、何の嘘もついていない。


 うーん、知らないうちに嘘をついたのかな? 皆目見当もつかない……。


「ごめん、わからないや」

「さっき! 私がひさやはらって聞いたら知らないって言ったよね?」

「はい」

「で、他の人に聞いたら、あーその家はここよって教えてくれたんです、それで来てみたらさっき知らないと言った貴方がここにいて……」


あー、この娘は絶対勘違いしてる……、というか聞かれた人もよくひさやはらでわかったな。


「あのさ、これくのはらって読むんだよ、ひさやはらって聞かれたらわかるわけないよ」


 そういうと銀髪の女の子は納得した様子で「くのはらかー」と何度もくのはら、くのはらと呪文のように復唱していた。


「ごめんなさい、せっかく友也さんに聞いたのにうっかり忘れちゃってて……」

「ちょっと待って、なんで君が父さんの名前を?」

「え?だって友也さんは私のお母さんの再婚相手なんだよ?」




 家の中へ入りリビングに置いてある机に向かい合うような形となり座る、僕と銀髪の女の子。まさかさっき道を聞いてきた娘が父さんの言っていたイギリス人の女の子だったとは……。


「自己紹介がまだだったね、私はクレア・シルバーロックよろしくね、確か貴方は……」

「友太だ、久野原友太」

「友太君ね!覚えたー」


 道を聞いてきた時と違って砕けたような口調で話すクレア、あの律儀な時とのギャップの差は激しいな。これがギャップ萌え?と言うやつなんだろうか?


「クレアはいつまで日本にいるつもりなんだ?」

「ずっとだよ」

「ずっと!!??」

「だって友也さんに友太一人じゃ寂しいから支えてくれ~って言われて来たんだよ~」


 また父さんは余計な事を……、俺が寂しがりやだったという事を心配してくれたんだろうけど、今は別にそうでもないからな……。


 それにしても本当にそれだけなんだろうか?昔から父さんは秘密主義なところがあったので、クレアが来たのも他に目的があるんじゃないかと勘繰ってしまう。


「なぁ、本当にそれだけの理由でここに来たのか?」

「そ、そうだよ~」


 先ほどとは違い、顔から汗を垂らすクレア。この娘は間違いなく隠し事が苦手なタイプだなと悟る。


「言わないと、イギリスへ送り帰すぞ」

「そ、それだけは!!  話します! 話しますから!」

 

 慌てたように立ち上がって前のめりになり、目から少し涙を流しながら僕の体をゆする。冗談のつもりで言ったのにここまで本気にされるとは……。少し罪悪感が湧いて来てしまった。


「実は、出発前に友也さんに頼まれごとをされたの」

「頼まれごと?」

「友太君は小学生の頃に友達をたくさん引き連れて家に来たりしていたのに、ある時を境に急に一人になってしまったと、もしかしたら友太は友達を作らなくなってしまったんじゃないかって……、私に友太君を友達を作るように変えて欲しいって頼まれたの」


 父さんはやっぱり気づいていたか……、確かに俺は小学生の頃はたくさんの友達がいた。だがある出来事をきっかけに俺は今までいた友達と交友関係や人間関係をきり、一切の友達を作らなくなってしまった。何も言わなかったので気づいていないかと思っていた。


「頼みごとだかなんだか知らないけど、俺は変わるつもりはないし、これからも変わらない」

「で、でも! それじゃ一生の孤独のままになっちゃいますよ!?  それでもいいんですか?」

「孤独って大げさな……」


 別に俺は友達が全くいないわけではない、小原と幼馴染の植野がいる。気の合う友達さえいれば良いんだ。


「友達がたくさんいると楽しいですよ?  イギリスだと皆とパブにいったり、社交パーティーを開いたりするんだよ?」

「俺には興味のない話だな……」


 全くどいつこいつも、友達、友達って……、たくさんいても疲れるだけだろうに……。それに日本とイギリスでは文化も人柄も違うんだから一緒にしないで欲しい。


 ため息をついて立ち上がると、キッチンに置いてあったレジ袋から先ほどコンビニで買ってきた大盛のパスタを取り出す。


「友太君、自炊はしないの?」

「料理ができないんだよ」

「コンビニ弁当だけじゃ、体壊しちゃうよ?付け合わせのサラダ作るね」


 椅子から立ち上がろうとするクレアに、俺はレジ袋から一緒に買ったサラダを見せつける。野菜も取ってほしいということなんだろうが余計なお世話だ。


「コンビニの惣菜ばっかじゃん!じゃあ私が追加のおかず作ってあげるから……」


 来ていた長袖のワンピースの袖を捲り上げて、キッチンに歩いてきて冷蔵庫を開ける。そういえば冷蔵庫もう長い間開けてなかったけど大丈夫かな?


「ちょっと! 本当に何も入ってないじゃん!」


 冷蔵庫を覗きながらクレアは声をあげる。俺も冷蔵庫の中身を覗くといつ買ったかわからないペットボットに入ったお茶と水だけが入っていた。


「こ、ここまでとは……」

「なんかごめん……」


 思わず謝ってしまう程今の俺の状況にクレアは呆然としていた。


「よし! これからは私が友太の3食を作るよ!」

「マジで? それは嬉しいな……」

「うん、楽しみにしててね」


 丁度コンビニ弁当ばかりで出費もきつかった、父さんからの仕送りもあったがそれでも限界がある。クレアがどこまで料理ができるかわからないが、とても楽しみである。


「でも今日は無理そうだから、それ分けてくれる?」

「あー、はい」


 大盛のミートスパゲティをレンジで温めると、皿を二枚戸棚から取り出し均等に盛り付ける。


 あ、二人で分けたら丁度いい量になった。

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