第10話(3)ユニフォーム配布

                  ♢


「……というわけで戻ってきました」


 グラウンドで最愛が皆に向かって話す。


「良かった、良かった!」


 円が拍手する。


「練習を休んでしまって申し訳ありませんでした……」


 最愛が頭を下げる。


「ドンマイ! そんなの気にすんなって!」


 真珠が声をかける。


「アタシたちもサボりかけたからね……」


 雛子が苦笑する。


「というわけでキャプテン……」


 ヴィオラが恋に視線を向ける。


「そうね……最愛ちゃんだけでなく、皆に聞きにくいことを聞くんだけど……」


「? なんだよ?」


 真珠が首を傾げる。


「……敗北のショックは完全に払拭出来たかしら?」


「!」


 恋の問いかけに全員の顔がやや強張る。


「……どうかしら?」


「大丈夫です!」


「……‼」


 声を上げた最愛に皆が視線を向ける。


「一度や二度の敗北でいちいち挫けていられません! 次を見据えるべきです!」


「ふむ……」


 恋が微笑みながら頷く。


「それでこそ、我が友ですわ!」


「あれ? いつの間にかライバルじゃなくなったの?」


 魅蘭の言葉に雛子が首を捻る。真珠が声を上げる。


「最愛の言う通りだ! オレもすっかり切り替えているぜ!」


「おおっ! ワタクシも同じくですわ!」


「キャプテン……」


「皆さんの意気込みはよく伝わったわ……そうおっしゃってくれると思って、横浜プレミアムさんに再戦を申し込んでおいたわ。向こうも快く承諾してくれたわ。本気で来るって」


「‼」


 恋の言葉に皆が驚く。


「あくまでも練習試合なのだけど、公式戦用のユニフォームがちょうど届いたので、それを着て臨むことにしましょう。大事な一戦だからね」


 ヴィオラが段ボールを持ってきてグラウンドに置く。


「ああ、何だろうかなと思ったら、ユニフォームだったのか……」


 円が納得する。


「これを今から配るわ。名前を呼ぶので、前に出て、ヴィオラちゃん……副キャプテンから受け取ってください」


「……」


 恋がヴィオラの横に並ぶ。


「それでは……背番号8、登戸円さん」


「はい!」


 円がユニフォームを受け取る。


「攻守両面での活躍を期待しているわ。変な遠慮は要らないわよ?」


「うん!」


 恋の言葉に円が頷き、皆のところへ戻る。


「へ~金色基調のユニフォームなのね……」


 雛子が円の広げたユニフォームを見て呟く。


「ステラはイタリア語で星のことですから、星が光り輝くイメージで発注しました」


 ヴィオラが説明する。


「デザインはヴィオラちゃんが一晩でやってくれました♪」


「マ、マジかよ⁉」


 恋の発言に真珠が驚く。


「そんなわけがないでしょう……ちゃんと時間をかけてデザインしましたよ」


 ヴィオラが呆れ気味に恋の発言を訂正する。


「な、なんだよ……」


「星の輝きとは、このワタクシにふさわしいですわね!」


「そう思えるメンタルがもはや眩しいわね……」


 雛子は魅蘭のことを、目を細めて見つめる。


「次は背番号7、等々力雛子さん」


「あ、はい!」


 雛子がユニフォームを受け取る。


「攻撃面での貢献を期待しているわ。貴重なゴールを決めてくれると確信しているわよ」


「き、期待してもらって一向に構わないわ!」


「うん、良いツンデレね♪」


「ツンデレなのか……?」


 満足気な恋の横でヴィオラが小声で呟いて首を傾げる。


「次は背番号9、御幸真珠さん」


「おう!」


 真珠がユニフォームを受け取る。


「貴女にはズバリ、ゴールを期待しているわ。バンバン決めちゃって~♪」


「へへっ! 任せとけ!」


 真珠が自らの胸をバンと叩く。


「次は背番号4、大師ヴィオラさん」


「はい……」


 ヴィオラは自分の分のユニフォームを取り、脇にそっと置く。


「ヴィオラちゃんはゴレイロをやってもらう場合もあるから、その分も持っていてね」


「ええ……」


 ヴィオラが段ボールからもう一着取り出す。


「そうだ、セカンドユニフォームも渡さなくちゃね」


「そうですね……」


 ヴィオラがもう一つの段ボールを持ってきて開けて、先に渡した三人に配る。


「これは……」


 円がユニフォームを広げる。右から赤、緑、青の三色で構成され、間に白色を挟んだ縦縞のデザインである。ヴィオラが簡潔に説明する。


「川崎市のロゴマークから拝借しました」


「へ~こういうロゴなんだ……ああ、川の字になっているのか」


「そういうことです……背番号5は百合ヶ丘恋さん」


「はい~♪」


 恋がユニフォームを受け取る。ヴィオラが淡々と声をかける。


「……名実ともに貴女のチームです。活躍を期待しています」


「ご期待に沿えるよう努力するわ~」


 恋がウインクする。


「続けてください」


「ええ、次は背番号10、鷺沼魅蘭さん」


「はい‼」


「良い返事ね。期待しているわ。存分に暴れまわってちょうだい」


「お任せあれ! エースナンバーにふさわしい活躍をしてみせますわ! おほほ~♪」


 ユニフォームを受け取った魅蘭がはしゃぎまわる。ヴィオラが小声で呟く。


「フットサルのエースナンバーは5番なのですが……」


「世の中には知らない方が良いこともあるのよ……最後に背番号1、溝ノ口最愛さん!」


「……はい!」


 最愛が力強く返事し、両肩の部分が赤く、他は白色のキーパー用ユニフォームを受け取る。

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