第10話(1)気晴らし

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「おっ……」


「ん?」


「あ、来た来た、最愛、こっちこっち~」


 円が待ち合わせ場所の周囲をうろうろする最愛に声をかけて呼び寄せる。最愛はおずおずと歩み寄る。そこには、真珠と雛子の姿もあった。


「お、遅れてしまい、申し訳ございません……」


「いやいや、全然大丈夫だから」


 落ち込みそうになる最愛を円が励ます。


「だ、大丈夫……?」


「う、うん……」


「そ、そう言って……!」


「そう言って⁉」


「三人で練習をサボったわたくしを〆るとか、そういう流れでしょう……!」


「いやいやいや! 全然そういう流れじゃないから!」


 円が慌てて否定する。


「トサカだけならそういうこともあったかもな……?」


「ちょっと! 誤解を招くようなことを言わないでくれる⁉」


 雛子が真珠に噛みつく。


「ああ、ちょっとちょっと、いつものじゃれ合いはやめて……」


 円が止めに入る。


「じゃれ合いってなんだよ!」


「そうよ!」


「うわ、こっちに飛び火した……」


 円が戸惑う。


「しかもいつものって!」


「いつもどうせ単なるじゃれ合いだって思っていたの⁉」


「そ、そういうわけじゃなくもないことはないだろうとは思っていたけど……」


「どっちだよ!」


 真珠が声を上げる。


「まあまあ、最愛が顔を出してくれたわけだし、今日は楽しく行こうよ」


「楽しく……」


「そう、楽しくね♪」


 ボソッと呟いた最愛に対し、円がウインクする。


「で、どこに行くのよ?」


 雛子が円に尋ねる。


「……ここだよ!」


 円がある建物を指し示す。


「洋服屋さん?」


「いつもの古着屋じゃねえのか?」


 雛子たちが首を傾げる。円が苦笑する。


「あの他にも馴染みのある店はあるよ。この店はその内のひとつで、商品のラインナップがかなり幅広いんだよ」


「……で、どうするんだ?」


「それは服屋さんに来たらすることはひとつでしょ……」


「ひとつ?」


「最愛に似合う洋服を探そう~!」


 円が右手を突き上げる。


「コーデね……まあ、モデルとしてはこの上ない人材だけれども……」


 雛子が最愛をジロジロと見る。


「あ、あの……」


 最愛が恥ずかしそうにする。


「……それならばこれだ!」


「は、速いね⁉」


 早速服を持ってきた真珠に円が驚く。


「着てみてくれ!」


「は、はい……どうでしょうか?」


 最愛が試着室から出てくる。円が真珠に尋ねる。


「こ、これはストリートカジュアルってやつ?」


「そうだ円、普段の最愛とのギャップを狙ったんだよ」


「まあ、それも悪くはないけど……次はこれを着てみてくれる?」


「あ、はい……どうでしょうか?」


 最愛が円から渡された服を着て、試着室から出てくる。円がそれを見て頷く。


「うん! やっぱりそういうフリフリの着いたガーリーな服も似合うね!」


「ちょっと子供っぽいでしょ……やっぱりこれよ。これを着てみてちょうだい」


「はい……どうでしょうか?」


 最愛が雛子から渡された服を着て、試着室から出てくる。雛子が力強く頷く。


「お嬢様にはやっぱりこれよ! 清楚なワンピース! シンプルイズベスト!」


「た、確かに……一番似合っているな……ん? 最愛、店員と何を話してんだ?」


「皆さん、このワンピース色違いもあるそうなので、お揃いにしませんか?」


「! いい、いい!」


 真珠たちは最愛の提案に思いっきり首を振る。


「お揃いワンピース、良かったと思うのですが……」


「いやいや、四人お揃いっていうのはな……」


 最愛の呟きに真珠が苦笑する。


「いえ、全部で七色ですから、恋さんたちも着れますよ?」


「そ、それもどうかな?」


 円が首を傾げる。最愛が話す。


「お揃いのスカジャンを上に羽織れば……」


「そ、そういえばスカジャンがあったね⁉」


「なかなか良いと思うのですが……」


「ちょ、ちょっと謎の集団になっちゃうかな?」


 円が苦笑いを浮かべる。先頭を歩いていた雛子がある建物を指差す。


「……ついたわ、ここよ」


「あん? ゲーセン? よっしゃ……」


「……アンタのやるおかしなゲームはやらないわよ」


 雛子が真珠に釘をさす。


「……おおっ! すごい! 本当に初めて⁉」


 クレーンゲームで次々と人形や景品をゲットする最愛に円が驚く。


「『何事もおのれの手で掴み取れ』と教えられてきたので……」


「おのれの手ではないけどね」


 雛子が冷静に指摘する。


「……遊んで腹が減ったろ? っつうわけで飯だ!」


「ハンバーガーショップ? アンタね、お嬢様を連れてくるお店?」


「だからこそだ! こんな機会でも無えと来ねえだろ?」


 雛子に対し、真珠が言い返す。


「それはそうかもしれないけどね……」


「こないだ、恋が魅蘭を色んな所に連れまわしたって言ってたよな?」


「ああ、和洋中制覇したとかなんとか……」


 円が思い出したように頷く。真珠がやや間を空けてから声を上げる。


「……米が足りてねえんだよ!」


「その場合、米も洋に含まれるんじゃないの?」


「米っていうか、小麦だし……」


 雛子が呆れ気味に、円が半笑いで突っ込みを入れる。


「うるせえな! とにかく食うぞ! 最愛、全米制覇だ!」


「……あのお値段でこのボリューム⁉ しかも美味しい! お店ごと買い取りを……」


「そ、それはやめろ! 本当に制覇するやつがいるか⁉」


 ブラックカードを取り出そうとした最愛を真珠が慌てて止める。

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