第1話(1)とんとん拍子

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「しかし……あのボール一個分の穴を正確に通すヴィオラもだけど……それを振り向き様に止めたアンタも凄いわね……」


「いや……」


「それほどでも……」


 最愛と三つ編みがともに後頭部を抑える。


「ヴィオラに関しては皮肉よ」


 トサカヘアが三つ編みに冷ややかな視線を向ける。


「あ、そうですよね……」


「まったく……何事もなくて良かったわ」


「ま、まあ、コートに戻りましょうか、溝ノ口さんも」


「はい……」


 四人は最愛を連れてコートに戻る。


「……ということで、メンバーが増えました~♪ はい、拍手~!」


「……」


 三つ編みの呼びかけに三人は黙る。三つ編みは首を傾げる。


「あら、どうしたの?」


「どうしたのって……それで良いのかお前……?」


 ウルフカットが最愛に問う。最愛が頷く。


「ええ」


「ええって……」


「察するに……」


「うん?」


「このチームは人数不足で実質的な活動はほとんど見られない……それならば他の人数が揃っていて、なおかつやる気もあるチームにコートを譲れと周囲からプレッシャーをかけられている……といったところでしょうか?」


「あ、当たっている、凄い洞察力……!」


 ショートカットが驚く。三つ編みが満足そうに頷く。


「そこまで理解してくれているならば話は早いですね……この後予定は?」


「特にないです」


「OK、それなら一緒に練習を……練習着とシューズは私のものを貸してあげます」


「シューズはともかく、練習着は及びません」


「え?」


「自分で持っていますから」


「持っているって……」


「この近くのジムで汗を流すのが日々のルーティンなもので……」


「ああそうなのですか……更衣室はあっちですから」


 最愛が練習着に着替えてくる。


「……お待たせしました」


「……何度も聞くが、本当に良いのかよ?」


「ええ、ちょうどクラブ活動というものをやってみたかったのです」


 ウルフカットの問いに最愛が頷く。


「学校の部活ではダメなのか?」


「なんといいますか……わたくしの心の琴線に触れなかったのです……」


 最愛が自らの胸に手を当てて呟く。


「き、金銭か、やっぱお嬢様ってのは金にシビアなんだな……」


 ウルフカットが顎に手を当ててふむふむと頷く。トサカヘアが呆れる。


「アホは放っておいて……」


「ああん?」


「アンタ、プレー経験はあるの?」


 トサカヘアが最愛に尋ねる。


「本格的にはありませんが、サッカーなら体育の授業で何度もありますよ」


「サッカーじゃないわよ」


「?」


 最愛が首を傾げる。三つ編みが口を開く。


「私たちがやっているのは『フットサル』です」


「フットサル……」


「そう、5人対5人で行う競技で、基本的には室内で行われる、サッカーに似たものです」


「ふむ……」


「私たちは『ステラ川崎』というチームで、このコートで練習をしています」


「ほう……」


「ここまではよろしいですか?」


「大丈夫ですわ」


「じゃあ、チームに参加ということで……」


「はい」


「話がとんとん拍子だな……」


「まあ、やる気があるなら良いんじゃないの?」


 ウルフカットの言葉にトサカヘアが応える。


「溝ノ口さんは結構身長もありますし、ゴレイロでいいですね?」


「ゴレイロ?」


「ああ、ごめんなさい、ゴールキーパーのことです。フットサルではそのように呼ぶときもあります。基本はゴールキーパーでも通じますが」


 三つ編みが両手を胸の前で合わせる。最愛がゴールを見つめながら尋ねる。


「ゴールキーパーとはゴールを守るポジションですよね?」


「ええ、最後の砦です」


「砦……」


「やって下さいます?」


「ええ、やりましょう」


「助かるわ~」


「ちょ、ちょっと待って!」


 ショートカットが声を上げる。三つ編みが首を捻る。


「円さん、なにか?」


「いや、溝ノ口さん初心者でしょ⁉ そんな簡単に決めていいの?」


「見事なキャッチングでしたよ?」


「そ、それにしたってさ、他にもポジションがあるんだし、まずは体験してもらった方が良いんじゃない? 適性を見る意味でも……」


「ちっ、まあ、円さんの言うことにも一理ありますね……」


「今露骨に舌打ちしたよね⁉」


「ではまずパス練習をしてもらいましょうか」


「分かりましたわ」


 三つ編みの言葉に最愛が頷く。


「それじゃあ、円さん相手をしてあげて」


「う、うん……あ、ボクは登戸円のぼりとまどか、よろしくね」


「よろしくお願いしますわ」


 最愛は円に丁寧に頭を下げる。


「それじゃあ、ちょっと距離を取って……ボールは色んな蹴り方があるけど、まずはここでの蹴り方を覚えよう」


 円が自らの足を持ち上げ、内側辺りをさする。


「インサイドキックというものですね」


「おっ、よく知っているね~じゃあ、そこに当てるように蹴ってみようか……うおっ⁉」


 スピードあるボールが来たため、円は戸惑う。最愛は首を捻る。


「……強すぎましたかしら?」


「い、いや……この距離ならそれくらいでも良いんじゃないかな……はい、リターン……おっ、トラップも上手いね……ふおっ! ははっ、良いパスだね……ぬおっ!」


「円の奴、押されてんじゃねえか……」


「あれじゃ逆に教わっているみたいね……」


 ウルフカットとトサカヘアが呆れながら、最愛と円のパス交換を見守る。

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