勇者パーティーでお荷物扱いされる俺、魔王を討伐したので異世界転移の力をもらって好きに生きることにしました~勇者に仕返した後異世界配信者になったらバズった件~
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第1話「俺を嵌めようとするクソ勇者」
「――勇者
そう俺たちに言ってきたのは、この世界の管理者である女神、アフロディーテ様だった。
目が眩むほどに美しい彼女は、優しく俺たちに微笑んでいる。
天界で暮らしている彼女だが、俺たち四人はそれぞれ一度だけ彼女と会ったことがあった。
――そう、この世界に転移した時だ。
元々死ぬ予定だった俺たちの体を治し、この世界に送ってくれたのが、彼女だった。
「ちょっと待ってよ、女神様! このお荷物にもご褒美があるの!?」
穏やかな空間に、耳が痛くなるような大きな声で水を差したのは、テイマーの
俺より二つ年下で、子供のように元気がいいが、喧嘩っ早くて手を焼いている子だ。
そしてその言葉に続くように、隣にいたウィザードの
「ほんとよね~。この子って、何か役に立ったかしら~?」
そう言いながら、意味深な目を俺に向けてくる。
まるで、ゴミでも見るような目だった。
「こらこら、二人とも。
そんな中、俺を庇うようにして二人を宥めた男――美奈の実兄であり、俺たちのリーダーでもある彼の名前は、
そして彼こそが、勇者だった。
といっても、職業はソードマスターで、実績から勇者と呼ばれるようになっただけだが。
こうしてみると、穏やかで理性ある優しい男に見えるが――実はこいつが一番やばいということを、俺だけが知っている。
というのも、俺――
裏で散々嫌がらせをされているため、これが周りの信用を得るための表の顔だということを理解していた。
こいつが俺の印象を悪くする作り話を美奈経由で周りに言っているため、いろんなところで俺は嫌われている。
「勇者様の言う通りです。シールドマスターである彼がいなければ、守れなかった人や街もあるでしょう。よって、メンバー全員の望みを叶えさせて頂きます」
「ふんっ、和輝なんていなくたって、どうせ結果は変わらなかったのに」
女神様の言葉に、美奈はまだ不満そうな表情を見せる。
月夜も同じような感じだ。
とはいえ、邪険にされたところで、俺もわざわざ辞退するつもりはない。
こいつらから離れるためにも、女神様に絶対叶えてもらいたいことがあるのだ。
「よかったな、和輝」
俺が腹の中でふつふつと煮え
そして――。
「俺たちに一生感謝しろよ? ロクに戦えなくても、女神様に願いを叶えてもらえるんだからな」
笑顔のまま、そう耳打ちをしてきた。
やっぱり、性格が腐ってやがる。
「それでは、話がまとまりましたね。別部屋にて、一人ずつ願いを聞いていきます。まずは勇者様どうぞ」
女神様は大きな円形の光を作り出すと、剣哉に入るよう指示をした。
あの光はワープホールだ。
俺たちが天界に来た時も、あれを通っている。
さて、あの強欲な男が、どんな願いをするか気になるところだが――。
「お荷物和輝、さっさと帰ってくんない?」
「ほんと、どんだけ図太い神経をしているのかしらね~?」
この状況で取り残されるのも、きついものだ。
――俺がグチグチと文句を言われていると、願いを叶えてもらった剣哉が出てきた。
「それでは次は、月夜様どうぞ」
そして入れ替わるようにして、月夜がワープホールに入っていく。
出てきた剣哉は、笑いをこらえるようにしながら俺に近付いてきた。
「なぁ、お荷物和輝。俺はどんな願いを叶えてもらったと思う?」
「わかるわけがないだろ」
「はっ、そうだよなぁ? お前みたいな貧相な頭じゃ思いつきもしないだろうなぁ?」
剣哉は小声で俺を馬鹿にしながら、ニヤニヤとやらしい笑みを俺にだけ見せてくる。
彼の背中にいる美奈には、見えていない。
「『魅了』だよ『魅了』……! 任意の相手を自分に惚れさせることができるんだ……! これで沢山の女を抱くことができる……!」
勇者という地位と、整った顔だけでも、たいていの女性を惚れさせることはできるだろう。
それでも絶対ではない。
剣哉は狙った女性を必ず自分のものにできるよう、こういう力を手に入れたようだ。
俺が知る限り結構夜遊びもしていたが、恋人は月夜がいたはず。
この様子を見る限り、これからもっと手が付けられなくなるだろう。
「しかもそれだけじゃない……! これは男にも通じるんだ……! つまり、国王なども取り込めて、俺の思い通りの国にできるんだよ……!」
道理で、楽しそうに笑っていたわけだ。
効くかどうかはわからないが、俺は念のため自分に『ステータスガード』を張る。
これは状態異常を防ぐものだが、女神様からもらったチート能力のおかげで、俺のシールド魔法は全て最上級。
そしてこの『ステータスガード』は、どんな状態異常をも防ぐことができる。
剣哉の言う『魅了』を使うのは、魔王幹部のサキュバスでもいたが、それを防ぐことができたため、大丈夫だと思いたい。
願わくば、剣哉が馬鹿な考えに出る前に、俺の番が来ることだが――。
「なぁ和輝? お前どうせ叶えたいものなんてないだろ? 俺の願いを叶えてくれないか?」
やはり、俺を狙ってきた。
目が赤く光ったところを見るに、『魅了』を使ったのだろう。
しかし――。
「断る」
やはり、俺には効かなかったようだ。
「はぁあああああ!? なんで効かねぇんだよ!?」
「――っ!? お、お兄ちゃん、どうしたの……?」
見慣れない兄の姿に、美奈が驚いて不安そうな表情を向けてきた。
だけど、剣哉は美奈を気遣う余裕がないようだ。
さて、ここで一つ面白いことを思い浮かべた。
おそらく次は年齢順で、俺が呼ばれるだろう。
そうなった場合、剣哉は何を考える?
妹に、自分の願いを叶えさせようとするのではないだろうか?
だから俺は、美奈にも『ステータスガード』を張った。
美奈のことも嫌いだが、剣哉のほうがもっと嫌いなため、邪魔をしてやるのだ。
何より、この欲望に満ちた男に、これ以上変な力をつけられるのは困る。
まぁ、『魅了』だけでも好き放題できそうだが、正直この世界がどうなろうと、俺の知ったことではない。
なんせ、俺を嫌っている奴らばかりなのだから。
「――次、和輝様どうぞ」
ほどなくして月夜が出てくると、やはり俺の番になった。
どうやら月夜は、歳をとらない体にしてもらったらしい。
これで、永遠に美しい自分でいられるとのこと。
やはりみんな欲望に忠実だし、女神様がそれを叶えている以上は、俺の願いも叶えてくれるだろう。
「――な、なぁ、美奈? 俺の願いを……」
「えっ!? やだよ! 私だって叶えたい願いあるもん!」
「クソが! やっぱこれ、使い物にならねぇじゃねぇか!」
「け、剣哉、どうしたの……? いつものあなたらしくないわ……。私が話を聞くから……」
ふふ、取り乱してるな。
散々人をこけにしたんだ、これくらいの報いは甘んじて受け入れろ。
俺はそんな黒いことを考えながら、ワープホールをくぐったのだった。
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