第10話 社会人1年目①

大学を無事に卒業し、

私は晴れて新社会人となった。


職場で同期になる子たちとは既に事前研修で顔を合わせており、

初出社の日も駅で待ち合わせて会社に向かった。


1ヶ月の本社研修――――

これがきっかけで私は入社した年の12月に会社を辞めることになる。


まず研修でやらされたのは、

大声での挨拶。

とりあえず大きい声をだして

「おはようございます」

「お疲れ様です」

などのワードを叫ばされた。

血管がぶち切れるくらい叫べる元野球部たちが褒め称えられ、

か細い声しかでない子は罵倒された。


次は般若心経の暗唱。

別にこの会社は仏教を熱心に信仰しているわけではなく、会長が般若心経を月一の朝礼で言うから、社員も覚えなくてはいけないという理由だった。


そしてそんな会長が新入社員にやらせたのは、一発芸。

順番に得意な一発芸をやらされた。

歌を歌ったり、バク転したり…


このような意味のわからない研修をやらされて2週間程たった時、

事件は起こった。


「先輩社員との懇談会」という研修が行われ、先輩社員から衝撃の話を聞かされた。


「私が一番辛かったのはフランチャイズ店舗での研修かなぁ。結局1年間飲食店の店員をしてたよ。あなたたちもするみたいだから頑張ってね!」


………は?

聞いてない聞いてない聞いてない!

総合職採用だけど、女子は事務職として働くと聞いていたのに!

話が違う!


パニックになった私はその先輩社員に必要以上にフランチャイズ研修のことを聞いてしまった。

この態度が研修担当の社員が気に入らなかったらしく、

その日の終業後呼び出され態度についてネチネチと注意をされた。


しかし、1年間も飲食店で立ち仕事(しかも社員として行くから12時間は働かされる)なんてしたら、

自分の身体が壊れる。

なんとか回避しなくては…

でも、ただ行きたくないだけでは絶対逃れられない。

………もう病気のことを言うしかない!


この時の私は「社会人」という生き物を知らない。

また、病気のことを人に打ち明けてこなかったせいで、

「病気」というワードを使えば特別枠

を用意してくれるものだと思っていた。


「社会人」に「病気」と伝えても、特に何も響かないし、むしろ「扱いにくい、面倒なやつ」認定されるなんて大学をでたての私には想像もつかなかったのだ。

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