第8話 高校

家から自転車で20分の場所に私が通った高校がある。

道のりは急な坂道が多く、

ほとんどの女子生徒は電動自転車で通学していた。


しかし、どんなに電動自転車で楽をしても校舎にたどり着くまでにとても長い階段があり、

丁寧にヘアセットをしようが、

軽くお化粧をしようが、

全て汗でどろどろに溶ける。


そのせいなのかわからないが、

無事に始業前に教室に入れた時は謎の達成感があった。


また、校則が厳しめだったので、

服装や髪型が派手な人はほとんどいない。


「すごい派手な人もいないし、すごい地味な人もいない」


「この高校の生徒で私の病気を知る人は誰もいない」


そんな環境は私にとってとても過ごしやすいものだった。


病院へは月に2回(採血と問診)通い、様子を見た。

しかしどうしても病状が悪くなり続ける時期があり、

プレドニンを増やすのではなく、

メソトレキセートという薬を週に一回飲むことになった。

この薬は妊娠を希望する人は絶対飲んではいけない薬だが、

高校生の私に「妊娠」なんて何百年先 の話?という感覚だったためこの薬を飲むことに抵抗はなかった。

(後に妊娠を希望した時にこの薬から離脱するのにとても苦労することになる…)


メソトレキセートはかなり副作用が強いため、次の日学校が休みである土曜日の夜に飲んでいた。

真っ黄色の錠剤は病状を安定させてくれたが、

錠剤を見るだけで吐き気がするため、

土曜日がくるのが憂鬱になった。

そのため、土曜日が楽しくなるように

薬を飲んだ後に食べる用のお菓子をいっぱい買ったり、日曜日に楽しみな予定を入れた。


振り返ってみると、中学校に比べて病状の浮き沈みは激しかった。

でも学校を休んだり、見た目に症状がでなかったのはかなりラッキーだったと思う。


また、病気であることをごまかす対応力もかなり身についた。


ある日、プールに入ってないことを疑問に思ったクラスメイトが「なんでプール入らないの?」と聞いてきた。

ここでくそ真面目に「私はSLEっていう病気で…」なんて話そうものならきょとんとした顔の後、同情されるかドン引きされるかだ。

だからできるだけ明るく、

できるだけなんでもないことのように、

でもこれ以上聞いてもあんまり面白くないよというオーラをだして、

「私肌弱くてあんまり強い日差しあびれないんだよねー」

と受け流す。

質問してきた子もそこまで興味があるわけではないので、

「そうなんだ〜」でこの会話は終了となる。


他の人に自分の病気を詳しく話したところで、その人を困らせるだけ。

ましてや治らない病気なんだから…


そんな風に考えるようになってから、

「ふつうの人」のフリがかなり上手くなった。


でも、人に壁を作ったわけではない。

「病気」のことは自分の後ろに隠して見えないようにしただけ。

だから中学校のときより友達は増えたし、高校の友達は今も仲が良い子がいる。


そして楽しかった高校生活はあっという間に終わり、

波乱の大学生活へと突入する。

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