第15話 飲み会からの宅呑み

「……あお」


 ゆらり、と階段の奥で人影が。

 

 え、ゆ、幽霊?


「……あお」


 幽霊がもう1度俺の名前を呼んでくる。

 え、こっわ!!


「え、じ、地縛霊?……トイレの花子さん、的な? あ、そういえば学校の階段でなんちゃらみたいなのあったな、あれでもあの幽霊って消える感じじゃなかったっけ?あれ?まだいるんだけどちがうタイプの幽霊かな? とりあえず塩投げる、か?」


 慌てて家に戻ろうとしたところで、


「ちょ、ちょっと、なに勝手に人を幽霊にしてんの、私よ私、わーたーしー」


「詐欺じゃん」


 なんかいきなり幽霊がオレオレ詐欺ならぬわたしわたし詐欺してきたんですけど。


「ちょっとー事故ちゃって、至急1000万ほしいんだけど~、なんとかしてほしいなぁアオに」


 無駄にまねしてきた、声も気持ちチャラくしてやがる。

 というかなんか分かった、最初こそ不気味さと変な声でわからなかったけど。


「詐欺するな、甘えるな、働け」


「いや優しさがたりない!……じゃなくて」


 よくよく見ればアパートの階段にいるのは、花子さんでも階段の精でもなんでもなく、昔からの幼馴染。

 俺がやっといつもの調子にもどったと感じたのか、暗がりから顔を出す。

 

「よっ」


「……はぁ心臓に悪いわ、それでどうした空? いきなり家に来るなんて珍しいじゃん、普通に連絡すればよかったのに」


 大概は事前にラインで、連絡してきたりするんだけどなぁ。

 それかゲームとかやってる方の、通話アプリ。


 俺は酔ってぼーっとした頭で、目の前の幼馴染を見る。

 空が顔を俯かせているため、表情も見えない。

 だから気付くのに遅れた。


 「あぁそういうこというんだぁ? 私したんだけどなぁ???」


 あ。

 

 よく見ればお顔がぴくついてらっしゃるね。


 少し酔いがさめたかもしれないなぁ。

 

 上を向いた空の顔は、満面の笑顔。


 「あっ」


 そして思いだした。

 ここ最近、空のあの発言に戸惑って連絡をあまりしていなかったことを。

 なんなら、デジタルデトックスに近かったこと。


「やっと思い出したー?」


「…………え、えぇまあ」 

  

 だんだん、と近寄りにじり寄ってくる空。

 一方俺は後ずさる。


「そ、れ、で、ぇ」


 でもすぐに俺の家の玄関の壁に背がついてしまい、追いつかれる。

 指をツンツン、と俺の胸をなぞるように、触っていく。

 

 あれ?なんか距離感近くない?

 前からこんな感じだっけ?


 前ってどんな感じだったけ。


「とりあえず~」


「は、はぁ」


「部屋、入れてよ」


「うぇ?!」


 へ、部屋に入れる?

 マジで?


「いや、それはほら年頃の女性が何というか、こんな真夜中に男性の部屋に入るのは不用心というか、なんというか」


「はぁ?何言ってんの?大学なってからもあんたんちに泊まったりもしてるでしょうが。」


「いやあれは泊まりというか、完徹しただけ、というか」


「やってることはかわないんじゃん、というか今更じゃない?」


「ま、それはそうなんだけどさぁ、でも」


「……いいから寒いから入れてよ、あ、それとも何かね。彼女出来たら私とは仲良くできないとかそんなことはいわないよね~?そんな狭量な男じゃないもんねー?」


「まぁそんな恋愛とかで関係を変えるなんてことはしないけどさぁ」


 なんか押し切られてる感が否めないな。


「……全く決まらないなぁ、あ、それとも私の意識しちゃってる、とか?」


「は、はぁ? そんなことないけど?ほらじゃあ入りなよ!」


「ふふ、ありがと」


 空は笑顔とともに俺のあとに続いて、家の中へ。


「なんだかんだ久しぶりじゃない? あおの家くるの」


「そうだっけ、でもあ~そうかもなぁ、外でめし食ってみたいなことはよくあるけど」


「それで解散してゲームとかだもんね。でも案外ちゃんと部屋綺麗にしてるじゃん」


「案外ってなんだよ、実家の部屋もそれなりに綺麗にしてただろ?」


 まぁ、うちにはプライバシーは何ぞや、とばかりに勝手に入ってくる母君と姉君、それになぜか幼馴染がいたので、いろいろと痕跡を残せなかったからだけど。

 だから人がいつ来てもいいように偽装がうまくなったんだけどね?


「お酒のもーよ」


「えー別にいいけど、そんな種類ないよ?」


「いーのいーの今日は酔えればいいんだから、久しぶりにあおと話せたから話したいこと溜まってんだよねー」


 いつもの人好きのする笑みを浮かべ、ベッドの上で膝を丸める彼女。

 あれ、いつもならベッドの上に胡坐とかじゃなかったっけ?

 ま、単に飲みづらいから、か。


「んじゃぁ改めてーかんぱーい!」


「かんぱーい!」


 ビールを呷っていく。

 一ノ瀬さんといい、空といい、飲みっぷりがよろしいようで。

 というか俺これ今日だけでかなり飲んでない?明日大丈夫かな?


「おーい若者よ、飲んでないんじゃない?」


「お前絡み酒早いよ、まだ乾杯したばっかだよ。というかさっきまで飲んでたよ俺は」


「あー、大学のマドンナとね」


「そうそう」


「そういえば先輩隣の部屋に住んでるんだね~」


「そうなんだ……よ」


 あ。

 こればらしたらワンちゃん不味かったやつじゃない?


「……これもう半同棲じゃない実質! 毎日会えるし!」


 半同棲、あー確かに傍から見たら確かにそうかも?

 そう見えるな、うん。


 まぁ実際は週1くらいで飲み行くくらいなんですけど。

 そんな甘―い話ではないんですけどね?おっぱいの谷間をチラ見さしてくれるだけだし!抜くのは許可されたけど。


 …………マドンナの初公認だろうから役得化も。

 ならまあいいか



「あ、そういえばさっき聞いてたけど、おっぱい揉ませてもらえないの?」


 

 ぐふっ。


 

「え、ええまぁ」


「あんなに気持ちのよさそうなおっぱい触ってないなんて、ありえない。私が男ならむしゃぶりついてるね確実に、付き合った日にもう。なんならそんなんで済ませないね」


「ほう?ならばどうする?」


 ここはかなり難しい問題ぞ?


「まず一旦」


「いったん?」


空をためてためて、


「まずはおっぱいに顔突っ込んで匂いかぐね、んでそのうえで挟む」


「下品すぎるわあほ、でも悪くないよき」


「きも、否定しろあほ」


 

 そんなくだらない話をしながら酒は進み進み、めっちゃ進み。

 気付いたら日の光が当たって眩しい。




「……あれ?」



 チュンチュンと、眩しい朝日の中。


「……おはよ」

 

 え?幻聴かな?空の声が聞こえてきた気がしたんだけど。

 一瞬で頭痛いのが飛んだ。


 そーっと横を見る。


 笑顔の空が上から寝ている俺を見落ろしてた気がしてた。



 ………………終わった。


 

 なんか隣で幼馴染が布団にくるまっている。


 血の気が引いた。



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ちなみに幼馴染と外で会話しているときに酒かすヒロインはお風呂場で鼻歌歌ってます。

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