気づいたら大学のマドンナを染めた男になっていた件

第8話 クッソ可愛くておっぱいも大きいギャルな女

　結局名前はとりあえず一ノ瀬さんで、普段は行くことになった。

　夢って下の名前で呼ばれるのは、俺があまりに決め顔でいうからつぼってしまうらしい。

　普通に話しているだけなんだけどなぁ……解せぬ。

　場所をうつして俺の部屋。

　まぁそれはそれとしても……

　「お、美味しいっ……」

　「でしょー？　料理の腕にそこそこ自信があるんよー？」

　ギャルが料理うまいっていう都市伝説は本当だったのか。

　野菜の甘みがしっかりスープにも出てて、とてもおいしい。

　「すごい……すね、料理出来るの尊敬します」

　「……そ、そう？　いやーそんな褒められると……にゃははは」

　「これならいくらでも食べれますね！」

　「ん、ん？……よ、良かった。喜んでもらえたようで」

　「女性の手料理喜ばない男なんていないですよ。……それにしてもどうしたんです、料理ふるまってくれるなんて？」

　俺の質問に、い、いやーと困ったように笑う一ノ瀬先輩。

　「き、昨日君にか、彼氏役になってって、ちょちょっとだけやけくそ気味に言ったじゃん？　それについて君が了承してくれた、と」

　ちょっと恥ずかしそうにもじる一ノ瀬さん。

　「らしいですね」

　俺の記憶はないけどね全く。

　「いやお酒の勢いもあったし、朝はまだ半分酔っぱらってたんだけど、お風呂入っててスキンケアしてちょっと寝て、考えてみたわけよ」

　「ほぉ」

　もうちょい早く考えてほしかったなぁって思うけど。

　「あれ、私勝手に彼氏役にしたけどダイジョブそ？って」

　うん、たぶん大丈夫じゃないね。

　「まぁそれは葵君もオッケーしたからいいやってはなったんだけど～」

　「いやうん。そこも一旦疑問持ってほしかったけどね？」

　俺がそう言うと、え、と顔が固まる。

　心底理解できないような顔をして。

　「え？だって控えめに言ってクッソ可愛くておっぱいも大きくて、えっちでギャルな女が彼女になる、って言ってんだよ？もうアクセサリーとしてはばっちりじゃない？？」

　キョトンとした顔で言い放つこの女。

　自分の可愛さを自覚してる分タチが悪い！

　謙虚さがすこしでもほしい！！

　控えめに言ってそれなら普通に言ったらどうなるんだよ。

　「お、おう…………もう自信満々じゃん」

　「そりゃまぁ」

　一ノ瀬さんはそう言って、皮肉気に笑う。

　「実体験だからね～」

　それだけで察せられた。

　「ああ、大変だね大学のマドンナも」

　これは一ノ瀬さんにとっては自信でも自慢でもなんでもなく、ただただめんどくさいだけの事なんだと。

　まぁ、マドンナとしていろんな人の視線を集めちゃうのはしょうがないのかもなぁ。

　「本当よ。しかもそのおかげで、高値の華過ぎて彼氏なんてできないし！人並みにはそう言うの興味あるのにさ！」

　「ま、まぁそのうちいい人がいずれ現れるよ？……知らんけど」

　有名人って大変だぁ。

　うん。

　俺一般人でよかった。

　今度から一ノ瀬様って呼ぼうかな。

　「今後もまぁ一ノ瀬様は大変だろうけど、頑張ってちょ。俺もたまには話聞くから、さ。だから定期的に楽単を教えてね？」

　精一杯の笑顔を浮かべて励ます。

　「あなた絶対最後のが本音でしょ。というか何いってるのよ知らんけどって、これからあんたも巻き込まれるけどあんたこそ大丈夫そ？」

　「……はぇ？」

　なして？

　「え、だって葵君はこの超絶可愛くてクソエッチな私を染め上げた男だよ？……もうそりゃとーっても注目されるでしょうねぇ」

　「注目……」

　「そ、うらやましがられるでしょうねぇきっと」

　な、なんか大学の男子共に嫌われる未来が見えてきた。

　というかめちゃくちゃ嫉妬の視線浴びそう。

　「そ、だから私の偽！彼氏になれた嬉しさと、全人類の男子に恨まれる恐怖で葛藤してるかなと思って、料理創っていったん幸せに浸らしてあげようかなっていう私の慈悲で今日来たの！だからたーんとおたべ？ちなみにこの材料費も私の自費ね」　

　「うまい事言わなくうていいんですよ。というか気づいちゃったじゃん、新学期の怖さに！そう思ったらポトフもおいしく食べられないよ！食べるけど！」

　「食べるんじゃん」

　そりゃ残したりしたら、勿体ないしね。

　もぐもぐと。

　一旦食べてから。

　「…………ちなみにクーリングオフとかは？」

　「ありませーん、というか選べる立場と思うな？」

　目の奥だけ笑わない笑顔で見つめてくる。

　うん普通に怖いです。

「…………それにもう無理だし」

　ボソリとなんかとても不吉な言葉が聞こえた。

「………………え？なんて？」

「ううんなんでもない。それよりもっとおかわりもあるよ？もっと食べて？」

　なんか聞こえたけど聞こえないふりをした。

　なんか聞いたら嫌なことになりそうだから。

　嫌なことからは逃げてもいいんだよって誰かも言ってたからきっと間違いでは無い。

　まあそれはそれとして。

「おかわりはいただきます」

「よく食べるねぇ」

「おいしいからね、あ、ですね」

「そんな取ってつけたような敬語いいよ、途中から昨日も無くなってたし」

「そっか！」

「一旦逡巡するくらいはあってもいいんだけどなー？？」

「そっすねぇ」

　まじ上手いなこのポトフ。

　普段はあんま料理なんてしないし、したとして男飯だから普通に感動する。

「満足して貰えたようでなにより。それじゃ今日は一旦おいとましようかなぁ？あ、合鍵ちょうだい？いつでも邪魔できるように、さ」

「あーいいよぉぉぉってまっまって？今すごいこと言わなかった？？」

「え、帰ろうかなっていったけど…………え？そんなに離れたくない？私の魅力がボーイフレンド(仮)をメロメロにしちゃったかぁ、困っちゃうなぁ」

　あははーモテるのも困っちゃうなぁとかのたまう目の前の女。

「ボーイフレンド(仮)とかアプリじゃんだから！じゃなくて！合鍵くれとか言わなかった？？？」

　ああ、そっちのことと合点が言ったらしく。

「言ったよ？？」

「やっぱ言ったよね！距離感の詰めかたえぐ！！」

「ま、さすがに冗談だよ〜そのへんはこれから、ね？」

　これから合鍵渡す未来なんてこないけどね？

　なんなら彼氏役早く解消したいんだけどね？

「ほんとにー？役得だよ？？」

「…………でも彼女出来なくなっちゃうだろ？」

「じゃあ好きな人出来たら別れればいいんじゃない？？」

　…………うーん。

「なんかそれは違うような」

「童貞みたいなこと言わなかっ…………あっ」

「知ってて言ってるだろ？」

「まね？」

　だって顔ニヤけてるもんね！

「じゃまたね〜」

　そう言って出てこうとした時にスマホの通知音。

　そこにはひとつの写真とメッセージ。

　なんか見た光景だな、これ。

　相手は空。

　なんだこんな時間に。

　ってああ昨日の連絡の続きか。

　謝らなきゃなぁ、そう思ってラインを開くと。

「…………ちょっと待とうか一ノ瀬さん」

「じゃ、じゃーね？？」

　慌てて出ていこうとするが、ぎりぎり俺が間に合う。

「…………これは？」

　無言で1枚の写真を見せる。

「早いね、情報得るの」

　そこには公園でふたつの酒缶を並べて「美味しぃぃ」とストーリーにのせている。

　ここまではいい。

　が微妙に2人分の足が写ってる。

　それともう1枚は俺の腕に腕を組んでいる顔が下半分までしか写ってないストーリー。

　これ送ってくれたのは幼馴染の空。

　なんかちょっと怒りの連絡来てるんですけど？

　sky:これあんたの服よね？……あんた飲み物買いにいったはずなのに一体なにしてんの？？

「……この写真は？」

「…………えへ？載せちゃった？」

　控えめに言ってアイドルの彼氏バレくらい炎上しそうだった。