第5話 夜は長し戦えよ少年
「いェェェェェい!」
テンション爆アゲで騒ぐ女。
本当にさっきまで吐いてたのか?
ゲラッゲラとしてるんだけど?
「後輩くんあっち向いてホイも弱いねぇぇぇ、わたしまたかっちゃったよぉぉ?」
「いやいや華を持たせてあげるのが、さ、ジェントルマンとしてね?」
「ハイハイ負け惜しみ乙」
しかも無駄に小憎たらしい笑顔で言ってきた。
この女本当に人を煽るのが上手い。
ギャルってみんなそうなのか?そうだなきっとそうに違いないわ。
「ま、まあ俺は大人だから?」
「自信ないんだぁ……?」
ニヤニヤと。
ほ、ほほぅ?
俺は大人だからな。
「もう1回やってやろうじゃん!」
「ほんともうちょろい……」
「……え?なんて?」
「いや、なーんも。どうせ私が勝っちゃうんだろうなーって思って。あー負けが知りたいなー?」
にやにやとすぐに煽るような笑み。
「そこまで言われたらやるしかないでしょう?!」
「「じゃんけんほい」」
あっちがパーで、こっちはグー。
まぁまぁ、ここは前哨戦。
知っているか?
あっちむいてほいというゲーム性は、じゃんけんで勝っただけでは、終わらない。
その後相手の指と、こっちの首が同じ方向に向かなければ負けない。必然ジャンケンに負け続けてももんだいはない。
故に焦る必要なんてこれっぽっちもない。
ましてや一発目で勝つ確率なんてそれこそ神に愛されてでもいなければ……まずは相手の指の動きを見てそれと反対に首を振れば……自然と
「あっちむいてほい!」
「ほい!」
俺が向いたのは下。
しかし一瞬横にいこうとフェイントも入れた。
だからけして横を向こうとしたら胸の谷間があって、首を下に向けたわけではない。
ただ念のため言っておくと、あまりにもえっろ過ぎる。
まぁ口には出さないけども。
それよりもひとまずはあっちむいてほいだ。
多分彼女は俺の完璧なフェイントに引っかかって横をさしているはず。
だから次こそはまずじゃんけんで勝つ。
それで一発で決めてやる。
「いえぇぇぇぇい、また私のかちぃぃぃい?!」
「……はぁ?」
前を見れば左の親指を下に下げている。うん親指?
「って普通に侮辱してるゃなえぇかおい!」
「あ、間違えちゃっててへぺろ」
可愛らしいポーズで、許して?みたいにやってくるこの女。絶対確信犯じゃんこの女。許せねぇ
……というかなんで俺こんなことしてるんだろう。
ふと冷静になってしまった。
なんかもうあっち向いてほいとかどうでもよくなった。なんで俺はこんなこことに熱くなっているんだ。
というか、
「ちょっときつくない?」
「がはっ」
「初めて見たよ、てへぺろがちでやる人。なんというか、うん。いいと思う」
マドンナだからまだいける。
これが一般人だったらその日の夜はあまりのきつさにやった本人は寝れないに違いない。
「……げふっ」
「ああいうのはネットとかで文字でやるのが正解なんだなうん」
「……し、死体撃ちは酷くない?さ、最初の一言だけでよくない?」
「うん、ごめん」
「てへぺろがきついのなんて分かってるよ?でもさこれはその場ののりというか、さ。お酒飲んだもの同士のさ?そういうものじゃない?」
あー飲み会の雰囲気ね。
わかるわかる。
あの場は異様だよな
「だって俺素面だもん」
「どうしてだよぉォぉォぉ」
うわぁめんどくさぁ。
「うわめんどくさ」
「口に出てる口に出てる」
「あ、ミスった」
「棒読み乙」
真冬に叫ぶギャルと傍観する一般人男性ことおれ。
「くそぅ、恥かいた。もう知らない!飲んでやる!」
「いや待て、あんたさっきものんで吐いて」
俺が止める間もなく、ほろよいをぐびぐびと。
意外と可愛いの飲んでるんだよなぁ……吐いてるけど
ほろよいならまぁいいか。
あんだけ喋ってたからか、めちゃくちゃのど乾いた。
「飲み物なんかもらってもいい?」
「好きにのみー」
無事許可ももらったので、適当な缶を一つ。
とりあえず適当に一本。
缶プルを開けてプシュろ開ける。
あ、炭酸がうまし。
「……あ、でも私お酒しかかってないけど……ってもう飲んでるじゃん」
あ、これ酒かぁ。
うんまぁ。
この喉をぐぶぐびと痛めている感じが、たまらない。
「ぷはぁ、うんまぁぁぁ」
「めちゃくちゃいい飲みっぷり!よっ男前!」
「えーそ、そうかな?はははぁ」
気分がいい。
気分がいいぞあははははは。
「って、え?大丈夫?の、飲みすぎじゃない?」
「ライジョーブライジョブ。余裕のピース」
「待って待ってさっきとキャラ変わってない?お酒飲むの止めたほうが」
「なにいってるんどしぇ?余裕よ」
「余裕か、余裕。……ならいっか。のも-!」
「おー!」
かろうじてそこまでは覚えている。
そんな会話をしたのは。
そして現在。
「おはよ?」
「……おは……うえぇ?」
そこから記憶は無い。
でも朝起きたら知らない天井と名前も知らない女が、俺の顔を覗き込んでいた。
え?
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