からっぽ

榮樂佳那多

第1話【アルメニアン・ダンス パート1】

『暇だ。』


今日も屋上の柵によりかかる。

そこから校庭を眺めるだけ。

空を眺めるだけ。

友達はいない。

だから誰かと話すこともない。

みんなは教室で楽しそうに話したり、寄り道して遊んだりしてるけど。

全く興味もないし、何が楽しいのかもわからない。

校庭には部活の放課後練習をする人達。

それを眺める恋する乙女達。

恋なんて、私にはできないし、する気もない。

みんなきゃぴきゃぴして、何が楽しいのだろうか。

そうやっていつも眺めては呆れて、屋上のベンチに寝転ぶ。

校舎内からは吹奏楽部の楽しそうな音が響く。


『羨ましい...。』




"アルメニアン・ダンス パート1"

私も中学の頃に吹いた。

私は楽器の楽しさだけはわかる。

特にフルートは。

中学時代は吹奏楽部の部長をしていたくらい音楽だけは大好きだった。

コンクールでは何度も金賞を取た。

自分で言うのもなんだが、音楽業界ではまあまあ有名だった。

フルートには3歳の頃に出会った。

オーケストラのコンサートを見に行った時に、フルートのソロがあった。

私はキラキラした優しいその音に惚れた。

それから私はフルートの世界にのめり込んだ。

フルート以外には何にも興味を示さず、とにかくフルート。

時間があればフルート。

勉強にも手が付かないくらいにフルートが大好きになっていた。

でも、中学生最後のコンクールで"アルメニアン・ダンス パート1"を吹いていた時、唇や指が震え始め、思うように音が出せなかった。

高校生になってもそれが続いた。

コンクールでも、コンサートでも。

練習不足なんだって思って、練習時間を増やした。でも、震えは止まらなかった。

親に言われ、一度病院で診てもらうことにした。

"フォーカルジストニア"

そう、診断された。

治療を行わず、練習時間も増やしてしまったため、進行速度が早かった。

治療をしても完治することは無いが、治療をしなければ日常生活にも支障をきたす場合がある。

そう言われ、治療をすることにした。

そして、親には"楽器はやめなさい"と言われた。


私の楽しみが奪われた。

私の人生が。

未来が。

私には何もない。

私はただのからっぽな人間。

ああ、余計なことを考えてしまった。

泣きたくもないのに、涙が勝手に溢れてくる。

周りの誰よりも頑張ってたのに、それなのに。


『なんで、なんで私だけ...。』




私の感情を読み取るように雪が降り始めた。

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