翻訳 「リリス」 原作 George Macdonald「Lilith」
@giraldus
第1話 楽園の家
僕はまた別の日の午後、スポルディング街にある農園を散策した。僕は沈みゆく太陽が、堂々たる松林の向かい側を照らし出すのを見た。その黄金色の陽射しは、まるで高貴なる聖堂へ入るように、木々の側廊へと滑り込む。僕は感動した。まるである太古の、非の打ち所なく、感嘆すべき輝かしい家族がそこで、僕にとって見知らぬ場所、コンコードと呼ばれる地にいますかのように。彼ら家族のしもべは太陽であり、呼ばれなかったが故に、彼らがその村の社会に立ち入ることはなかった。僕はその松林を通した向こう側、スポルディングのクランベリーの牧草地に彼らの庭園、喜びの地を見たのだ。松林が生い茂って、かの牧草地に切妻の屋根を与えた。彼らの家ははっきりと目には映らないが、その松林はその家を通じて繁茂した。僕が彼らの、そのひそやかで快活な声を耳にしたのかどうかはわからない。かの家族は太陽の光に安らいで見えた。彼らには息子たち娘たちがいた。その様子はまことに素晴らしかった。荷車の通り道は、そのまま彼らの聖堂へと直に通じ、少なくとも彼らを追い出してはいなかった。ぬかるんだ沼の底がときおりは蒼穹を映し出すように。彼ら家族は「スポルディング」という名を耳にすることはなく、「彼」が隣人であることも知らない。僕は「彼」が吹く口笛の音を、スポルディングの連中の荷馬車が彼ら家族の家を通り抜ける時に聞く。彼らの生活の安らぎに比するものなどなにもない。彼らの両腕を覆う上着は、単に菌や藻から織り成す地衣類でしかない。僕はその上着が、マツやオークの葉で色付けられるのを見る。彼らの屋根裏部屋は、松林のてっぺんにあった。そこに、如何なるたくらみもなかった。労働の喧騒もなかった。僕は彼らが織り、紡いでいる音に気づかなかった。しかし、僕はついに聴いたのだ。そよぐ風が歌う子守唄のその音が過ぎ去った時、想像しうる中で最も甘美で妙なる響きを。……遠くある5月の蜜の巣箱のような……それはひょっとすると、彼ら一家の物想う瞑想が奏でる調べだったのかもしれない。それらにはいかなるばかげた想いもなく、そして誰も外では彼らの労働を見ることはできない、なぜなら彼らの業は人間の群れや無用な猥雑が取り巻く中にはないのだから。
しかし、僕がそれらの事々を思い出すのは困難だ。今僕が話し、思い出し、刻みつけようとしているこの時でさえ、それらはどうしようもなく僕の心から消え去ってゆくのだから。僕がふたたび彼ら一家が共に「在る」ことを意識できたのはようやく、自身の最高の思索を想い出そうと僕が長く真剣な努力をした後のことだった。もしこのような家族がいなかったのなら、僕はコンコードを出てゆくだろうと思う。
ソロー「散歩」
翻訳 「リリス」 原作 George Macdonald「Lilith」 @giraldus
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