第2話「看病」


 私は今日もいつものように托卵の帽子を被って、赤の他人の家族になりました。

 もうすぐ日が暮れます。私はこうして他人の家庭にお邪魔することで、毎日夜を過ごし、次の日になったら再び家出の旅を続けています。


 家に入るとそこには托卵の家族のお母さんがお昼ごはんの乗ったお盆を持って私のことを迎えました。


「おかえりククース。」


「ただいまです。」


「晩ごはんはリビングの机に置いてあるわ。私はこのご飯をリオくんの部屋に持っていくから、電子レンジで適当に温めてから食べてね。」


「あ、はい。」


 部屋にご飯を持っていく……これはおそらくリオくんという人が風邪でも引いたのでしょうね。お母さんの持っているお盆の上に置かれたおかゆがそのことを物語っています。


 なるほど、つまるところお母さんは今彼の看病中ということですね。


 私はリビングへ入り、机の上に置かれた晩ごはんを電子レンジで温めました。そして机の上に温めたご飯を運んでいる途中、私は「クシュン!」とくしゃみを一つ。もしかして私まで風邪を引いてしまったのでしょうか?


 私が呑気にお昼ごはんを食べていると、リビングにマスクを着けた男の子が入ってきました。

 おそらく彼がお母さんの言っていたリオくんでしょう。


「やあ、お姉ちゃん。健康そうで羨ましいねぇ。」


 彼は嫌味っぽくそう言いながら、何故かマスク越しにしたり顔を浮かべいました。一体何故にそんなに偉そうにされているのかわかりませんが、私は少しイラッとしました。


「悪いね。今日は俺がお母さんを独占するから。だって俺は風を引いてるからね〜。アハハ」


 なるほど。


 彼がやけに嬉しそうなのはきっとお母さんに優しくされて嬉しいからでしょうね。確か私も風邪を引いた時、お母さんに優しく看病されて嬉しかった覚えがあります。

 しかしそれを自慢しに来るなんて、なんて子供なのでしょう。私は少し呆れていました。


「悔しかったらお姉ちゃんも風邪引いたら?」


「何を言うんです。早く部屋に帰ってください。それに健康なことに越したことはありません。」


「フフフ、まあいいや。じゃあね〜」


 彼は終始嫌味っぽくその場を去っていくのでした。私はそんな彼の姿を目で追いながら、またくしゃみをするのでした。


 ○


 次の日、私は朝起きると妙な倦怠感に襲われました。お母さんは私のことを心配して体温計を渡してくれました。熱を測ったところ、私はかなりの熱を帯びていました。


「あら、リオくんの風邪が移ったのかしら?悪いけど一旦リオくんの部屋に移動してくれない?」


 私はリオくんと同じ部屋に隔離されることになりました。部屋に入るとリオくんはなぜか体温計を手で擦っていました。


「何してるんです?」


「うわっ!?お姉ちゃん、なんでここに?」


「貴方の風邪が移ったんですよ。」私はゴホゴホと咳をしました。


「マジで?」


「マジです。どうしてくれるんですか……」


 私は涙目になりながらぐったりと布団に倒れ込みました。正直とってもしんどいです。

 

「ククース体調大丈夫?ってしんどそうじゃない!大丈夫?なんかしてほしいことある?」

 

 お母さんは私のことを気にかけて優しく看病してくれました。あー確かにこれは嬉しいですね。


「ぐぬぬ……」


 そんな私のことをリオくんはとても悔しそうに見ていました。


「リオくんは大丈夫?」


「え、あーそうだねー。まだ熱っぽいみたい。ほら」

 

 リオくんは先程手で擦って熱を上げた体温計を差し出しました。


「それ、さっき手で擦って熱くしてましたよ。」


「お姉ちゃん!?」


 私は容赦なくお母さんにそのことをチクるのでした。

 悪いですね。今日は私があなたのお母さんを独占させていただきます。

 私の看病をしてもらうために。


 その後、リオくんはお母さんに軽く叱られていました。まあ私の知ったこっちゃありませんけどね。




【あとがき】

 この話は自分がコロナになって、お母さんに看病してもらったときに思いつきました。風邪引いて看病してもらった時のお母さんの優しさはマジで身にしみますよね〜。

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