第175話 増えた手札で場が見えない
ユニークスキル。ある意味では私たちが成人した証ともいえる。
現世界では、いつからか特定の年齢になると自分だけの特別なスキルを授かるようになったらしい。
スキルの内容こそ千差万別だけど、スキルを習得することは一人前の証なのだ。
だから、中にはこのように増長してしまう者がいるのは仕方がない。
仕方がないけどさあ……。
「だから、言ってるだろ。俺のスキルさえあれば、簡単に上にいける。今のうちに、優秀なやつだけでパーティを組むことの利点がわからないか?」
赤い髪。まあ、嫌いではない。
ピアス。おしゃれというより、チンピラにしか見えない。減点。
睨みつけるような目つき。私でなくても良い印象を抱く人なんかいないだろう。減点。
私を見下し道具として扱う気満々な態度。論外。
「ええと……厳正なる選考の結果、ご希望に添うのは難しく……今後のご活躍をお祈り申し上げます」
「ああ!?」
ああ、だめだ。
この手の人間には、しっかりと断るべきだと思ったけど、どうやら気に入らなかったらしい。
「ぐだぐだ言ってないでさっさと俺のパーティに入れよ」
えぇ……。強引にもほどがない?
仕方ない。切り口を変えて諦めてもらおう。
「そんなに探索で成功したいなら、上位のパーティに入れてもらうとかどうでしょう?」
そう。わざわざスキルを得たばかりの者を集める必要なんてないじゃない。
本当にあなたが強いのなら、探索で成功したいのなら、それが一番手っ取り早いはず。
「ほ、ほら。氷鰐探索隊とか、魔術の集いとか、竜の牙とか、星の導きとか……」
次々と【超級】パーティの名を挙げていくも、男は不機嫌そうに眉をひそめるだけだった。
「ニトテキア……とか」
そのパーティ名を挙げたとたんに、男は眉をひそめた。
「そのニトテキアを超えるために、俺はパーティを作ろうとしているんだよ!」
ちょっ……声大きい。
ここがどこだかわかってないの!?
教室ならまだいい。だけど、下校途中の校内でその発言はどうかと思う。
ほら……先輩たちの目線がやばいって。
さすがにこの男も周りの様子に気づいているらしい。
そうそう。こんな無茶な勧誘なんて誰も得しないから。
大人しく諦めてくれると……。
「何見てんだよ。……ああ、そこにいるのはニトテキアの先輩たちじゃねえか」
本人いた! というか、諦めろよ!? バカなの?
よりにもよって、まだ在学中の【超級】パーティに絡むとか、どこまで自分に自信があるのさ。あんた。
「……」
「おい、シカトすんなよ。あんたに言ってんだぜ。あんたなんか俺がすぐに追い越してやる」
な、なんでわざわざ喧嘩売ってんの!?
「善。殴る?」
「紫杏落ち着きなさい。あと大地も毒を盛ろうとしない。善もそろそろ考え事から帰ってきて! 私一人じゃ抑えきれないからね!」
細川先輩は見事な手際で、北原先輩と木村先輩を制御したように見えたけど、わりといっぱいいっぱいみたい。
そして烏丸先輩。無視というか、本当に気づいてない……?
「紫杏。やっちゃいなさい!」
「任せて!」
うわっ、めちゃくちゃ抱きついてる。
というか、当たってるとか通り越して潰れてるよね。あれ。
そんなんで……。
「ん。なんだ?」
気づくんだ~……。烏丸先輩ってムッツリなんだ。
ようやくこちらに気がついた烏丸先輩は、不思議そうに尋ねた。
「この人、なんでこんなに怒ってるんだ?」
「てめえのせいだろうが!」
うん。まあ、ここまで見事に無視され続けたら、そう言うしかないよね。
「赤いな」
「赤いね」
そして男の髪を見て、その色の感想を木村さんと言い合う。
男は当然馬鹿にされたと思って、なお怒りをあらわにしている。
「気楽なもんだな! そんな調子なら、すぐにでも追い抜けそうで張り合いがないぜ!」
「ええと……赤星くんだっけ?」
あれ、知り合い?
それなら、あんなふうに絡みに行くのもいつものこととか?
「誰だそれ! 髪の色で適当な名前呼んでんじゃねえよ!」
違った……。
赤星くん。あんたとことん相手にされてないわよ。
「直接会って確信した。てめえは俺より弱い。周りが強いだけで、パーティのリーダーにはふさわしくない」
……正直な話。私もあれっ? と思ってしまった。
北原先輩。強すぎる、秒殺される未来しか見えない。
細川先輩。この人も大概規格外。どこの大魔術師ですかと聞きたい。
木村先輩。細川先輩に匹敵する魔術のスペシャリストだ。あと、なんか笑顔なのに怖い。
だけど、烏丸先輩だけは違う。
もしかするとだけど……ステータス、私たちとそう変わらないような……。
「ああ、そういう感じか」
「な、なんだ……?」
「お飾りのリーダーと絡んでくるタイプ。でも、ここまで直接言いにくるのは珍しいな」
慣れているのか、烏丸先輩はまったく怒った様子もなく淡々と対応している。
他にもいたのかなあ。こういう馬鹿な手合。
「がんばるというのならがんばればいい。俺たちは俺たちでがんばるから」
「……」
こんなふうに対応されてしまったけど、赤星くん、どうするんだろう。
「い、いや! 俺のほうが上だと証明してやる!」
「ええ……どうやって」
「ダンジョンに行ってボスを倒す。まずは俺。次はあんたがだ」
ボス……。どうやら、実力を誇るだけはあるらしい。
まさか私たちの同期なのに、すでにボスを倒せるほどの実力者がいるとは思わなかった。
「いや……今は【初級】ダンジョンは、行かないようにって言われてるだろ?」
そういえば、それは真っ先に注意された。
私たちが探索に慣れるまでは、初心者ダンジョンしか解放されていないとか、行っても入れてもらえないとか。
なんで、烏丸先輩がそのことを知っているんだろう。
「知るか。だいたいあんたは、【初級】からやり直したほうがいいんじゃないのか?」
「まあ……いいか」
面倒になってきたのか、烏丸先輩は赤星くんの提案を飲むことにしたらしい。
「ちょっと行ってくるから、先に向かっていてくれ」
「うん、シェリルにも伝えておくよ。ついでに対処しちゃうんでしょ?」
「ああ。そっちも無茶しないようにな」
「善にだけは言われたくない……」
烏丸先輩がそう告げると、木村先輩と細川先輩は去っていった。
慣れてるのかなあ。こういう面倒事に。
「おい、お前! 俺とこいつどっちが強いか、お前が見ておけ!」
「ええ……その子無関係だろ? 受付さんに見てもらえばいいんじゃないか?」
……本当なら、断っていたところだ。
でも、【超級】の探索者の戦い方を見られる。
「いえ! 邪魔じゃなければ同行させてください!」
そんな思いから、私は二人の探索についていくことにした。
◇
赤星くんと私がダンジョンに入ると、受付さんと管理人さんに追い返されそうになった。
しかし、その後ろにいた烏丸先輩に気づくとなにやら話し合い、特別にダンジョンへの入場を許可されたのだ。
そのことも気に入らなさそうだった赤星くんだが……。
「どうだ! 俺なら、ボスコボルトくらい余裕なんだよ!」
「お~……たしかに、すごいな。全然コボルトの攻撃効いてないし、まだスキルを習得したばかりでボスを倒せるなんて」
「そうだろ! 俺ならお前らなんて、すぐに超えられる!」
彼は、どうやら言うだけの実力は持ち合わせていたらしい。
赤星くんはユニークスキル【硬化】で、ボスコボルトの大剣の攻撃が直撃しようが物ともせず、無理やり攻撃し続けて倒してしまった。
「じゃあ、次は俺が倒して終わりだな」
「はっ! できるのかよ?」
ボスが復活するまで待つのかなあ……。だとしたら、なんだかとても気まずい。
ボスの討伐を競うなんて言ってたけど、そのへんこの二人はどう考えているんだろう。
「あの~……烏丸先輩が倒すボスは、どうするんですか?」
「……ああっ! どうすんだよ!?」
いや、赤星。お前、無計画にもほどがあるわよ。
「紫杏。二人に結界張っておいてくれ」
「がってん!」
烏丸先輩のお願いに、北原先輩は嬉しそうにうなずいた。
私と赤星くんの周りに魔力の壁が出来上がる。すごい。これ……ありえないほどに高密度の魔力で形成されている。
でも、なんでこんな結界を張らなきゃいけないんだろう。
もしかして、烏丸先輩の戦い方って周囲を巻き込むのかな。
「それじゃあ、スキルの練習と、管理局からの依頼と、俺のレベル上げ。あと赤星くんとの勝負も。一石四鳥でいくか」
突然、魔力がそこら中に集まっていく。
魔力の塊はすぐに魔獣の形へと変化し、それは先ほど倒したはずのボスコボルトへと変化した。
……え、多くない? ここにくるまでに、赤星くんと烏丸先輩が戦ったり追い払ったコボルトの群れ。
それに匹敵する数のボスコボルトが、この狭いボス部屋に現れてしまった。
「【剣術:超級】【魔法剣:火精】【範囲拡張】【火炎陣】」
……地獄?
烏丸先輩の剣が炎のように変化したと思ったら、視界が火の海で埋め尽くされた。
赤星くんもあっけにとられているが無理もない。
だって、さっきまでボス部屋を埋め尽くすつもりかというほどいたはずのボスコボルトたちが、一瞬で魔力となって霧散したのだから。
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