第160話 深淵に通じる眼
「おや、お久しぶり」
ボスも倒し終え、帰宅途中に悪魔の男性と出会う。
ティムールのことを教えてくれた観月という男性だ。
「どうも」
「どうだい? あれから、ティムールとは戦ってみたかな?」
「戦いはしましたけど、ちょっと実力が足りなかったみたいですね」
俺の返事を聞いて、観月さんは俺たちがやってきた方向を見た。
「この先は、たしかマンティコアダンジョンだったっけ? なるほど、似た戦い方の魔獣で練習しているんだね」
よくわかるな。【超級】のダンジョンだけでなく、【上級】のダンジョンにまで詳しいのか。
魔の秩序のように、長年の経験で培った知識なのかもしれないな。
「ええ、ティムールの相手はまだ早かったみたいでなので」
「そうか……いや、方針としては正解だと思うよ。マンティコアには勝てそうかい?」
「ふふん! さっき踏破しました!」
自慢気に尻尾をぴょこぴょこと揺らしながら、シェリルが答えた。
観月さんは気を悪くした様子もなく、驚いた様子だ。
「そうか。それはすごいね。でも、それならティムールともある程度は戦えるんじゃないかな?」
「いつかは再挑戦するつもりですけど、今は【上級】で鍛え直そうかなと思って」
その言葉を聞いて、観月さんは俺たちを一人一人見つめた。
「う~ん。レベルというよりは本当の意味での経験を積むってところかな?」
「まあ、そんなところですね」
実際、一歩一歩強く慣れている実感もある。
【超級】に駆け足で昇格したからと言って、【上級】での下積みをしてはいけない理由もないはずだしな。
「しかし……」
観月さんがなにやら言いにくそうに口を閉じた。
なんだろう。なんだか気になるな。
「どうしました? 遠慮せずに言ってください」
「……気を悪くしないでくれよ? どうにも、レベル差が激しすぎると思ってね」
さすがにわかるか。具体的なレベルはわからなくても、魔力量やなんとなくのステータスってわかるからな。
一応、レベルが高くても魔力が低かったり、紫杏のようにレベルを上げる前から身体能力が高い人もいる。
なので、目測ではレベルはわからないが、ある程度の推測はできたのだろう。
「北原さんは、きっとずば抜けてレベルが高いね」
まだ慣れてない男性の言葉なので、紫杏はあまりまともに反応を返さない。
「それで……その、烏丸くんは、ちょっと周りより低い……かな?」
「そうですね。なので、レベルを上げているところです」
「初心に帰って鍛えたいのかい? それなら、別のダンジョンをおすすめしようか? 【超級】ではなく、【上級】で」
それは助かる。小田さんからもらったダンジョンリストは、まだすべて踏破していないが、情報は多いに越したことはない。
「よかったら、お願いします」
「ああ、任せてくれ」
観月さんは、所持していた端末で地図を開くと、ダンジョンの位置を指さした。
あれ、このダンジョンって……。
「この場所って小田さんのリストにもあったよな」
「そうだね。たしかピクシーダンジョンだっけ」
同じく端末を覗き込んだ大地が肯定する。
ピクシーって魔獣なのか? という疑問から、ここは記憶に残っていた。
「ピクシーって魔獣なんですか?」
なので、小田さんには聞けなかった疑問を投げかけてみる。
「ああ、その外見から妖精と間違われることは多いけど、少なくともこちらでは魔獣だよ。こちらに害をなすだけで、話なんかできないからね」
見た目はやっぱり妖精に近いんだな。
なんだか戦いにくそうだな。外見的な意味もだが、妖精サイズだとしたら攻撃が当てにくそうだ。
「別の二人からのおすすめってことなら、ここに行ってみる?」
「そうだな。せっかくだし、次はピクシーダンジョンに行くことにするか」
俺たちは、観月さんにお礼を言ってその場を去ることにした。
明日はピクシーダンジョンか。
そういえば、初心に帰るならと言っていたが、それならゴブリン種やスライム種のほうが適役だったんじゃないか?
もしかしたら、観月さんは最初に戦ったのが妖精種の魔獣だったのかもしれないな。
◇
「うわ、視界が悪いな」
翌日になり訪れたピクシーダンジョンの内装は、薄暗い森の中のようだった。
暗いうえに、大量の木や茂みがあるので、非常に前が見づらい。
ならばと、最近覚えたばかりの魔力による周辺の感知を試してみたが、こちらもだめだった。
なんだか、どんよりとした魔力がそこら中に漂っているせいか、周囲の魔力を判別することが難しい。
もう少し魔力感知が上達したら、こんな場所でもはっきりと周囲の状況がわかるのかもしれないが、今の俺に無理そうだな。
「みんなは、周りの様子わかるか?」
「なんか、甘い匂いがそこら中に充満していてわかりません!」
「ずっと子供の笑い声が聞こえてうるさい……」
「暗いだけじゃなくて、変な魔力が視界を乱してくるわね……ちょっと、わからないわ」
まさかの全滅だった。
それぞれ五感に自信があるうちのメンバーが、みんなお手上げのようだ。
これは、かなり厄介なダンジョンのようだな。
まだピクシーに遭遇していないのに、こんな状況で大丈夫なんだろうか?
それとも、すでにピクシーの攻撃が始まっているのか?
「紫杏はどうだ?」
「……ちょっとわかりにくいけど、このくらいの大きさの人型の魔力がそこら中にいるっぽいよ」
紫杏が手で作った大きさは、いかにもという俺たちが想像していた妖精と同じサイズだ。
それにしても、周りにはいるけど襲ってくることはないのか。
それはそれで余計に不気味だな。
「あと、ピクシー以外もたぶんいる。これは……スライムとゴブリンとコボルト?」
ピクシーダンジョンなのに、他の魔獣がいる。
まさか、ファントムのしわざじゃないだろうな……。
もう、ああいう事件は勘弁してくれよ。
「う~ん……たぶん、【初級】ダンジョンと同じくらいの強さだと思うよ」
「いまさらそんな魔獣が? なんかよくわからないダンジョンだな」
ならば、危険はないということか。
戦いにくい環境での【初級】の魔獣との戦闘。それがこのダンジョンの特色なのかもな。
「さっそくだな」
接近には気づけなかったが、なんとか先制攻撃を受ける前にコボルトを発見する。
大丈夫。【剣術】のおかげで、魔獣とも戦えることがわかった。
なら、必要以上に恐れることはない。
接近して剣を振るう。
向こうもさすがにゴブリンよりは強いらしく、こちらの攻撃を回避してしまう。
……あれ。回避されたと思ったけど、なんか攻撃が当たってた。
それも複数の切り傷が確認できることから、何度も攻撃を受けているようだ。
よくわからないな。
もしかして、見えない攻撃をしてくる魔獣でもいたのか?
それに巻き込まれて倒されたのだとしたら、コボルトの味方ってわけではないだろう。
……このままここにいたら、次は俺たちが攻撃されそうだな。
「なにかおかしい。一旦戻ろう」
仲間に声をかけるが、目の前の獣人…………シェリルは返事を返さない。
こちらへと振り向くと、威嚇するように唸ってきた。
「ぐうぅ!」
こちらを警戒するように、四つ足で距離をとるシェリルは、どう見ても様子がおかしい。
俺では、なにやら警戒されてだめみたいだ。
となると、ここは紫杏に頼んだほうがよさそうだな。
「紫杏。シェリルを落ち着かせられるか?」
「……はぁ。話しかけないでよ」
その言葉に、俺は驚きのあまり武器を落としかけてしまった。
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