第150話 話しかけるとヒントをくれるタイプのキャラ

「それで、今後はどうする?」


「どうって?」


「しばらく僕の毒で猪を乱獲して経験値と肉を稼ぐか、他のダンジョンに行くか」


 ああ、そういえばそういう選択肢もあるのか。

 大地のおかげでグランドタスクは、すでに狩りやすい獲物へと変化した。

 ゴーレムのときみたいに、ここで稼ぐのもいいのだけれど……。


「他のダンジョンも気になってそうだね」


「そう見えるか」


「まあ、それもいいんじゃない? 試しに他に行ってみて、行き詰まったらここでレベルを上げればいいし」


 なんともグランドタスクたちが不憫になる発言だが、その提案を飲ませてもらおう。


「任せておいてください! レベルが上ったシェリルの強さを見せてあげます! 見ていてくださいね?」


「ああ、うん。ちゃんと見ておくよ」


 ボスを倒したのはシェリルと大地だ。

 なので、今回は二人のレベルが上がったみたいだな。

 このままシェリルのレベルが上がり続けたら、そのうち普通に走ってグランドタスクに追いつけるかもしれない。


「待て~~!」


 今は無理だからやめておきなさい。


    ◇


「もうボスまで倒したんですか!?」


「うまいこと、うちのパーティのスキルと噛み合いました」


 主に大地がすごかった。


「そ、そうなんですね。踏破証明は刻んでおきました。おめでとうございます」


 これで晴れて【超級】探索者と言えるだろう。

 今までは【超級】に挑戦権があるだけの探索者って感じだったけど、さすがにボスまで倒せたら名乗る資格はあると思う。


 それにしても、思っていたよりは苦戦しないですんだな。

 【超級】ダンジョンは、ダンジョンそのもののギミックが厄介という側面のほうが大きいのかもしれないな。


「さすがは今話題のニトテキアだね。わずか数日でもう【超級】に慣れたのかい?」


 次のことを考えようとしたら、一人の探索者が俺たちに話しかけてきた。

 この姿……魔族みたいだな。悪魔か?


「ええと、どちら様でしょうか?」


「……ああ、失礼。僕は【超級】探索者の観月みづきあらた。種族は悪魔。つまり、君たちと同じく魔族だよ」


 やっぱり悪魔だった。

 白戸さんのところにもいたけど、この世界ってわりと悪魔が多いからな。

 だからこそ、紫杏のことを悪魔だと勘違いしてもらえるんだけど。


「魔族が主体のパーティが、破竹の勢いで上に上がっていると聞いてね。気になっていたんだ」


「つまり、ファンというわけですね!」


「あはは、まあそういうことになるかな」


 シェリルの発言も笑って肯定してしまった。

 魔族同士ということもあり、急に昇格した俺たちを気にしていたってところか。


「それにしても、グランドタスクを倒すのは簡単ではなかったろ? どんな活躍をしたのか聞かせてくれないかい?」


「ふっ、いいでしょう。 お姉様が道を塞いで、私が追いかけました。ついでに大地が毒で仕留めました」


「なるほどなるほど。ん? そちらの二人は?」


 一応、シェリルにも分別はあるのか、こちらの手の内をあまり明かすようなことはしなかった。

 すでに大多数に知られている大地の毒はともかく、紫杏の結界なんかは隠したみたいだ。


「私は、ボス以外なら身にまとった魔力を壊したわね」


「それはすごい。たしか火の魔術の使い手だったよね? 魔術であいつの護りを破壊するのは、相当高度な技術が必要なはずだ。ボス以外といえど大したものじゃないか」


「それで、君は?」


 夢子に笑いかけていた悪魔の男は、笑みを浮かべたままこちらに問いかけた。

 ええと……俺の今回の活躍って、あまりないよな。


「斬撃で猪の体勢を崩したくらい?」


「……なるほど、援護というわけだね。やっぱり、メインの攻撃は魔族のほうが向いているし、いい判断じゃないかな」


 まあ、毎回サポートってわけではないけど、ケースバイケースだ。

 それに、そろそろ俺のレベルが不足してくるはずなので、今後は完全にサポートに徹するのも悪くはない。


「おっと、すまなかったね。一方的に話してしまって。これでも君たちの先輩だし、なにか聞きたいことがあれば答えるよ?」


 聞きたいことと言われても……。

 ああ、それなら一つ聞いておこう。


「おすすめのダンジョンの情報とかってありますか?」


「ダンジョン……ダンジョンねえ。君たちの戦闘方法や特性を考えると……」


 しばし考えてから、悪魔の男性はいい場所を思いついたのか、改めて笑みを浮かべて答えた。


「下手な小細工が嫌なら、ティムールなんてどうだい?」


 全然知らない単語だから、どんな魔獣なのか想像もできない。


「ええと……どんなダンジョンなんですか?」


「ああ、すまない。異世界の古い魔獣は、わかりにくいからね。ティムールは、巨大な虎のような魔獣だよ。毛の一本一本がそこらの剣よりも硬く、当然ながらスピードも爪や牙の殺傷能力も、かなりのものだ」


 虎か。グランドタスクといい動物が多くなってきたな。

 虎と聞いたシェリルが、小声でお姉様とつぶやいているが、たぶん気にする必要のないことだろう。


「変なことはしないけど、単純に強いタイプの魔獣か……」


 そのほうが、今の強さも測りやすそうだな。

 となると、気になることはあと一つ。


「ちなみに、そのダンジョンのギミックは?」


「状態異常の無効。敵も味方もだけど、元々向こうはそういった攻撃はしてこない。実質こっちだけ禁止されてるようなものだね」


 う~ん……そのギミックはちょっと悩む。

 目線を送ると大地は頷いてから口を開いた。


「僕はそれでもかまわないよ」


 本人はそう言うが、これまで頼りにしてきた大地の毒が一切使えないダンジョンか。

 まあ、ある意味では、これもまた今の自分たちの強さを測るダンジョンと言えなくもないか。


「一度行ってみるか。参考になりました。ありがとうございます」


「いえいえ、それじゃあこれからもがんばってね」


 悪魔なのにやけに友好的な人だったなあ。

 手を振る悪魔を見ながら、俺たちはグランドタスクのダンジョンをあとにした。


    ◇


「そういえば、グランドタスクの透明化を解除したことは言わなかったわね。知らない相手だから警戒したの?」


 帰り道に夢子がそんなことを言ってきた。

 透明化の解除……。


「あ、忘れてた。そういえば、そんなこともしていたな」


「自覚がなかったんだね……あれも、けっこうすごいことのはずなのに」


 し、仕方ないじゃないか。

 うちのパーティ、魔獣が透明化していても関係ないんだから。

 くそ~、五感に自信のあるやつらめ。

 こうなったら俺もなにか感覚を……第六感みたいなのスキルにないかな?

 いや、ある意味で紫杏の魔力感知がそれに近いか。

 ならば、七つ目の感覚……。これ以上はやめておこう。


「たぶん、変なことを考えていることだけはわかるよ」


「失敬な! 先生を何だと思っているんですか!」


「かわいいでしょ。なんと、あれ私の彼氏なんだよ」


「知ってるわよ……」


 うん。みんなのこの反応が全てだ。

 俺は俺でこれまで通りの感覚でがんばることにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る