第124話 君は氷のように硬い表情だな!
「それにしても、本当にスライムを増やさずに倒しているな」
「まあ、増えてないだけでいずれ攻撃を学習されてしまうんですけどね」
だから、あまりスライムには攻撃を当てないようにしないといけない。
それこそ、各ダンジョンでの管理人さんがやっているように、魔獣から守りつつもスライムには攻撃しないくらいが必要だ。
それでいて、通常の魔獣とは戦いながら経験を積んでいくのは、なかなか骨が折れそうな作業だな。
「それは、浩一たちの仕事だ。言っただろ。俺たちはただ護衛についているだけで、ニトテキアの方針はお前たち自身が決めるべきだ」
「少年よ。君、強くなるきっかけは掴めたのに、スライムのせいであれ以来鍛錬できてないんだろ? 少しはお姉さんたちに任せておきたまえ」
それは要するに、二人がスライムを外敵から守ってくれて、俺たちを普通に探索させてくれるということだろうか?
だとしたら助かる。赤木さんの言うとおり、周囲の魔力を使った魔法剣はまだまだ練習したいからな。
あれもこれもと気が散っては、全然スキルの扱い方も向上しないというものだ。
「じゃあ、すみませんがお言葉に甘えさせてもらいます」
俺の言葉に二人は頼もしそうにうなずいた。
デュトワさんは表情の変化がわかりにくいが、微笑んでくれたような気がする。
「君ぃ……それじゃあ伝わらないぞ?」
「む……努力する」
大丈夫だ。二人の気遣いはちゃんと伝わった。
◇
「シェリルクロー!」
しかし、シェリルのやつずいぶんと攻撃が上手になったな。
これまでその回避の巧みさに目がいっていたが、いつのまにか攻撃とスキルのタイミングが各段に上達している。
今もしっかりと反撃を受けないタイミングで、【両断】を使ったことで、プレートワームにダメージを与えていた。
当然、以前のように手痛い反撃を受けることもなく、リスクあるスキルの使い時はほぼ完璧といえる。
「シェリル。もう一匹近づいてるよ」
さすがに戦闘中は言い争うこともなく、耳に手を当てて音を聞いていた大地がシェリルに忠告した。
それを聞いたシェリルは鼻をならすと、接近しているもう一匹のワームへと向き直る。
「なんの! シェリルシロー!」
さっきが黒だったから今度は白ってことなのだろうか。
そもそもクローって黒じゃない気がするけど、まあ本人がそれでいいならいいや。
名前は間抜けだけど、シェリルの攻撃は地中から現れたワームにカウンター気味で命中し、ワームは登場とともに毒に侵される。
毒だし、やっぱり白っていうのはなんか違うよなあ……。
さあ、意識を割きつつも魔法の構築は順調にいっていることだし、俺もそろそろ攻撃に参加するとしよう。
先ほどよりは少ない魔力になるように調整したが、それでも周囲の魔力の大半を使って魔法剣を発動する。
圧縮までが完了したところで、シェリルは俺の行動に気がつきワーム二匹から大きく距離を取った。
「さっきより威力は低いだろうけど……たぶん、大丈夫だろ!」
今度は接近してから斬るのではなく、斬撃を飛ばしてワームたちを攻撃する。
さすがに距離が離れているし、そもそもあの巨体が二匹も相手となると近づくよりもこっちのほうがいいな。
決して、【剣術】をないがしろにしているわけではない。というか、斬撃だって剣の技術が必要だから、俺の攻撃はすべて【剣術】を使っている。
だからどうか機嫌を損ねないでくれると助かる。
「わ~! すごいすごい! 切れたところがバシューって燃えています!」
うん。成功したみたいだな。
一つ一つの斬撃は、プレートワームを切断できるほどの威力だったし、魔法剣のおかげで切断面から追加で燃えるため、そこから継続でダメージを与えられている。
さすがのプレートワームも、これだけのことをされたら無事では済まないようだ。
しばらくして、経験値が大量に入ってきた感覚があったので、どうやらうまく倒せたみたいだな。
良い感じだ。【剣術】も、【斬撃】も、【魔法剣】も、すべて組み合わせて戦うことができている。
当然、常に手数を増やしてくれている【太刀筋倍加】もだ。
これが、今俺ができる最善の戦い方なんだろう。ゆくゆくは火だけでなく、水の魔法剣も同じように扱いたいが……今は火をしっかりと扱えるようになってからだな。
「……どうした?」
紫杏が満面の笑みだった。言葉こそ発していないが、それだけニコニコと俺を見ていたら気になる。
「最初のころの善みたいだね。面倒ごとに巻き込まれてばかりで、自分のことを後回しにしてたから心配だったんだよ?」
「ん……まあ、頼りになる人たちもいるし、俺一人でって躍起になる必要はなかったからな」
「そうだねえ……それじゃあ、これからもちゃんと頼りながらがんばっていこうか」
きっと、少しうぬぼれていたんだろうな。
自分たちで問題を解決してきたから、遭遇した問題はすべて俺たちが解決すべきだなんて考えていた。
だけど、デュトワさんや赤木さんのように頼りになる人たちのおかげで、久しぶりに探索に集中できている。
ここにはいないが、ダンジョンの管理人さんたちも、きっと今もスライムの問題を解決しようと尽力しているのだろう。
その手伝いをするまでならいいのだが、それを俺が解決するっていうのは違うだろうなあ……。
「はいは~い! 頼りになる人狼シェリルです!」
近くにいるワームたちが倒れたことを確認したため、シェリルがとてとてと近寄ってきた。
紫杏がなでてやると、満足そうに息を漏らす。
さて、とりあえずはひと段落か。
スライムのほうはというと……ワームにだけ集中していたため、スライムは完全に意識から排除していた。
なので、スライムのほうを確認してみると、なんともすごい光景が広がっていた。
「すごいですね……これ、デュトワさんが?」
「ああ、大した斬撃だったな。余波でスライムたちが死にそうだったので、念のために作っておいた」
スライムの群れと俺たちの間を隔てるように、巨大な氷の壁ができていた。
さすがは【超級】の探索パーティのリーダーだ。
そして、赤木さんが残念がるように魔術の使い手だというのもよくわかった。
「うわ、一条さん以上かも……」
「そうなのか?」
一条さんが戦うところは見たことないが、きっと大地は何度か見たことがあるのだろう。
そんな一条さんの魔術と比較して、デュトワさんの魔術は引けを取らないどころか上回る代物のようだ。
「私も炎でこんなことはできないわね……そもそも、魔力量も精度もまだまだ届かない」
「……」
夢子の魔術もかなりのものだと思うが、さすがにまだ【超級】には至っていないということか。
そういえば、火の精霊が言っていた魔力の使い方、夢子も試すように言ってた気がするけど、あれからどうなったんだろう?
「なあ、夢……」
「へっくしょん!!」
この中で一番の薄着だからか、シェリルが大きなくしゃみをした。
……そういえば、なんかさっきよりも寒くなってきたような?
「お、おい、デュトワ! 後輩にほめられてうれしいのはわかったから、もう少し加減したまえ!」
「む……すまない」
ああ、なるほど。デュトワさんの魔法がさっきよりも強化されたのか。
つまり、あれでもまだ全力ではなかったと……すごいな、と思ったが口にするとさらに冷気が強くなりそうだから内心に留めておこう。
「お姉さま寒いです……」
「ほんとだね~。善~、あっためて~」
シェリルに抱き着かれている紫杏に抱き着かれた。
たしかに、俺も寒くなっていたから悪くはないんだけど、魔獣がきたら動けないし休憩の間だけにしないとな。
「……なんか、大きなカブみたいね」
呆れる夢子の声から察するに、俺たちははたから見たらさぞ間抜けな恰好なんだろうな……。
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