第81話 探索者ごっこにお似合いの木の枝
「いや、助かった。ここのところダンジョンもおかしくなってたからな」
「おかしいって、なにかあったんですか?」
「なにかって……お前らのほうがよく知ったんだろ。新種の魔獣というか、魔獣もどきがそこら中で見つかってんだろ? 中には危険なやつまでいるから、探索を自粛して情報収集するってやつらが増えてるんだ」
ああ、一条さんとデュトワさんが調査している件か。
なんだか、色々なところに影響が出てきているようだ。
そのうち、管理局や他の探索者たちでもっと大掛かりな調査を行うことになるかもしれないな。
「それより、善っていったな。お前さっさとその武器渡せ」
強盗みたいなことを言われたが、一応武器を見てくれるってことでいいんだよな?
俺はボススケルトンの宝剣を厚井さんに渡した。
「やっぱりな……なんだこのボロボロの剣は。お前、こんな武器で今まで戦ってきたのかよ」
「どれどれ……うわっ! 壊れかけじゃねえか。烏丸、お前こうなる前に武器は整備しろよ」
ドワーフ二人の目から見ても、やはり俺の愛用した剣はもうだめらしい。
「言い訳すると、さっきダンジョンで壊れそうになっただけで、その武器で戦ったことはないぞ」
「いやいや……これだけの負荷は、魔獣を何十匹も狩らないといけねえし、さすがに今日だけでってことは……ああ、そうか。お前ら毎日何十匹も狩ってたんだったな」
なんとか納得してくれたらしい。
杉田が厚井さんに、もうちょっと見る目を養えと怒られている。
こうして見ると、たしかに師弟関係なんだな。
「とにかく、こんな武器で探索なんてさせるつもりはない。装備は作るがしばらくかかるからな。代用品として、お前はこれを使え」
そう言って渡された剣は、これまで使っていたものと同じくらいの大きさだった。
これなら、変わらず戦うことができそうだな。
問題は性能のほうだが、あれでも【初級】とはいえボスのドロップ品。さすがに多少の弱体化はしかたがないか。
「どうだ、使えそうか?」
「えっ……あの、ボススケルトンの宝剣の倍以上の強さなんですけど」
弱体化なんてとんでもなかった。
なんだこれ、強すぎるだろ。代用品とか言わずにこの武器くれないかな。
「はっ? お前……まさかこの武器、強化して使い続けていたとかじゃなくて、ドロップしたときのままなのか?」
「え、そうですけど」
「まさか、他のやつらも似たような装備じゃねえだろうな」
どうだろう。そういえば、ニトテキアとして活動してから、装備品を新調とかしたことないな。
大地と夢子は首を横に振る。それはどっちの意味だ。
「僕たちは魔法が主体なので、武器は最小限のものを使ってたよ」
「それで戦えているうちは変える必要ないから、貯金してたわ」
「私はこの爪こそ最強の武器です」
だよな。誰も装備を変えようとか言ってなかったな。
これまで、それでやってこれたから気にしていなかった。
「馬鹿野郎! 装備品なめんじゃねえぞ! おい慶一、今日は店じまいだ。この馬鹿パーティの装備品を一刻も早く作らねえと、せっかくの素材の供給がパーになる」
なんだか慌ただしくなってきた。
まあ、俺たちにとっても装備一式が早く手に入るならありがいたいし、邪魔しないうちに帰るとしよう。
「それじゃあ、俺たちはこれで……」
「おい待て。なに帰ろうとしてんだ」
と思ったのだが、厚井さんに呼び止められてしまった。
もしかして、早くも素材を集めるよう依頼とかされるのか?
「その武器、試し切りすらしてねえだろうが」
「そうですね。だから、これからちょっとダンジョンで」
「いちいち、ダンジョンとここを行き来するのも面倒だろうが。試し切り用の金属や人形くらいならあるから、ここでやれ」
なるほど、たしかに試してみたけどだめでしたと戻るのも面倒だ。
ずいぶんとサービスがいいな。こういうところでアキサメと差をつけているのか。
いや、もしかしてアキサメでもそういうサービスがあるけど、俺たちが利用しなかっただけなのか?
◇
「ほら、こんなもんでいいだろ」
厚井さんについていった広い部屋には、たしかに岩や金属や魔獣を模した作り物がそこらにあった。
ためしに軽く叩いてみると、それなりの硬度であることが確認できる。
さすがにゴーレムほどではないけど、これならある程度の使用感はわかりそうだ。
「それじゃあ、普段やってるようにその武器使ってみろ」
「はい」
とりあえず、黒い金属の塊めがけて斬撃を飛ばしてみる。
十三本の軌跡に一度に切り刻まれた金属は、その斬撃の数だけ分割されていった。
「うん。今までどおりに戦えそう……」
俺の手元から、ビキッと聞き覚えのある音が聞こえる。
手元を恐る恐る見てみると、そこには根本から折れてしまった代用品の剣だったものが……。
「……買い取りでしょうか?」
「いや……半端なもんを渡したこっちの責任だ。なるほどな。そんなとんでもない使い方してたんじゃ、武器も壊れるわけだ」
杉田は唖然としているが、厚井さんはすぐに次の武器のことを考えてくれているみたいだ。
いや、少し動揺しているな。客の前だから表に出していないだけか?
「見たところ、お前のそれ魔法だな」
「はい、魔法剣です」
「しかも、一振りで十本、いや十二本の魔法剣か」
「そうですね」
スキル様様だ。思えばスライムを倒していたころと比べると、ずいぶんと俺の攻撃も変わったもんだな。
「それだけ内部に魔力を通して、しかも一度に出力する負荷に耐えるか……しかたねえ。悪いがこれで我慢しといてくれ」
「これは……木の剣?」
渡されたのは刃すらついていない、剣の形をした木の枝といえる代物だった。
たしかに握り心地はこれまでの剣と似ているが、たまたま剣っぽい形だった木の枝だよな、これ……。
「悪いが、刃は諦めてくれ。これから作るお前の武器は、ちゃんとその辺も考えたものにするから安心しろ」
「いや、でも……これじゃあ、戦えないんですけど」
「お前、普段は魔法剣で戦うんだろ? なら、剣の切れ味そのものよりも、魔力の通りの良さのほうが重要だ。その剣は、アニミズムの剣。精霊を信仰するやつが好んで使う魔法にめっぽう強い剣だから、お前の魔法剣にも耐えられるはずだぞ」
なるほど、お前なんかおもちゃで遊んでろってわけではなく、ちゃんとした武器だったのか。
新たに渡された剣に魔力を流して魔法剣を発動する。
なんだか、これまでで一番楽に発動できた。それなのに、魔法で覆われた刃の部分は、なんだかやけに鋭利な見た目だ。
「えいっ」
斬撃を飛ばす。黒い金属は先ほど以上の大きさの斬撃で、小さな金属片へと姿を変える。
嫌な音は聞こえなかった。手元を見ると、そこには健在の剣の姿が……。
「おぉ……」
再び斬撃を飛ばす。試し切り用の岩や金属が次々とバラバラになっていく。
何度も魔法剣と斬撃の併用をしているが、手にした武器はまったく破損する様子はない。
「やりすぎだ。馬鹿」
厚井さんに止められると、俺はひとしきり試し切り用の物を切り刻んでいた。
「しばらくは、それで戦えそうだな」
「ええ、そりゃあもう!」
満足した俺の返事を聞いてから、厚井さんは杉田に掃除するよう指示した。
しまった、つい夢中になってやりすぎてしまった。
俺がやったことだから、せめて手伝いの一つでもしないとな。
「あ~あ、めちゃくちゃだなこりゃあ」
「悪い。あまりにも使いやすかったもんで」
「いいさ別に。手に馴染んだなら何よりだ」
男二人で、ちまちまと破片を片付けていく。
いくら試し切り用とはいえ、こんなに壊しちゃまずかったかと思ったが、杉田も厚井さんも気にしていなかった。
「まあ、特別な防具や魔導具の実験用の動物ならともかく、岩や金属程度ならすぐ補充できるしな」
「そうか、実験用の動物までいるんだな」
「どうしても、生き物相手じゃないと検証できないこともあるからな」
たしかに、頑強さを確かめるだけとかなら不要だろうけど、加護や魔力の効果の確認には必要か。
分野が違いすぎて、そういう実験用の生き物を造るわけにもいかないだろうしな。
というか、下手に生き物なんか造ったら予想外のものができるなんてのは、パニック系の映画のお約束だしな。
実験で造られて……知能を得たり?
「ああ!?」
「な、なんだよ」
その話で俺はようやく思い出した。
今すぐ危険かどうかなんてわからない。
だけど、一刻も早くこの情報は一条さんに共有しておくべきだ。
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