第80話 こども店長(ただし見た目だけ)
「こりゃあ、すごい量だな……」
「ワームのほうはまだしも、ゴーレムのほうは運ぶにしても重くて困ってたんだよ」
杉田にドロップ品の山を見せると、慣れた手つきで魔獣の素材の検分を始めた。
なんだか体の大きさのせいで、子供がちょこまかと動いているように見せてしまう。
「よし、問題ないな。師匠に会ってくれ。うちに全部譲ってくれるなら、お前らの装備品一式くらいは作ってくれるはずだ」
「それはいいんだけど、杉田の師匠のこと知らないし、アキサメで売るより得なのか?」
「まあ、一応はそのはずだぞ。あれでもアキサメより優先して店にくる客もいるくらいだしな」
あれでもという言葉が気にはなる。
だけど、あの大手のアキサメと対抗できるほどとなると、その師匠の腕には期待できそうだな。
◇
杉田に案内されてついていくと、なんというか閑古鳥が鳴いているような店にたどり着いた。
先ほどの話と違うと、一気に不安になってきそうな店の雰囲気だ。
アキサメほどではないにしろ、常連客のような人たちが何人かいるものかと思っていたのだが……俺たち以外誰もいない。
「ああ、言いたいことはわかるぞ。わかるが、ちょっと待ってくれ。うちは高額だからそう頻繁に何人も客が訪れるような店じゃないんだ」
内心を察したらしく、杉田は俺の懸念していることを先んじてフォローする。
高級な装備品か。たしかに装備品なんてものは、高い物になると金銭感覚がおかしくなるほどの値段になる。
要するにこの店は高級店ってことだろうが、そんな店でも【中級】の魔獣の素材が必要なのか。
「ちょっとそこで待っていてくれ。おい、師匠! 連れてきたぞ!」
杉田は店の奥へと入ってしまったため、俺たちは店内に飾られている装備品を物色していく。
値段を見ると、たしかに今の俺たちでは決して簡単な気持ちで買えないようなものばかりだ。
よっぽど行き詰っていて、あとは装備品を変える以外なにもできることはない、という事態でない限りは購入を躊躇してしまうだろう。
だけど、値段相応かそれ以上の性能であることはなんとなくわかる。込められた魔力が違う。それに、なにかわからないが不思議な力まで感じるが、これは加護とかだろうか?
「なんでしっかりした鎧もあるのに、こういう露出が多い服もあるんだろうね」
「その分魔力や加護で防御できるんだろうけど、鎧のほうが見た目は安全そうだよな」
防具というにはおこがましい、ほぼ水着のような商品を見ながら、紫杏がまたろくでもないことを考えている。
「夜用に買う?」
「それなら、もっと安いそれ用の衣装買ったほうがいいな」
「じゃあ、この後そういうお店見に行こうか!?」
「行かない」
「……そっか、どうせ脱ぐもんね」
このサキュバス手ごわい。
なんか都合のいい解釈をされてしまい、上機嫌に俺の腕に抱きついてきた。
「でも、私は鎧を着ちゃうと動きが遅くなるので、どっちも頑丈っていうのならこういう防具のほうがいいですけどね」
たしかに、シェリルだけでなく機敏さを武器にする者もいるし、後衛の探索者たちは下手に重い装備だと動くのも辛いだろう。
俺もあまりごてごてした装備品だと戦いにくそうだし、ある程度は軽いほうがいいな。
「シェリルにはまだ似合わないと思うよ。いつか紫杏みたいに成長できるといいね」
「むっか~! なんですかそれ! どこを見て言いましたか!? ちゃんとあります~!」
「あるだけなら、誰にでもあるからね」
大地とシェリルがいつものようにじゃれてると、杉田がシェリルよりも小さな女の子を連れてきた。
杉田も小さいが、この女の子はもっと小さい。ともすれば幼い兄妹のように見えてしまうが、これが師匠なのか?
「安心しろ。その防具は装着したやつに合わせて大きさも変わる。そこの貧相な人狼でも、問題なく使えるはずだぞ」
「はあっ!? 貧相って! あなたのほうがちんちくりんの子どもじゃないですか!」
「ああ? 私はドワーフだ。子供じゃねえよ。その辺の種族と比べてんじゃねえ」
とりあえず、シェリルと仲良くやっていくのは無理かもしれない……。
しかし、薄々そうではないかと思っていたけど、やっぱりドワーフだったか。
杉田も師匠も子供みたいな姿だし、アキサメに対抗できるほどの品を作れるとなると、その手の専門だろうとは思っていたんだ。
「あなたが杉田の師匠ですか?」
「おう、ドワーフの
そういえば、杉田の名前までは聞いていなかったな。
それにしても、杉田も厚井さんも日本人の名前だな。
ということは、紫杏みたいに後天的でユニークスキルで種族が変わったのか?
「その名前、元は人間だったんですか?」
「ん? ああ、私も慶一もユニークスキルでドワーフになった。こいつ、こう見えても人間のときは身長高かったらしいぞ」
厚井さんがカラカラと笑いながら杉田の背を叩く。
杉田は不満そうな顔をするが、師匠には逆らえないのかされるがままだ。
「それじゃあ、この店も厚井さんが一人でここまで大きくしたってことですか?」
「ほう、そこまで気づくか。噂どおりのやり手パーティみたいだな。ニトテキア」
やり手というのなら、厚井さんこそがそうだろう。
もともと人間だったのに、急にドワーフになって一代で現役中にここまでの店を経営している。
それも、アキサメという競合相手がいるのに、高級店として食っていけるってことは相当なものだ。
この人が俺たちの装備を一式作ってくれるというのなら、思っていた以上に良い取引になりそうな気がする。
「取引の内容は杉田から聞きました。厚井さんなら、もっと上のパーティと取引できたんじゃないですか?」
「ああ、できないことはないだろうな」
だよな。この人の腕なら、わざわざ俺たちと取引なんかする必要もないはずだ。
得すぎるのだ。この取引は俺たちに。
「だが、噂は聞いている。そして慶一に確かめさせて確信した。お前ら、そこらの上位パーティなんかより、素材を提供してくれるだろ」
「そりゃあまあ、魔獣は毎日狩り続けていますけど……上位のパーティよりっていうのは、難しいんじゃないですか?」
上位のパーティがどれくらいの魔獣を狩るのか知らないが、俺たちがそれ以上ってなんか勘違いしてるんじゃないか?
いや、そのために杉田が俺たちの貯めていた素材を見たんだよな。
そういえば、一条さんも俺たちのレベル上げの手段に思うところがあるようだった……。
となると、上位パーティはもっと効率よく少数の魔獣を狩るだけなのかもしれない。
「いや、数だけならそこらのパーティ以上だよ。お前らは」
褒められているというよりは、効率の悪いレベル上げをしている不安が勝ってくる。
大丈夫かな。今のままではなく、やはり効率のいい魔獣を探したほうがいいんじゃないか?
もしもそうなった場合、厚井さんが望むほどの素材は手に入らなくなるかもしれない。
「えっと……ありがたい話ですけど、たぶん俺たちが効率の悪いレベル上げをしているせいかもしれません」
「どういうことだ?」
厚井さんにこれまでのレベル上げについて話していく。
シェリルと大地と夢子の目が遠くを見つめ始めた気がするが、気にせずに話を続ける。
一通り話し終わると、杉田も先の三人のような目をしていた。
「なるほどなあ……よし、これからも問題ないな。それで、契約すんのか? しねえのか?」
「いや、話聞いてました? これから、俺たちがもっと効率のいい魔獣を発見したら、渡せる素材も減るんですけど」
「問題ねえよ。減らないと断言してもいい。お前みたいな魔獣狩りが大好きな探索者は、どうせ別の魔獣を見つけても今と同じように狩り続けるはずだからな」
そうかなあ…? だけど、厚井さんが納得してくれているのなら、やっぱりこの話は受けるべきだな。
仲間たちに確認してみると同意してくれたので、俺たちは素材と引き換えに優秀な装備品を手に入れることになった。
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