第51話 仲間の証は無敵のスキル
「あなた方へ共有しておくべき情報は、そんなところですかね」
事情は理解できた。
普通に探索していたはずが、なんだか妙な事件に巻き込まれたものだ。
だけど、俺には今回の事件と同じくらい、気にしていることがある。
「あの、ワームダンジョンって明日からも探索できるんですか?」
一条さんは俺の質問が予想外だったらしく、わずかに目を見開き驚いていた。
「え、ええ……可能です。私が言えるような立場ではないと思いますが、こんな事件に巻き込まれた後なのに、まだここを探索するんですか?」
「はい。だってまだボス倒してませんから」
「一条さん、無駄ですよ。善はダンジョンの攻略好きですから」
そりゃあ嫌いじゃないけど、あの黒いワームは例外の強いやつだったんだろ?
なら、奥にいる上位種や、もしかしたらボスさえも、もっと簡単に倒せるかもしれないじゃないか。
せっかくここでワームを倒すのにも慣れてきたのに、踏破もせずに次に行くのはもったいない。
「あなたのような人なら、本当に異世界に行けるかもしれませんね……」
「はい、がんばります」
一条さんのその言葉は、呆れを含んでいたのか、激励を含んでいたのかはわからない。
なので、都合よく解釈して、激励されているということにした。
「それと、この戦利品はあなた方のものです。パーティのリーダーとして登録されている者が装備することで、パーティメンバー全員に効果を発揮する、いわゆるパーティスキルと呼ばれるスキルが使用可能になる指輪ですね」
一条さんが俺に渡してくれたのは、プレートワームの指輪だった。
これ、パーティスキルの効果がある指輪だったのか。どおりで希少な存在と言われていたわけだ。
まさか自分たちが、そんな装備を早々に手に入れることになるとは思わなかった。
パーティを結成してそんなに日は経っていないので、非常に順調な滑り出しと言えるだろう。
「その指輪ってどんなスキルが使えるようになるんですか?」
シェリルの質問に、一条さんは念のために俺たちだけに聞こえるように小声で話してくれた。
「【板金鎧】と呼ばれているスキルです。スキルを使用して数秒の間ですが、最低でもプレートワームなみの防御力を得ることができます」
それはかなりありがたいスキルだな。
でも、継続時間が数秒となると、使用のタイミングは難しそうだ。
それこそ、プレートワームの最後の悪あがきの攻撃の時とかに、このスキルを使えば無傷で勝利できたのかもしれないな。
「最低でもってことは、もっと強くなることもあるんですよね?」
「ええ、パーティ全員の魔力が高ければ高いほど、その硬度は増していくようです。ですから、特に魔法使いのみで構成されているパーティなんかは、喉から手が出るほど欲しているでしょうね」
一条さんの説明はもっともなんだけど、俺たちは皆同じ事を考えていた。
その証拠に、全員が紫杏のほうへと視線を向ける。
パーティ全員の魔力に依存する? 今の紫杏の魔力ステータスって、どうなってたっけ。
もしかして、このスキル数秒間無敵になるスキルと言っても差し支えないんじゃないか?
「? それと、一度使用すると10分ほどのクールタイムが必要ですので、使用の際は気をつけてください」
俺たちの行動を不思議そうに思いながらも、一条さん使用時の注意事項まで教えてくれた。
身内だからってこともあるんだろうけど、本当に良い人だな。
その一方で樋道のような管理人もいるし、ダンジョンの管理人というのも大変そうだ。
◇
「一つ気になることがあるんだけど」
帰りがてら大地がそうつぶやいた。
「気になることって?」
「紫杏はまあ……色々おかしいから別としても、どうして善にまで帰還の結晶が効かなかったんだろう」
「そういえばそうだな。紫杏は魔力とかステータスが高いから、強制的な帰還を無効にしたのかもしれないけど、俺は大地と夢子よりもそういうのに抗えなさそうだな」
「ま、まあいいじゃん。みんな無事だったし、気にすることないよ」
いや、気になる。
もしも今後のダンジョンで搦手のような魔法を使われたら、その対策として使えるかもしれない。
もしも俺の力だというのであれば、ちゃんと把握しておくべきだ。
「あぁ……善が考察モードになっちゃってる。わかったよ。わかりました。白状します!」
何やら心当たりがあるのか、紫杏が俺たちにカードを提示した。
レベル45か、随分と上がったなあ。
「たぶん、さっき増えてたこのスキルだと思う」
紫杏が指さした箇所には、たしかに見覚えのない新しいスキルが増えている。
「【所有餌保護】……どういうスキルでしょうか?」
「……紫杏はサキュバスだ」
知っている。
大地の急な確認を不思議に思うも、大地はそのまま言葉を続ける。
「じゃあ、紫杏にとっての餌ってなんだろうね」
「…………もしかして、俺?」
つまりなにか? 紫杏は自分の食料を他人に奪われたりしないように、守るためのスキルということか。
「だから見せたくなかったの! 私が善のこと餌だと思ってるわけないじゃん!」
「紫杏が自分の餌だと思っている相手を保護する、みたいなスキルってことかしら? 結界みたいに物理的な危害も防げるのか気になるわね」
「うぅ……たぶん物理的なのは無理っぽいです。餌の場所がわかるのと、餌を他の人に汚されないようにするだけだから、状態異常とか精神干渉系にだけ対応できるっぽいです……」
なんとなく理解できていたスキルの効果が気に入らないためか、あるいはその字面が嫌なのか、どちらにせよ紫杏は言いにくそうに俺たちに伝えた。
「でも、善以外には適用されないってことだね。だから帰還魔法を使われたときに、僕たちだけが転移しちゃったのか」
そういうことだったのか。
パーティで行動するのであれば、俺だけが守られてもしょうがないし、なかなか使い所に困りそうなスキルだな。
「そういえば、色々とごたついてたから忘れてたけど、俺もスキル覚えてないかな?」
「ああ、つまりプレートワームへのとどめは善だったんだね」
俺の発言の意図を理解したのか、大地が言葉を返す。
あのワームは主に大地と夢子の魔法で内部を攻撃されていたが、俺も嫌がらせ程度に斬撃を飛ばしていた。
たまたま、それを受けて息絶えたらしく、ワームの死後にレベルが上がる感覚があったのだ。
「なんか悪いな。一番レベル上げの意味がないやつが、横取りのような真似して」
「意味はあります! その分お姉様が強くなるので!」
「今晩が大変そうだけどね」
やめろ、夢子。考えないようにしてたんだから余計なことを言うな。
紫杏も任せとけじゃないんだよ。
「それで、レベルとスキルはどうなってるの?」
「ちょっと待ってくれ、ええっと……うわっ」
レベル40。あいつを倒しただけで、紫杏に迫るほどのレベルになっていた。
これ全部吸われるとしたら、紫杏はどれだけ強くなるんだろう。
「とんでもないレベルになってるね」
「あ、スキルもちゃんと増えてますよ! 【太刀筋倍加】ってやつが!」
本当だ。見覚えのないスキルだし、これが新たに習得されていたスキルだろう。
……ああ、そうか。これ、もう使ってた。
スキルを認識したのと、使用済みだったためか、ぼんやりとこのスキルのことが理解できた。
「名前からすると、一振りで複数の太刀を浴びせるってスキルかな?」
「たぶんそれで合ってる。あとまとめて威力も上げられそうだ。樋道に撃った斬撃が、いつもより存在感があったのは確認できてるからな」
もっとも避けられてしまったので、威力がどの程度上がるかまではわからないが。
「ほら、ちゃんと強そうなスキルまで覚えてる。善だってレベルを上げることには意味があるんだよ」
「それもそうか、でもみんなのレベルも上げたいし、しばらくはここでワームを倒すか」
「明日になさい。あんた、本当にレベル上げるの好きね……」
なぜか、釘を刺されてしまった。
「俺だって、さすがに今から上げようとは言わないぞ?」
そう否定するも、大地と夢子はもちろん。シェリルすらかわいた笑いでごまかす始末だ。
なぜだ。なぜ、俺の信用がここまでなくなっている。
「そうだよ。善は、今からダンジョンなんか行かないよ」
よかった。紫杏だけは俺の味方みたいだ。
「だって、これから私のレベルをいっぱい上げてくれるんだから」
ワーム退治に探索者と管理人との戦闘。それらはただの前哨戦だったらしい。
どうやら、俺にはまだこのサキュバス退治という大仕事が残されているようだ。
……明日、学校休もうかな。
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