第41話 許容範囲を超えたクリーピー

「かっこよかったよ~さすが私の善! わ・た・しの善!」


「お疲れさまでした先生!」


「ありがとう二人とも、あと紫杏はそんなに強調しなくても、俺はお前のだから」


「ふふ~ん」


「よかったですね。お姉様!」


 しかし、思っていたよりもかなり楽に戦えたな。

 剣術のおかげというのもあるのだろうけど、直前に手に入れたこれがかなり活躍してくれたようだ。


 俺は手に持っていたボススケルトンの宝剣を眺める。

 この武器かなり性能いいみたいだからな。これまでは、適応力の恩恵がでかすぎて武器の恩恵を感じにくかった。

 だけど、武器が大事だという当たり前のことを改めて実感できた。


「そのうち、オーダーメイドの武器とかもいいかもな」


「でも、高いらしいからねえ。魔法の結晶買っちゃったばかりだし」


「そうなんだよなあ……」


 魔法を込めた結晶は便利だけど、それ故に高価だからな。

 必要経費として割り切ったが、今はそれなりに懐が寂しくなってきている。

 【初級】にこもってボスを狩りまくるか?


 いや、たしかドロップの仕組みみたいなのが書いてあったな。

 魔獣が溜め込んだ魔力が、経験値として俺たちに還元されるけど、魔獣の種類ごとに経験値の上限は決まっている。

 そのため、経験値以上に溜め込んだ魔力が一定以上だと宝箱に変化するとかなんとか。


 だからボスの魔獣たちは、毎回ドロップしてくれていた。

 だけど、復活するたびに倒したところで魔力が溜まりきっていないから、宝箱に変化する確率は極端に下がるようだ。


 それに、ボスへの挑戦はまだ未踏破の探索者が優先されるらしく、簡単に倒せるからと【初級】のボスばかりに挑めるわけではないようだ。

 シェリルがまだボスゴブリンとボスコボルトを倒していないから、あと一度ずつは優先して戦えるけど、それ以降は他の探索者たちと順番の取り合いになってしまう。

 それなら、未踏破のダンジョンに挑んで一日でも早く異世界に行きたいな。


「おっ、考え事モード終わりだね」


「ただいま。シェリル大変だ。サキュバスに捕獲された」


「えっ、え~と……楽しそうですね」


 見捨てられた。俺のパーティは俺を切り捨てるつもりらしい。


「さて、待たせて悪かった。もう少し戦ってみよう。俺はともかく、シェリルはレベルを上げれば、明日からもっと楽になるだろうし」


「はいっ! 先生やお姉様が出るまでもありません。気持ち悪い虫程度、この人狼シェリルが倒しちゃいますから!」


「頼りになるね~」


 尻尾が左右にゆれている。紫杏の言葉が嬉しかったようだ。

 獣人というか人狼もだけど、狼や犬系の種族って本当にこうやって尻尾で感情がわかるんだな。

 四女神様もそうだったとは聞いたことがあるが、実際に目にすると少し感動する。


「? どうしました先生?」


「シェリルの尻尾に浮気しようとしてない?」


「なんだよ尻尾に浮気って」


 その場合、俺は尻尾と一緒に寝ることになるのか。

 ……案外抱き枕みたいで気持ちよさそうだな。


「浮気すること考えてる~!!」


「するわけないだろ!」


「え、えっと……尻尾触りますか?」


「うっ……」


 ぶっちゃけ触ってみたい。

 だけど、ここで触るのは絶対によくない。


「やめておく」


「うん、よかったね~シェリル。もし善が誘惑されてたら、私はあなたを倒さなきゃいけなくなってた」


「ひぃっ! そ、そんなつもりは……」


 なんだか、いつもと同じようなゆるい雰囲気になってきた。

 ワーム一体なら、そのくらいの余裕も出てきたってことだし、悪いことではないな。


「次はシェリルに戦ってもらいつつ、俺は【斬撃】でチクチクと嫌がらせしてみようか」


「連携ですね! パーティらしくていいですね!」


「私もしたいけど無理そうだね~」


「紫杏の場合、攻撃が一発当たれば終わりだから、連携とかあまり関係ないからなあ」


「私が強すぎるばかりに……」


 ほんとにそう。どんどん強くなっていくし、今日もまた強くなるんだろうな。

 紫杏は、うちのパーティの秘密兵器みたいな立場になってきている。

 紫杏に頼り切ることがないように、せいぜい俺とシェリルも頑張らないとな。


「きましたね。では、素敵な人狼シェリル行きます!」


「無敵とは言わないけど、自分で素敵っていうのもどうなんだろう」


「そういうところかわいいよね、あの子」


 シェリルは、あえて大きな音で地面を踏みこむ。

 するとその場所からワームが上空に飛び出す。相も変わらず無防備な胴体が晒されるこの一連の流れを、いつしか俺たちはワームを釣ると呼んでいた。

 シェリルは今回も無事にワームを釣りだせたので、胴体に爪で攻撃をしている。


「俺も、シェリルに当たらないように気をつけながら援護してみるか!」


 幸い的はデカい。シェリルの邪魔にならない位置に、大振り気味の横薙ぎの動作をする。

 当然剣は届かないが、そのまま剣から無色の刃のようなものが飛んでいく。

 あれ、こんなスピードだったっけ……なんか、威力も上がってるような。


「うひゃあ!」


 そもそもなんかデカい。

 シェリルよりもかなり上を狙ったので、シェリルに当たるなんてことはなかったが、シェリルも斬撃のサイズに驚いているようだ。

 遠くから嫌がらせ程度の攻撃のつもりだったが、俺の攻撃は思いのほかワームにダメージを与えている。

 先のシェリルの攻撃も合わさって、ワームはすでに暴れる元気もないほどに息も絶え絶えの状態だ。


「シェリル~! そのまま倒しちゃえ!」


「あ、はい! それではお言葉に甘えていきます!」


 結局、ワームは釣られてからなにもできずに消滅してしまった。

 これか? この布陣が今の最適な戦法なんじゃないか?


「す、すごいですね先生! いつのまにか、そんな秘密兵器を!」


「いや、なんか知らんけどああなった。あと、うちの秘密兵器は紫杏だと思う」


「たしかに……」


「いえ~い」


 こちらにピースしてくる紫杏がなんともかわいらしい。

 ん、待てよ? もしかして……。


「なにか気づいたの?」


「ああ、ちょっとカードを……」


 俺はレベルとスキルを確認するために、三人で見えるようにカードを出した。

 レベルは16。そして、スキルのほうだが【斬撃Lv2】と表記されている。

 これだ。


「あ~、なるほど。だからさっきの斬撃すごかったんだね」


「剣で戦いたいから職業を変えずにいたけど、斬撃のほうまでレベルが上がるのは、嬉しい誤算だな」


「前回と今回のことを合わせて考えると、レベル15が【斬撃】取得の条件なんですかね?」


「多分レベルのほうはそれで合っていると思う。もしかしたら、剣で倒した魔獣の数とかも条件にあるかもしれないけど、少なくとも俺はすべての条件を満たせる状態みたいだ」


 こうなるとちょっと欲が出てくる。


「紫杏……」


「はいは~い、吸ってあげるね~」


 名前を呼んだだけで、すでに俺の意図を察してくれたらしく、体から何度も力が抜けた。

 カードを見ながらだったのでわかりやすかったのか、レベルが1になった瞬間に精気の吸収を止めてもらえたようだ。


「あとは、よいしょ」


 砂の中から近づいていたはずのワームが、砂から飛び出る前に拳で潰される。

 わずかに盛り上がった砂地がぴくぴくと動いているので、一応まだ生きてはいるようだ。


「はい、倒していいよ」


「あ、ありがとう」


 なんか随分と効率的かつ楽なレベル上げをさせてもらっている。

 不運なワームにとどめを刺すと、俺は再びレベルが上がった。

 それを何度か繰り返すことで、再びレベルを15まで上げていく。


「【斬撃Lv3】だな」


「あと二回ほど、がんばろ~」


 がんばるところがない。

 俺はもちろん、紫杏でさえもまったくがんばらずに、流れ作業でワームを倒していく。

 さすがにワームが不憫にさえなるが、検証したいという欲求が勝っている。

 悪いな。そろそろ次の層にも行けるだろうから、あと数日だけ付き合ってくれ。


「【斬撃Lv5】。やっぱり、5で止まってしまったな」


 念のため、追加でレベルを15にしたけど、斬撃のレベルに変化はなかった。

 適応力と同じだな。剣術のように初級とついていないから、それ以上には上がらないようだ。


「私と連携したときのあれがレベル2なら、レベル5ってすごいことになってそうですね」


「試してみるか」


 斬撃の便利なところは素振りでも出せるところだ。

 誰もいないことを確認してから、前方に向けて振り下ろしの素振りをしながら斬撃を出す。


「うわあ、気持ち悪っ!」


 巨大な斬撃は、地中にいたワームたちに次々と命中しながら進んだようで、突然の攻撃に苦しむワームが直線状に次々と出現した。

 さすがに倒せてはいないが、苦しみのたうち回る大量のワームの出現に、油断していたシェリルは完全に硬直してしまった。


「ぴぃっ!」


 あ、気絶した……。

 俺は心の中でシェリルに謝罪しながら、気絶した彼女を抱えてダンジョンの入り口を目指した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 この作品が面白かったと思っていただけましたら、フォローと★★★評価をいただけますと励みになりますので、よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る