第23話 第三者から見た彼と彼女

「そう言われても、一階層目にしては厄介そうだったからね。それに、得意なやり方を見せたほうがよかったでしょ?」


 そうなんだけど……それが理由でここを選んだんだけど、魔獣に同情してしまう。


「じゃあ次は善の番ね。私たちと違って前衛なんでしょ? 組むときに役割がしっかり分けられそうね」


 俺のレベルは1。スキルの効果でステータスはレベル5相当。

 それに剣術のレベルが上がったから、昨日以上にコボルトとの戦いは楽になっているはずだ。


「よし、かかってこい」


 先頭にいる俺めがけて、コボルトは素早い動きで迫ってくる。

 横に跳んで俺の死角に回り込もうとしたため、こちらも同じ方へと跳ぶ。

 当然激突しそうになるため、剣で頭から股間まで両断してやると、コボルトは左右に分かれながら勢い余って床に激突した。


「もうこのコボルトくらいなら、レベルが1でも大丈夫だな」


「どう見ても、レベル1の動きじゃないね……」


「ほら、レベルに換算したら5くらいだから」


「あらためて目の当たりにすると、とんでもないスキルねそれ……」


 それはそう。俺だってできることならば【環境適応力:ダンジョン】のレベルをずっと上げたかったさ。


「それに剣術もまだ上げられるんでしょ? う~ん、やっぱり僕たちが善に追いつくの、相当先になりそうだね」


 二人が追いついた頃には、俺の成長止まってるんだろうなあ。

 そのときは、二人に頼り切りになりながらダンジョンに挑むことになりそうだ。


「じゃあ最後は紫杏ね」


「は~い。あっ、ちょうどきてる」


 その言葉通り、紫杏が見つめる通路の奥からは一匹のコボルトがいるようだ。

 さすがにまだ遠すぎるせいか、向こうもゆっくりと距離を詰めるように歩いている。


「えいっ」


 次の瞬間紫杏が消えた。

 いや、なんとか動きは見えているけど、少なくとも標的のコボルトはそう思ったのだろう。

 なにがなんだかわからないように混乱し、突如現れた紫杏にさらに混乱は増す。

 そうしているうちに胸を殴られて上半身が消滅した。


「みんな見てるからがんばったよ~。善、ほめて」


「はいはい、すごいすごい」


 頭を指さして抱きつかれたので、とりあえずなでておく。

 どうやら満足してくれているらしく、徐々に抱きしめる力が強くなってきた。


「善もすごかったけど、紫杏はもう意味がわからないね……」


「昔から力が強かったとは聞いていたけど、これほどなの?」


「いや、少なくとも昔は常識的な範囲内での怪力だったよ」


「紫杏もレベル上がってるからなあ。そういえば、今いくつだっけ?」


 気になったので訪ねてみると、カードを俺に渡してきた。

 抱きしめたままなのは、そんなことより自分を優先しろということだろうか? ことだろうな。なでる手を止めたら、俺の腕を掴んで頭に乗せてきたし。


「えっと、レベル18……がんばったんだなあ、俺」


「私も夜がんばったよ~?」


「その夜に耐えた俺のがんばりがすごいと思う」


「つまり、私のテクニックにメロメロってことかなあ?」


「まあ、テクニックなくてもメロメロだからなあ」


「……もう、そんなこと言われたら我慢できなくなっちゃうじゃん。襲っちゃうよ?」


 まずい、抱きしめる力がさっきとは別物になってる。

 獲物を逃さないようにギリギリと締め付けているみたいだ。


「そういうのは家でやろうね」


「まあ、普段のあんたたちのことは十分わかったわ」


 大地と夢子のおかげで拘束がゆるまった。

 危ないところだったかもしれない。二人きりだったら、本当にダンジョン内で精気を吸われてたんじゃないか?


「しかし18ねえ……私たちがここまで上げるのは何年後かしら」


「夢子ならきっとすぐだよ~」


「適当なこと言わないの」


「それなら、とりあえず今日はここのボスを倒してレベル上げるか?」


「わりととんでもない発言してるって自覚だけはしておいてね?」


「ボスはさすがに挑んだことないわね……最悪の場合、帰還の結晶を使えばいいけど」


「……念のため聞いておくけど、善と紫杏もちゃんと準備してるよね? 帰還の結晶」


「【中級】から買おうとしてたんだけど、やっぱり買っておいた方がいいかな……」


 あ、まずい。大地が笑顔で怒っている。

 帰還の結晶。読んで字のごとく、ダンジョンから即座に帰還できる魔法が込められた結晶だ。


 これさえあれば、どんな重症を負ってもダンジョンの入り口に転移できるため、すぐに回復術師に治療してもらえる。つまり生存確率は飛躍的に上昇する。

 そんな便利な魔導具だが、けっこう値が張るのだ。しかも使い捨て。

 そのため、俺はつい武器の購入や職業の変更といった、自身の強化にばかり金銭を消費してしまい、保険である魔導具の購入は後回しにしてしまっていた。

 というか、あまりにも順調すぎてついついダンジョンを軽く見てしまっていたようだ……。


「たしかに二人とも強いし、きっと【初級】程度では脅威になる敵もいない。でも、万が一なにかあったら死ぬんだよ?」


「うっ……調子に乗っていました。すみません」


「まったく、どこかの自称最強じゃあるまいし……」


 しかたない。値が張るとはいえ、ボスのドロップアイテムを売れば一つは買える。

 俺と紫杏の二人分として、適当なボスを倒して購入資金を工面しよう。


「というわけで、帰還の結晶の購入資金の調達も含めてボスを四回ほど倒さないか?」


 呆れつつも大地と夢子は俺の案を採用してくれた。

 結局その日は、大地と夢子それぞれがボスコボルトにトドメをさして、ある程度レベルを上げることに成功するのだった。


    ◇


「たしかに話は聞いてたけど……」


「反則みたいなスキルね……」


 最初は二人にも許容範囲だったらしく、便利だし強いスキルだねくらいですませてくれていた。

 だけどレベルが一つ上がるごとに加速的に強くなっていく姿を目の当たりにして、二人はやばいものを見る目に変わっていた。


「他の人達の5倍の速度で強くなるんだもんねえ……」


「違うわよ大地。レベルが上がる速度も大概おかしいわ」


「そうだね。どおりで毎晩レベルが1に戻ってもやっていけるわけだ」


 武器を持ったコボルトも二人はなんなく対処していた。

 手こずるようになってきたのは、強化版コボルトあたりからだ。

 この辺になると一人で倒すのは大変なようで、大地が毒で弱らせながら夢子が焼き殺す。そんな恐ろしい光景を見せられた。


「ボスは少なくとも今の僕たちが戦うべき相手じゃない」


「効かないわけじゃないけど、毒でも火でも倒すには一日はかかりそうだったわね」


「そこはほら、俺と紫杏前衛として戦うタイプだから、与えるダメージに差があってもしょうがない」


「戦闘スタイルというか、ステータス差がえげつないことになってる気がするよ。でも、なんとなくわかった。僕も夢子も今のままがいいみたいだね」


「そうね。善と紫杏の不得手な部分を補えるようになりましょう」


 俺たちに引いてたのは最初だけで、二人は冷静にこれからのことを考えてくれているようだ。


「とにかく今日は助かったよ。ボスとの戦いを経験できたし、レベルも上げることができた」


「いつかは俺のほうが二人に助けてもらうことになるからな。レベル1の雑魚でもパーティを組んでくれると助かる」


「どうだかね……なんか、別の手段で強くなってそうな気はするけど」


 あるといいな。そんな手段が。


    ◇


「き、木村さんと細川さんまでボスを倒したんですか!? 今年の新人の方たちはすごいですね……」


「と言っても、善と紫杏に助けてもらってたので、踏破の資格はないかもしれませんよ?」


「い、いえ、たしかにボスへの有効打は烏丸さんと北原さんですが、お二人もしっかりと対処できていますし、毒と火で削っているので功績としては十分ですよ……」


「よかったね~二人とも」


「う~ん……過大評価な気がする」


 大地はどうも納得していないみたいだが、受付のお姉さんが問題ないと判断しているのなら大丈夫だろう。


「善、紫杏。君たちは、自分たちが思っている以上に駆け足で進んでるよ。だから、あまり変な目立ち方はしないようにね」


「私、善に甘えてるだけだよ?」


「そもそも、ダンジョン内でまでいちゃついてるのが異常なのよ。普通はそんな余裕なんてないからね?」


「う~ん……他の人たちに反感を買うかな?」


 一度注意されたことあるもんな。ダンジョンの中でふざけてるように思われてしまって。

 なんかもう慣れてしまっていたが、今の俺と紫杏は不真面目にダンジョンに挑んでいるように思われかねないようだ。


「というわけで、ダンジョンの中では抱きつくの禁止な」


「ええ!? じゃあキスは!?」


「禁止だよ。そもそも他の人に怒られそうだから、もうしないって言っただろ」


「じゃあ精気の吸収は!?」


「なんで、どんどん悪化してんだよ! 禁止というか、それはダンジョンの中ではやったことないだろ!」


 さすがに紫杏の冗談なんだろうけど、大地と夢子はお前らそんなことしてるのかという目で俺たちを見ていた。

 なるほど……そういうこと平気ですると思われてるわけね。俺と紫杏って。


「善の馬鹿! 今晩から足腰立たなくなるほど吸ってやるから!」


「サキュバスだねえ」


「サキュバスね」


 多分、本物のサキュバスに失礼だと思う。

 サキュバスよりもサキュバスらしい彼女は、有言実行で俺の精気を徹底的に搾り取るのだった。


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