第4話 上へまいります

「なんでだ? 昨日確かにレベル2だったよな?」


「うん、ちゃんと確認したよねえ」


 二人で考えるもちっとも原因が思いつかない。


「まあいいか。どうせスライム数匹倒したら上がるんだし、とりあえずレベルを上げてから考えよう」


 そもそも、レベルが1のままでは、いつどうやって下がるのか検証しようがないしな。

 そんな手間ではないし、昨日と違って時間制限もないのだから、悠々とレベル上げに勤しもう。


「あっ、一発」


 昨日と違ってダンジョンに入っている者が少ないからか、スライムに遭遇する頻度が上がっている。

 そのため、昨日以上の速度でスライムを斬りつけていくうちに、ついには一発で倒せるようになっていた。


「てことは……やっぱり、レベルが2になっているな」


「そうだねえ。なんでレベル下がっちゃったんだろう?」


 後ろから俺に抱きつくようにして紫杏がカードを見る。

 やたらと密着されているけど、周りに人がいないし別にいっか。


「どう? やわらかいでしょ~」


「はいはい、やわらかいやわらかい」


 特に背中あたりにやわらかい感触が……

 俺はこれを昨日……やめよう。今はそんなこと考えるべきじゃない。


「むう、ありがたみが足りないよ? サキュバスのおっぱいだよ? スライムなんかよりやわらかいんだよ?」


「なにと張り合ってんだお前は」


 スライムの話をしていたせいか、新たなスライムが現れる。

 お前もなんでこんな会話の最中に現れてんだ。


「念のため確認してみるか」


 俺は少々名残惜しいが背中にやわらかさから離れて、スライムに剣を振り下ろした。

 やっぱり一撃で倒せる。間違いないな。俺の場合だとレベル2からはスライムを一発で倒せるわけだ。

 となると……やっぱり昨日もレベルは2になってたはずだよな。


 ともあれ、一旦の区切りを迎えたので紫杏のもとへ戻ると、膨れっ面で出迎えられた。


「そ、そんなに私よりスライムのほうがいいなら、スライムをもめばいいじゃん!」


「なにと張り合ってんだお前は」


 嫌だよ。スライムをもみしだいてる自分の姿とか考えたくもない。


「そんなことより、そろそろ紫杏も倒してみたらどうだ?」


「善はもういいの?」


「またレベルが下がるかもしれないし、今はこれ以上上げなくてもいいかな」


 なので、そろそろ紫杏にも魔獣と戦ってもらう。

 別に無茶振りとかではない。こいつは授業でも俺より優秀な成績を収めていた。

 なんでも先祖帰りとかで、常人よりもはるかに力持ちなのだ。

 もしかして、先祖がサキュバスだったから、身体能力も高いし、スキルがサキュバス化だったのかな?


「じゃあ、次は私の勇姿をしっかり見ててね~」


 相変わらず倒されるために出現するかのようなスライムたちに向かって、紫杏が駆けていった。

 ほら、足も運動部なんかよりずっと早い……なんか早すぎじゃない? あいつ、あんなに足早かったっけ。


「やあ!」


 ゼリーのような体が破裂して、そこら中に散乱する。

 近づいて殴っただけ、ただそれだけでスライムは消滅してしまった。

 なんかあいつだけ強さがおかしくないか?


「紫杏」


 俺はスライムの死骸まみれの紫杏に手招きする。


「うえぇ、びしょびしょ。善とって~」


 用意してあったタオルで紫杏の体を拭いてやりながら、俺はとある疑問を口にした。

 ……拭いてやるから動かない! 体を押しつけるんじゃありません!


「なあ紫杏。俺、お前のステータス見てなかったけど、お前どのくらい強いの?」


「ん~? はい、これ」


 紫杏は隠すこともなく俺にカードを提示する。

 そこに刻まれていたステータスは……


「えっ、俺の何倍も強い……もしかして、そんなにレベルの差が? いや、レベルは2か……さっきのスライムを倒して上がったからか?」


「ほら、私って昔から力持ちだったから」


「それは知ってたけど、こうして目安が記載されているとあらためて驚くなあ」


「え、えっと……強い女の子はかわいくないから嫌い?」


「強さは別にかわいさに関係ないだろ。ちなみに紫杏はかわいい」


 抱きつかれた。抜け出せない。なるほど、あのステータスを見た後だとそれも当然だ。

 痛くはないけど全身がやわらかい。お前サキュバスじゃなくてスライムなのか?


「あっ……」


 密着しているからこそわかった。

 紫杏の腹から空腹を訴える音が鳴る。


「え、えっち!」


 その音と一緒に紫杏は俺から離れていった。


「抱きつくより腹がなるほうが恥ずかしいのかよ……」


「もう、善はデリカシーがないよ! そんなんじゃ私以外にもてないからね! もてなくていいや! そのままでお願いします!」


「はいはい、それじゃあちょっと早いけど飯食いに行こうか」


「えっと……」


 俺がそう提案すると、やはり先ほどの腹の音が恥ずかしかったのか、紫杏はもじもじと顔を赤らめだした。


「どうした? 別にあんな音かわいいもんじゃないか」


「その……空腹は空腹でも、食事のほうじゃないといいますか……」


 昨日の今日だ。さすがにその発言の意味は俺にもわかる。


「マジ?」


「まじ……です」


 冗談で言ってるわけじゃない。そもそも紫杏は冗談でここまで言うような女じゃない。


「えっと……帰ろっか」


「うん、ごめんね」


「いいよ。というか、ずっと我慢してただろ? 次からはちゃんと言えよ?」


 まだまだサキュバスになったばかりだから、紫杏もその体質を恥ずかしがっているらしい。

 だけど、俺は昨日見てしまっている。精気が不足して今にも倒れそうになっている紫杏を。

 そんな目にあうくらいなら、恥ずかしさがなんだと言うんだ。


    ◇


「ご馳走様でした」


「お粗末様」


 すっかりと元気になった紫杏を見て安心した。

 しかし……なんというか、燃費が悪すぎないか?

 このままじゃ、俺たちは毎日どころか数時間ごとに猿のように……そうしないと、紫杏がいつか倒れるぞ。


「なんかもっと効率よく精気をあげられないかなあ」


「うう、ご迷惑をおかけします」


「迷惑じゃないけど、紫杏はいいの? 俺で」


「善以外嫌だ。善以外なんてありえない」


 真顔で言われてしまい少し照れてしまう。

 それを隠すように、俺はなんとなくカードを確認した。

 紫杏に比べて俺のステータスのなんと貧弱なことか。

 レベルは変わらないのに……レベルは……


「嘘だろ……レベル1!?」


「えっ! な、なんで……ほんとだ」


 俺の声に驚いた紫杏もステータスを確認すると、俺のレベルはたしかに1に下がっていた。


「なんだよこれ。もしかして、あのダンジョンで上がったレベルは外に出たらなかったことになるのか?」


 チュートリアルダンジョンだしな。

 慣れたら一から頑張りましょうというだけの場所だったのかもしれない。


「そうだ。紫杏。お前のレベルも1になってるか?」


 だとしたら、ほぼ確定だ。

 あの場所でのレベルアップには意味がないということになり、さっさと別の初級ダンジョンにでも挑むべきということになる。


「あ、あれ……?」


 紫杏がカードを確認すると、そこには不思議な数値が記載されていた。


「レベル3……」


 どうなっているんだよ、これ……


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