第二十三話: 交錯、真っ赤な作意
【
新月、満天の星の下、僕とライレは
幾億もの星明かりを
祭りの会場となっている中央広場はまだ数十メートルほど先にあり、
人通りが途切れている今は、内緒話にうってつけのロケーションとも言えるだろう。
『思い返してみれば、今夜の彼ら【真っ赤な絆】には、何かと違和感があったんだ』
まず最初は、この村の住人でもないのに星娘をやっていたシイリンのことかな。
「星娘を務めるシイリン……それ自体は別段おかしくないけどね。
「……ああ、小遣い稼ぎに祭りの準備とか手伝ってたら、そっちにも誘われたんだってよ」
「君とアザマースは関与せず。彼女から詳しい話を聞かされたりもしていない、と」
「まあ、男に隠れて女だけで用意しとくもんだろ、あんなん」
「当然、【名指し】を示し合わせてたわけもなく。君たち以外……たとえば村の男が彼女と――」
「ンなことあるわきゃねえだろ!」
ふむ……では、次。今宵の催しをまるで把握していなかったらしきアザマースについてだ。
「アザマース……仲間のシイリンが出し物をしようというのに、知りもしなかったのは妙かな?」
「あいつ、ああ見えて祭りとかあんま興味ねえんだよ」
「ふーん、そうなんだ? それでもどこかで話くらいは聞いていそうなものだけど」
まぁ、いい。ひとまずはよしとしておこうか。
『しかし、だとすると……』
やはり、気になってくるのが、ライレの強行した【名指し】である。
賑やかしの星娘として参加しつつ、誰にも当てさせる気はなかったシイリンを狙って。
不自然なほど催しの内容をまったく知らないアザマースが席を外した隙に。
「うん、気になる。気になっちゃうなあ。つまりライレ、君は……」
「なんだってんだ。もういいじゃねえか。終わったことだよ。ほら、さっさと戻ろうぜ」
「……抜け駆け」
「うぐっ」
突然、ライレが脚をもつれさせ、よろよろとふらつく。
「察するところ、アザマースにはずっと情報を与えないようにしてたのかな?」
「かはっ!」
「ひょっとすると、シイリンに星祭りの手伝いを勧めたりとかも……?」
「ひぎい!」
「なのに、お目当てがまだ会場入りしてないのを気付かず【名指し】しちゃったんだ?」
「ぐぼああぁ!」
鉄壁の衛士、形無しだ。連打を喰らうサンドバッグの如く、ライレは右へ左へ身を揺るがす。
「あはははは、詰めが甘すぎたねえ」
「ああ、そうだよ! この星祭りのことを聞いてチャンスだと思ったんだよ! 上手くいったらシイリンに告白しようと思ってたよ!
『向こう見ずで考えなしの少年という印象だったが、なかなかどうして策を弄するじゃないか』
「結局、アザマースの奴に持ってかれるオチとかよう! なんでいつもこうなっちまうんだ~」
仰向けで転がって両手足を投げ出し、地面に大の字を描いたライレが悔しそうに嘆く。
「おや、実はアザマースとは合わない感じ?」
「そんなわけあるか! あいつは
「んん? そ、そう……かなあ?」
僕にはどうにも恋愛感情というものが理解しがたく、気休めや助言などはしてやれないのだが、現時点で彼ら二人にそう大きな差などないように思われる。どっちもどっちだろう。
「少なくても、まだあの二人はそんな仲にならないだろうし、ふてくされるのはやめときなって。あ、あと、もう悪巧みもしない方がいいかもね。あの子、そういうの嫌いそうじゃない?」
なりふり構わず人を想うことは、たとえ
ただ、願わくば、誰も傷つくことなく、収まるべき形に収まってもらいたいものである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そのまま
すると、そのタイミングを見計らっていたかのように広場の奥まった方で歓声が上がる。
見れば、神殿の中から
「……ぐぅ」
「ほらほら、何も結婚式とかじゃあるまいし――」
「けけけけっこ! く、くそう……」
あからさまに不機嫌さを増すライレをなだめつつ、僕らもそちらの方へ向かう。
ゆっくりと領主の
シイリンはまだ白い布を羽織っているが、仮面を外して胸元に持ち、素顔を
眉を八の字にして引きつった笑顔を浮かべ、困ったような、居心地悪そうな様子だ。
周囲の
意外と言っていいものか、隣に並んだアザマースも普段のおちゃらけた態度を
へらへらと笑う顔はどこか作り物めいており、周囲のからかいに振る手もおざなりに感じる。
あんな風でいて、存外、衆目を集めるのは苦手なのだろうか。
そんな彼らを、僕の隣で眺めているライレの表情は複雑で、喜怒哀楽、どれともつかない。
『これが青春というものか。ははっ、大いに
村の顔役たちが集まった大テーブルにて領主マティオロへの挨拶が済み、周囲の観衆へ向けてシイリンとアザマースの名前が紹介されれば、途端に盛大な歓声と拍手が湧き上がる。
夜空に月はなく、流れる星々の
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