第四十八話: 西の空にて待たん
一四〇メートルに達する
空が厚い雲に覆われている雨季の盛り、奴は決して姿を現さず、乾期が近付き、雲が薄まった青空を飛び始めてからも
「だったら、どうにかして大きな雨雲を村の上に留めておけば
『まぁ、そう簡単な話ではないんだろうけどな』
既に、この
前世地球においても、人工的に雨雲を作る技術はまだ実用化されていなかったと記憶している。
水の精霊に
しかし、鳥のジャンボが飛ぶ雲の世界にまで、もしも昇っていくことが可能なら?
風の精霊術の効果を飛躍的に高める赤マント――【ブラッドアノマルルスの
先述した通り、空の上を流れ行く雲を集めて発達させようなど、僕の手に余る奇跡の
だが、周り中にまとまって存在している雲をしばらく留めるくらいであればどうだろう?
ならば、その夜中の雨雲を朝方まで村の上空に
数日間に
久方ぶりとなる真夜中の強い
爆撃の際、鳥のジャンボは常に西――
鳥避けの設置地点は、必然的に村の西側上空ということになる。
広い領主直轄地の畑を見下ろしつつ飛べば、すぐに村の中央広場が見えてきた……が。
「あ、白ぼっちゃんだ!」
「え? 誰!? ええ! こんな真っ暗な中で何し……って、今、何時だと思ってんのさ!?」
予期せず唐突に掛けられた声、闇に浮かぶ顔、小心者の
精霊術【
大きな
「んー、だって、キラキラいっぱいだよ」
「キラキラって……星やホタルも多少は見えなくもないだろうけど。いや、そんなことよりも! ファル、危ないから夜中は外に出ちゃダメだ! 村の中だって
「ええ、じゃあ、白坊ちゃんは? 白坊ちゃんはいいの?」
「僕は良いの!」
「ずるい! なんで!? 光ってるから!?」
「なんでも! ともかく、今日この後は特に危なくなるから、すぐ家に入るんだ。ほら、ほら!」
「むー」
不満そうに駄々をこねるファルを家の窓へ押し込んでいく。
まったく、真夜中に窓からこっそり外へ出るなんて、とんでもない悪ガキもいたものである。
「それじゃ、おやすみ、ファル。ちゃんと寝るんだよ」
「……ぅん」
『少しばかり足止めされてしまったな。先を急ぐとしよう』
と言っても、さして広くはない開拓村である。
文字通り、ひとっ飛びで西の外れに到着し、そこから垂直上昇して雨雲の中へ飛び込んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数時間後、とりたてて苦労するでもなく、僕は村の上空に雨雲を留めることができていた。
夜は
火と風の精霊術【
内側からではハッキリと分からないが、おそらく鳥のジャンボであっても数羽まとめて余裕で包み込めるくらいの大きさになっているのではなかろうか。
改めて、身に着けている赤マントの恩恵に感じ入る。
【
普段ならば、
「うん、こんなに大きな雲ならあいつも近付くのを
『そう願いたいね。遠間から大岩を放ってきたり、時間をずらして飛ぶようになったりしたら、ちょっとお手上げだが、そんな
「いくらなんでも、そこまで
この点に関しては、【草刈りの
鳥のジャンボはこちらに対して本気で怒りをぶつけているわけではなく、卵に近付いた者たち……あるいはその仲間と見なした者たちへの
「僕らや村を攻撃するつもりなら、降りてきて踏み潰した方がよほど手っ取り早いんだからさ。その気になれば、一発で村を潰せるくらいの大岩だって運んでこれるだろうし」
『だな……っと、見ろ。おいでなすった』
「思ったより早かったね。どうやらパパたちにバレないうちに帰れそうだ」
遠くの空、目を
見紛いようもなく、それは鳥のジャンボだ。
事前に調べてみたところ、奴の飛行速度は、通常の滑空時で秒速五十メートルほどであった。
時速にして一八〇キロ。マッハ〇・一五といったところか。
こうして数字にしてみると、存外、遅いように思えるかも知れないが、
ふと、そこで違和感があった。
「おかしくない? ずっと真正面でコースを変える気配が――」
『おい! こいつはなんだかまずそうだ! 全速力で
察知した瞬間、目に映る鳥のジャンボが一度だけ大きく両翼を羽ばたかせた。
超加速する巨鳥!
気付けば、僕の
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