第三十二話: 探索風景、実入り無し
「あ、魔術師さんの方、回り込んでる! 犬乗り二匹!」
「戦士! カバー!」
「おうとも! ……ったく、ハイエナライダーは面倒くせえな」
深い草むらに潜む数匹の
中級冒険者の彼らにとってザコオニなどもはや敵とも呼べない存在だ。
数が多く、丈の長い草の中に隠れているため、多少手間取っているように見えたが、気付けば既に大半は仕留められ、犬――いや、ハイエナと言ってたか?――に騎乗した奴らを
「パパ、左手で何か小さく跳ねた。たぶん、
「うむ、気に
「はいよ! ゴブリンは
「……墓穴は不要」
「きっひひっ、こんだけ死体を置いてきゃ、連中の足止めになって丁度いいわなぁ」
数多くのモンスターが
騒音や血の
結果、連戦や乱戦を強制されてしまうため、なるべくなら
倒したザコオニの死体から手早く魔石を回収し、大鎌たちは先に立って草原を進み始めた。
『それにしても、ザコオニは実入りが悪いな。数が多いわ、
「ちっちゃな魔石以外、何も手に入らないっていうのはなぁ」
【魔石】というのは、この世界の生き物がもれなく体内に宿している小さな宝石のことだ。
生き物の種類ごとに色や大きさ、そして蓄える【
主に、魔法の道具を作る材料となるのだが、そのまま貴石や貨幣として
……のだが、残念なことにザコオニの魔石は最低クラスの価値しかないと言う。
『昔見たウサギやウズラの方がまだ大きかったぞ。比べたら
「なるべくなら無視していきたいんだけどさ」
『はあ、言ってる
「パパ、ジェルザさん……ザコオニの群れがいる。正面右、まだかなり遠い」
「ゴブリンだな? やれやれ、またか」
「まだこっちに気付いてないなら離れようかね!」
うっすら立ちこめる
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなこんなで、ダンジョンへ突入してから最初の夜。
地の精霊術で築いた
お
屋内には、この地の夜の必需品――虫除けの
「それじゃ、本当にまだ何にも分かってないんだね、このダンジョンのこと」
「知っての通り、うちには本格的な調査をする余裕などありはせんからな。国と
「
「今日一日、表層を歩いてみて分かったでしょ。実入りが悪すぎるんすよ、ここは」
「言っちゃ悪いが! 誰も! わざわざ南の果てくんだりに来てまで攻略したかないだろうね!」
「ぐぬぬ……」
世界中あちこちに少なからず点在する、こうしたダンジョンは、危険なモンスターたちの巣だ。
しかし、上手く利用できれば、様々な資源を生み出す鉱床となりうる可能性を秘めてもいる。
ダンジョンの管理義務は、基本的に領有する貴族にあるため、利益を生むことができるのならかなり
近隣地域には存在しない貴金属を産出したり、山間部にも
「まぁ、まったくの手付かずだって言うなら、確かに賭けてみる価値はあるよね」
「うむ、イナゴどもが引き起こした
「このダンジョンは最有力候補ってわけさ!」
今のところ、モンスターも含めて毒にも薬にもならなさそうな動植物しか見当たらないのだが、しっかり探せば、禿げ上がった
「少なくとも、イナゴにやられてねえ草原でさぁ。日持ちのする雑穀ぐらいでも集められりゃ、そんだけで乾期を
「そう言えば、このダンジョンの中って乾期はどうなるの?」
「うん? どうもこうもないな。乾期になれば水場は干上がり、草木は枯れる」
「……その辺りは外と同じなんだね」
いや、だって時間や空間が異なるとかなんとか言ってたから、少しは期待するだろう?
もしかしたら乾期が緩やかだったり、一年中、雨季のままだったりするかも知れない……とか。
「
『それもそうか。乾期が苦しいのは、ずっと変わらないこの地の摂理だったな』
しかし、だとすれば、数百人もの領民を数ヶ月間、飢えさせないための何かとは一体?
はたして、どんなものが考えられるというのだろうか?
このまま草刈りの
なんにせよ、本格的な探索は明日からだ。
初めてのダンジョンで僕もけっこう心身に疲労が溜まっている。
今日はゆっくり休ませてもらうとしよう。
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