第十一話: マイペースな母、ままならない僕
「おっと、いけねえ! そろそろ畑の様子を見に行かねえと」
「そう言えば、朝ご飯の準備がまだだったわ」
「もう日が昇っちまう。朝仕事は仕舞いだ、仕舞い! おめえら、さっさと
そんな言い訳めいたことを口にしつつ、クモの子を散らすように村人たちが立ち去っていく。
僕らを遠巻きにしていた人だかりは瞬く間に消え失せ、後に残されたのは、僕とマティオロ氏、そして冒険者【草刈りの
「あらあら、うふふ。
そう言いながら、一人の女性がしずしずと歩み寄ってくる。
我が家である二階建てログハウスから扉を開けて出てきた彼女は、僕の……現在の僕の母だ。
名前はトゥーニヤ。
あえて言う必要もないだろうが、父マティオロの奥さんである。
年間を通して強い
ベールとスカーフで頭全体を覆い、女性用の華やかな
「……領主様。……ア、アタシらもそろそろ――」
「あら、ジェルザ。もう帰ってしまうの?」
「――っ!?」
大声を張り上げることなく、大柄な
「……いや、アタシらァ、今さっき
「あらまあ。でも、それならなおのこと、うちへ寄っていくと良いわ。ね? ショーゴちゃんと今まで遊んでくれていたのでしょう? ちょっとくらい
「あ、ああ、じゃあ、そうさせてもらおうかねえ」
と、やや目を
「ちょっ、
「……お前は、奥方様の誘いを断れるって言うのかい?」
「へっ、へへ……すいやせん、無理っすね」
淑女然とした母だが、意外にも荒くれ女冒険者のジェルザさんとは仲が
見た目通りに貴族出身の令嬢でありながら、押し込められた修道院で神聖術師として名を挙げ、マティオロ氏のパーティーに加わって活躍した元冒険者だったりするのだから、意外と言っては多少
ともあれ、【草刈りの
「よし、今のうちに……。シェガロ、今朝の鍛錬はここまでだ。家に入るぞ」
そう僕に言いつつ、マティオロ氏が
「あらあら、あなた?」
「――っ!?」
「そんなに急がなくても
「む、むう、なんだ? 謝らんからな? 俺は悪くない――」
「うふふ、どうしたんです? おかしなあなた。……さ、みんな、こちらへ集まって」
母トゥーニヤに
「そのまま動かないでちょうだい……。ポフ・ターシュ、
神に仕える聖職から
この神聖術【
ざっくり言えば、僕が使う水の精霊術【
繊細な水流を
……うん、ちょっと意味が分からないよな、いろいろな意味で。
対象自体に強固な意志があったり、明確な所有者がいる場合を除き、たとえば汚水に含まれる不快・有害物質、
おっと、つい話が
「うふふ、すっかり綺麗になりましたわ~」
僕らの姿を確認し、母トゥーニヤが満足げに目を細め、柔らかく
早朝から
「さあ、お
「そうだな。お前たち、遠慮はいらん! 付いてくるが良い!」
「ああ、邪魔させてもらうよ」
「どうも」
「……失礼いたす」
まずマティオロ氏が扉を潜り、続いて冒険者たちがぞろぞろとログハウスの中へ入っていく。
その様子を横目にしつつ、僕は彼らの
ほんの数分も経ず、玄関扉の前まで戻ってきてみれば、その場にはもう母トゥーニヤだけしか残ってはいなかった。
自然、目を合わせると――。
「おかえりなさい、ショーゴちゃん」
彼女はこちらへ向かって大きく両手を広げ……って、いかん!
「ママーっ!」
「まあ、かわいい」
僕が駆けていって
押し付けた頭と額に当たるふわふわとした感触……ああ、これが母性!?
『……って、そうじゃない!』
頼む! どうか、どうか何も言わないでいてほしい!
これは僕じゃない。断じて僕ではないんだ。
「あらあら、うふふ。今朝も甘えんぼさんですね」
『おい! 楽天家! 年を考えろ! いい加減にこれは卒業してくれ! おい! 聞けよ!』
「ママァ!」
う、うああああ! 誰も見ないでくれっ! 違うんだあああああぁぁぁーー……――っ!!
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※重要なお知らせ。
いくつかのシーンで第二部主人公の名前が間違っておりました。
×シュガロ しゅがろ ユ ゆ
○シェガロ しぇがろ エ え
初登場した序幕の時点で既に間違っており、非常に混乱させてしまったかと思います。
誠に申し訳ありませんでした!
以降は【シェガロ】で統一します。「しぇ!」で、よろしくお願いします。
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