第九話: 仕合?に臨む幼児
一応の領主屋敷である我が家の前に面した広々とした空き地に人だかりが出来始めていた。
朝仕事の帰りに付近を通り掛かった村人たちが、一様にその足を止めていくのである。
やや手前には、父マティオロと冒険者
彼らの視線の先、空き地の中心にいるのは、女冒険者ジェルザさんと相対する僕だ。
僕の手には、愛用している長さ六十センチほどのスコップがある。
対するジェルザさんは、僕の身の丈を遙かに超える長さ一八〇センチはあろう柄の先端付近に七十センチほどの弧状片刃を斜め横向きで取り付けた農具――大型の草刈り
もはや農具と呼ぶことに違和感しかない、前世で死神の武器として知られていたソレこそが、彼女たちのパーティー名【草刈りの
「ハッハー! その小さな
「スコップです」
「へえ! 名前もあるのかい! 道具に名を付けるのは
そんな話をしていると、すぐ
「……この戦いにおいて、互いに決して相手を傷付けぬこと、神に誓うがよい」
「ああ! 誓うよ!」
「誓います」
「……誓約は成されり。フラウ・ペイカ、慈悲深き無貌の創造神レエンパエマよ、聞き届け
彼は【草刈りの
今まさに、この世界における魔法の一種――スキル【
僕の持つスキル【
神の奇跡などと言われれば
「ふん!」
突然! 何の警告も合図もなしにジェルザさんの持つ
当たったのは鎌の刃とは逆――背と呼ぶべき柄の部分だったが、何せこっちは身長百センチかそこらの幼児、相手は二メートル近い
「「「「「おおおおおっ!」」」」」
「おいおい、
「ちょっ! 白坊ちゃん、死んでやしないか? 大丈夫なのか?」
「……
観衆が大きな
「あったたた……」
「おっと、すまないね!
「いえ、大丈夫です。言葉の綾でした。ちゃんと
そう、たった今、とんでもない児童虐待が
先ほど、神術師さんが
……うん、ちょっと意味が分からないよな、いろいろな意味で。
精霊術もけっこうデタラメな効果を発揮することがあるが、神聖術はこう、全体的におかしい。
もう僕は奇跡ということで無理やり納得することにしているけれども。
『てか、そこのお父さん? いま目の前で息子が殴り飛ばされたんですが? 何か無いのか?』
「シェガロ! 現役の冒険者に稽古を付けてもらう滅多にない機会だ。よく胸を貸してもらえ! 怪我の心配はいらんからな。思いっきり楽しむと良いぞ」
「……はーい」
「おっと、言い忘れていたが、シェガロは精霊術で攻撃することを禁ずる。良いな?」
「ええ……それは厳しいなぁ」
「アタシは制限なんてなくたって構わないんだけどね! 噂の精霊術とやらを味わわせとくれよ!」
「駄目だ。それでは武器戦闘の鍛錬にならんからな」
「ハッ! そいつは残念だねえ!」
改めて、僕はジェルザさんの前に立つ。
やれやれ、剣を習い始めて数日の幼児に冒険者の相手なんて務まるはずないだろうに……。
精霊術ありの戦闘訓練――模擬戦ならマティオロ氏と時折しているが、武器で戦うとなると、そもそも体格の違いから来る
……うん、まず打ち込みができる距離まで近付いていける気さえしない。
はぁ……、とりあえず攻撃以外なら精霊術を使っても良いんだよな?
それなら機動力くらいは上げておかなければ話にもならないか。
「
その
「おっ! 白坊ちゃんが飛んだぞ!」
「いつ見ても不思議だねえ」
見ての通り、空中に浮かび、自在に飛び回ることもできる風の精霊術が、この【
あまり重い物を運ぶことはできず――そろそろ自分の体重だけでも厳しい――、飛べる高さもせいぜい地上
この身に生まれ変わった赤子時代、
仕組みは、実のところ、自分でもよく分かっていないんだけどな。
「へえ! アタシもいろんな奴を見てきたけど、精霊使いを見るのは初めてだよ! 面白いね!」
「それじゃ、行きますよ」
「よし! 行け! シェガロ! お前の力を見せてやれ!」
一際響く父兄の声を
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