第八話: 父の期待、僕は少し休みたい
朝の鍛錬である木剣の素振りをようやっと終わらせた僕は、
「
仰向けに大の字となり、ぜひーぜひーと息を吐きながら回復用の精霊術【
これ、ぜ、絶対……オーバーワークだろう……?
幼少期から、こんなハードなトレーニングしていて……大丈夫なんだろうか……。
「今朝もよく頑張ったな、シェガロ! まだ剣の振り方を教え始めてほんの数日だと言うのに、かなり様になってきているぞ。ひょっとすると、お前は剣に関しても天才なのかも知れんな! ……ふむ、明日からはもっと本格的に鍛えてみるか」
「やめて!」
僕の父であるマティオロ氏は脳みそまで筋肉で出来ていそうな――いわゆる
と言うか、僕がまだ五歳の幼児であることを、まさか忘れているわけじゃあるまいな?
しかし、こう見えて彼は、一介の冒険者から貴族にまで成り上がった本物の英雄なのだ。
元は、遙か北方の異国、
しかし、幼い頃に村をモンスターによって滅ぼされたことで、その運命は一変する。
騎士爵というのは貴族の爵位ではなく、本人一代限りの名誉称号なのだが、平民でありながら多くの特権を有する準貴族とでも呼ぶべき身分となる。
そこでマティオロ騎士爵も猫の額ほどの開拓村を治めることとなったのだが……これが大成功! なんと、ほんの十年足らずで町規模のポテンシャルにまで発展させてしまうのである。
成功の結果、お貴族様方に睨まれて実質的な領地没取という憂き目に
「でも、そのせいで考え方が前のめり過ぎるんだよ、パパは……」
『しかも、僕ら子どもに自分と同じことができると信じて疑ってなさそうなフシがあるしな』
「親の期待が重い……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
地面に寝転がった僕の
現役を退いて十数年になるはずだが、その体付きや身のこなしに未だ衰えは感じられない。
実際、
いや、行こうとしてたのを周囲が必死に止めて、結局、冒険者を雇うことになったんだけどな。
思えば、彼は前世の僕と大して変わらない
と、なんとなしに眺めていると、遠くからザカザカ賑やかな複数の物音が聞こえてきた。
「領主様ァ! 戻ったよっ!!」
「おう! ご苦労! 何か報告はあるか?」
「いんや! だいたい片付いてきたね! そろそろアタシらもお役御免だよ!」
もう紹介の必要はないだろうが、ジェルザさん率いる中級冒険者
いつものように早朝の
六人全員が揃っているところを見ると、今朝はフルメンバーで出掛けていたようだ。
寝っ転がったままなのはどうかと思い、身を起こして立ち上がると、僕に向かって小さく手を振っている男たちに気付く。『随分しごかれてんな?』『頑張れよ』という声なき声へ向けて、苦笑いと共に軽く
「噂に
「ハっ、そりゃ有り難い申し出だねえ! 冒険者上がりのアンタが治めるココは居心地がいい! けど、やめとくよ! アタシもこいつらも、まだ腰を落ち着けるにゃ早すぎるからさ!」
「ふぅむ、仕方あるまい。冒険者への無理強いは貴族でもできん
「また仕事があれば、いつでも声を掛けとくれ! ちっとは優先させてもらうよ!」
そう言うと、話は終わりとばかりにジェルザさんは背を向ける、が――。
「ああ、いや! 待て! この後、日中はヒマだろう? 少しばかり頼まれてはくれんか?」
マティオロ氏の呼び止めに応じ、「ん? なんだい!?」とゆったり振り返る。
「なぁに、軽く息子の
「息子って、そこの
「え? 僕?」
今朝はもうへとへとになるまで鍛錬したよね? 朝仕事も終えた後だよ?
なに言ってんの、この人?
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