第四話: 大人に絡まれる幼児たち
その周囲をぐるりと取り囲み、獣や魔物など外敵の侵入に対する重要な守りとなっているのが、地の精霊術により築かれた
柵の外側は数十メートル向こうまで草が刈り取られ、まるで浜辺といった様相を呈している。
風に吹かれザァザァ波音を立てる
「ひひっ、
男たちの先頭を歩くのは、目元を緩み下がらせ、ニタァと口の
両手持ちの大きな
その後ろ、腰まで伸びた丈の長い草を掻き分け、続々と浜へ上がってくる男たちは四人いる。
皆、先頭の男と似たり寄ったりの
ヤタガンと呼ばれる曲刀、ジャリドと呼ばれる
そんな武装集団が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「おうおう、ガキ二人で朝っぱらから逢い引きかよ? カァーっ、羨ましいこった!」
「こんな柵の側で遊んでんのは感心しねえなぁ」
「うへへ、悪い子がどうなっちまうのか……パパとママは教えてくんなかったかい?」
「……エルフは高く売れる」
やがて一行は柵のすぐ近くまで到着し、僕らへ向かって一斉にそんな言葉を投げかけてきた。
「このおじちゃんたち、だれなの?」僕の背に隠れたファルが小さな声で尋ねてくるが……。
「おはようございます、冒険者の皆さん。こんなに朝早くから、お疲れさまです!」
と、僕は特に警戒することもなく、彼らへ挨拶をするのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
五人の大人たちに手伝ってもらえたため、予定していた採集はあっという間に終わらせられた。
普段ならば
「耳長ちゃん、いっぱい
「……ぅん」
「坊ちゃん、干し肉食べるか? 水飲むか?」
「バッカ、おめえ! 貴族のボンボンが干し肉なんか食うかよ。チョコあったろ、出せ出せ!」
「……チョコレートは高い」
「へへっ、良いじゃねーか。そんなもん、おめー以外はあんま食わねんだ」
「いえ、あの、帰ったらご飯なので……」
五人の武装した大人たち――しかもガラが悪い――に囲まれて、僕とファルは村の中を歩く。
見た目に似合わず、彼らはかなりの子ども好きらしく、何くれとなく僕らを構おうとする。
が、それが逆効果になっているのか、すっかり
いかん、空気を変えよう。
「あの、ザコオニはもういませんでしたか?」
「お? おお! ゴブリンな? 例の
「……ゴブリンは臭い」
「いれば、すぐに分かるってことですね?」
「……うむ」
彼らは、この世界で一般的に認められている【冒険者】と呼ばれる職業に就く人たちだ。
知らなければ無法の荒くれ者にしか見えないが、
冒険者を
簡潔に言えば、派遣の傭兵稼業と言ったところだろうか。
ギルドを通し、個人・団体の別無く依頼を引き受け、普通の人間では対処ができない外敵――
ただし、戦闘以外にも、旅人や要人の護衛、未開地の調査、人探し、物探し……など、危険が予想される仕事ならば割りと何にでも駆り出されることから、命知らずの便利屋とでも呼ぶ方が実態に近いかも知れない。
「きひっ、安心しなぁ。俺らが来たからにゃ、かわいい耳長ちゃんにはもうゴブリンの指なんざ一本も触れさせやしねえよ」
「だってさ。良かったね、ファル」
「……ぅん」
既に、ファルがザコオニに連れ去られるという事件が起きたことは、語っていたかと思う。
そのとき、後を追って村を飛び出していった子どもたちと入れ替わるようにやって来たのが、この中級冒険者の
幸い、僕らだけで合計四匹のザコオニを仕留めはしたものの、まだ付近に討ち漏らしがいたり、別の厄介なモンスターが潜んでいたりしないとも限らない。
というわけで、せっかく来てもらった彼らには、周辺の
こんな朝早くから
粗野に過ぎる見た目と言葉遣いは、もうちょっとどうにかして欲しい気もするが……。
「おう! やぁっと戻ってきたかい! ボンクラども!」
ぞろぞろと連れ立って村の中央――ログハウス前に到着した僕らを、そんな叫びが出迎えた。
声がした方向へ目をやれば、そちらには一人の女性の姿があった。
腰掛けていた切り株から立ち上がり、腰に片手を当て、五人もの荒くれ者を連れた僕ら一行を
女性としては……いや、こちらの冒険者たちと比べても体格はかなりの大柄と言える。
まとった
こげ茶色の髪を逆立たせ、女性はずんずんとこちらへと近付いてくる。
「しっかり調べてきたんだろうね!? ガキんちょ連れて遊んでたってんなら承知しないよ!」
「
「あったりまえだろうが! にやけまくった
「ちょ、姐御……耳長の嬢ちゃんが恐がってるから、でけえ声は――」
「ああ?」
「な、なんでもねっス」
すごい剣幕だ。
僕らと一緒に来た冒険者たちが完全に
とは言え、そのやり取りは彼らと知り合い同士であることが
「おはようございます、ジェルザさん」
「ああん? ガキんちょが、声荒げてる大人に近付いてくるんじゃないよ! って、なんだい! よく見りゃ、領主んとこの
「はい、あの……皆さんには僕が頼んで採集を手伝ってもらってたんです」
僕の言葉を聞き、ギロリ!と
後ろに隠れて震えているファルが「ぴゃ」と小さく声を上げる。
「大丈夫だよ、ファル。このお姉さんは恐くないから」
「……うそぉ」
「ホントだって」
このジェルザさんは、冒険者パーティー【草刈りの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます