第三十話: 未来へと手を伸ばし
「ぐおぁああああああああああ!!」
自分の
斜めに振るったスコップの刃をかいくぐるようにして襲い来た、岩の大剣による高速の一閃。
本来は月子を狙った不意打ちだったためだろう、横から割り込んできた僕の胴体を真っ二つにすることはできなかったようだが、
いや、とても運が良いなどと言えるようなダメージではないはずだ。
しかし、思考はどこか
なにせ、ほら、まったく痛みもないのだから――。
言うまでもなく、そんなわけはない。
凄まじい激痛から
「
背後で体勢を立て直した月子が、
その声に応じ、僕の肘から先が一瞬で凍りつき、吹き上がっていた血も真っ赤な氷塊となった。
見れば、近くの地面に転がっている僕の手も一塊の氷となっていた。
「一刻も早く、傷口を合わせてポーションを!」
――やれやれ、
対面した時から何一つ変わらず、円舞台の上であぐらをかいた姿勢のケオニ王が声を発すれば、周囲数メートルの地面だけが
その影響を最も強く受けたのは月子の
ケオニ王の視界から僕らを
「
開けた視界、まず先制したのは月子だ。
美しい花を思わせる氷の
『地の精霊に我は請う、とぶもの敵なり』
しかし、二輪の氷の花は、地面から突き出した細い串により
「ぐぅう……まちがいない。せ、精霊術……か」
――おうともよ。そなたらだけに与えられた力というわけではないでのう。
「防ぎなさい!」
地面が盛り上がったかと思えば巨大な
これが、僕らの精霊術に劣っているだって? バカを言うな!
地の精霊だけに限られているようだが、発動までの早さは月子の
くそっ! いくら月子でも一人で
しかし、両腕を失って激痛に
いくら急ごうが、転がっている腕を繋ぎ合わせることは
その間、月子とケオニ王は互いに大規模な地の精霊術をぶつけ合わせている。
周囲一帯、もはや創世の地殻変動もかくやという
「グッ、し、しかし……何故……いきなり、こんな真似を……?」
――
「私たちを殺してですか!?」
――おうともよ。
そうだ……、
『――転生してもらうことになっちゃいました。ごめんね――』
元々、僕たちは、この異世界に生まれ変わるはずだった!
それが、何かの手違いで元の
生身の身体では決して抜け出すことが叶わない高みの牢獄へ……。
――
「たとえ抵抗をやめようと、もう私たちを殺すことは決まってしまったのではありませんか?」
――
「生きて……きたからだ」
――何と?
「私たちが、未来を諦めずに生きてきたからです」
「……たとえ、すぐに次の生が始まるのだと、しても」
「ここで、自ら死を選ぶことなど、受け入れられるはずがないでしょう!」
そうだ! 本当は生まれ変わるはずだった? 今すぐ死ねば、新たな人生が待っている、だと? ならば、この世界に投げ出されたあの日、その場でただ
……んなわけがあるか!! バカヤロウ!!
死ななければ、この地から解放されない。それは分かった。
だったら、必死に生き、その果てに
――やはり
「ならば! ハァハァ……」
「
月子と共に生きる! 最後まで!
問答の
月子が請願する地の精霊術に対しては同じ地の精霊で、水の精霊術は岩盾や粉塵で無効化し、恐るべき威力・規模・精密性を兼ね備えた地の精霊術で反撃、自身への接近を許さないケオニ王。
本来ならば、そろそろ地の精霊が言うことを聞かなくなっていてもおかしくないほど精霊術が連続行使されているはずだが、
『地の精霊にわ――……!?』
突然、ケオニ王の声が中断されるまでは。
「は、ははっ……さしもの
両腕の治癒とポーションの服用を
今の僕の状態では、強力な精霊術を行使することはできない。
そもそも、下手な動きでケオニ王の注意を
ケオニ王に気付かれず、決定的な一撃を与えられる可能性があり、今の僕に使える精霊術……これしか思いつかなかった。
声に出して請い願わなければならない。
それが、万能に見える精霊術の絶対ルールだ。
ほとんど自在に精霊術を行使しているように見える月子ですら、それは例外ではなく、最低限、序言の
声を出さず超音波か何かで会話しているようなケオニ王に対し、果たして効果があるかどうか確証は持てなかったのだが、あれでも何らかの音だったのか、どうやら上手くいったらしいな。
「
まず声を止められ、次第に薄まる空気に呼吸さえもままならなくなってきたケオニ王は、遂にあぐらを解いて立ち上がり、喉と口元を両手で押さえながら円舞台の上から飛び出そうとするが、それは月子が許さない!
周囲の空間から湧き出してくる無数の水玉が、ケオニ王の
先ほどまでならば、容易に石の壁で
ガボガボと激しく空気の泡を吐き出しながらケオニ王はもがく。もがく。もがきまくる。
しかし、巨大な水玉の中心に封じられた彼にはもう
やがて、その
「やったのか……ハッ、ハッ……急いで、脱出しよう」
王を倒してしまった僕らは、もはや
無事に
当然、外へ出られたとしても待つものは――。
やめろ! そんなことを考えるのは後だ!
最後の瞬間まで諦めない。 生きて、月子と共に――。
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