―― 第五章: グレイシュバーグの胎にて ――
第一話: 二人と二頭、山小屋生活
ヌッペラウオとの決着から既に六日が経過していた。
だが、僕たちはまだ奴と戦った岩山の尾根を
やや離れた安全そうな丘の上に小屋ほどの大きさの岩室を設営し直し、精霊術の効果を高めるボウリングムシの粉を使ってエアコン対応の
幸い、この岩山周辺は鉱物資源がなかなか豊富であり、どこからともなく小動物を
カーゴについては既に完全な状態まで修理し終わっているし、物資の備蓄も余裕ができてきた。
何なら、このままここでずっと暮らしていけそうなほどだ。
食用にできそうな植物がほとんど
ただ、出発できずにいる理由はもう一つ。
「ベア吉、食事を持ってきたぞ」
「……わぅ」
奇跡的に死の淵から
全身の
しかし、ぐったりと
俗に言う寝たきり状態に近いだろうか。
「それにしても、お前もなかなかに
「……ぁぅふ」
基本的に、僕はベア
食料や素材を加工して
――ザシャ! ザシャ! ザシャン!
「ただいま戻りました、
「ああ、おかえり、月子、それにヒヨスも」
「にゃあ」
ヒヨスを供に連れ、カーゴを操縦して採集へ出掛けていた月子を
ああ、現在の状況を説明するのに、これを忘れてはいけなかった。
驚くなかれ、なんと、
どちらかだけに掛けた場合と比べれば持続時間は短くなってしまうものの、都度、掛け直せば良いだけのことで、さしたる問題にはならない。
おそらく、標高が以前までと比べて千メートル以上も低くなったお
「ベア吉、月子とヒヨスが帰ってきたぞ」
「……わふ」
「ふふ、ベア吉はねぼすけさんですね」
「にゃっ」
微笑みながらベア吉の頭を撫でる月子。
ヒヨスはベア吉の脇を通る際、いつものようにその鼻面を長い尻尾で軽くはたいていく。
それらに対してもベア吉は特に劇的な反応を返さないが、もう手触りの良い黒い毛皮まで生え揃った姿は健康そのものであり、誰もこの状況に悲観などしていない。
僕を含め、収穫物を奥へ運んでいくみんなの表情には、まるで暗さが感じられなかった。
別に、いつまでに下山しなければならないといった期限があるわけもなく、正直に言うならば、拠点だった
「さて、ヒヨス。楽しいお風呂の時間ですよ」
「……にゃあ」
「だめです」
「みゃあ! みゃあ!」
「すまん……僕では止められない。いい加減、諦めてくれ」
現在、狩猟・採集と周辺探索は月子とヒヨスが専任しており、毎日一緒に出掛けていくのだが、帰還後のこのやり取りは、すっかり見慣れたものとなっていた。
「みにゃ――」
「逃がしません!
平らに
お、今日はこれが出てしまったか。
拘束力においては他の
僕ではこれほど精密な動きはさせられないし、ほんの数十秒足らずで解けてしまうものだが、最近の月子はこの大きな二本の手を自分自身の手のように自在に扱ってみせる。
「みゃあ~! みゃあ~!」
前脚の付け根辺りの胴体をガッチリと掴まれ、直立するように持ち上げられてしまうヒヨス。
そして、月子の更なる精霊術により、さながら
「みゃぁ……ぁぁ……ぁ……――」
どこかからドナドナドーナー……と歌声が聞こえてくる気がした。
あの仕切りの向こう側は、彼女たちが一緒に使えるほどの広さを誇る風呂場になっている。
と言っても、天然の温泉などではなく、精霊術で整えた岩風呂にお湯を張るだけではあるが、風呂好きの月子はもちろん、毎回入る前には抵抗しているヒヨスでさえも、上がってくる頃にはご満悦となってしまう極上空間なのだ。
いつも通り、今日もしばらくは出てこないだろう。
「ベア
「……わぅ」
さて、とりあえず今のうちに夕飯の仕込みでもしておくとしようか。
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