第十七話: 最終局面、互いの切り札
直径十メートル以上の空間を一瞬で吹き飛ばす小型爆弾――それが奴らの放つ光の玉だ。
だが、弾速は極めて遅く、射程はおそらく二十メートル前後といったところではないか?
この距離ならば、撃ち出されるのを確認した後であっても、十分に回避可能である。
初見で反応が遅れた上、ヘタに防ごうとしてしまった前回は最悪な目に
大きな口の中から撃ち出される光の玉を確認するよりも早く、その頭の向きと逆方向へ大きくカーゴが飛び
全く
「よし!」
光の玉は
とは言え、たった一度喰らっただけの僕らが、その効果を正確に把握できているとも限らない。
一応、念のため、もっと距離を取っておこうと、月子がカーゴを真横へ移動させた瞬間――。
「「――っ!?」」
行く手のやや後方の地面より、猛烈な火柱が噴き上がった。
応急処置的な、くすんだ窓ガラスがはめられているサイド及びバックの方向は、僕らの死角だ。
完全な不意打ち……にも
しかし、確実に狙われていた、絶妙すぎるこのタイミング。
致命的な威力を誇る光の玉へと向けられていた僕らの意識が、刹那、
ほんの小さなその隙を
連中の出現時、地中の大爆発によって吹き飛ばされてくるいつもの噴石と比べれば、地上での爆発によるそれらの量と勢いなど、たかが知れたものではあるが、それでもウィンドウガラスを割るくらいの威力を持つことは間違いあるまい。
こちらの作戦では、爆発から十分に距離を取った後、簡易の
「やむをえませんね、
悔しいが、これだけの
カーゴの姿勢を立て直している月子が、ハンドルから片手を離して
上から降り注いでくる岩石が下から打ち上げられた岩石とぶつかり、次々と弾かれていく。
石壁を立てて防がないのは、この状況で視界と移動を制限されたくないからだろう。
迎撃は完璧とまではいかず、すり抜けてきた石がガンガン音を立てカーゴの外装を叩くものの、ガラスに当たってもひびを入れるのが精一杯の小石ばかりである。
その程度のダメージなど物ともせず、
ふぅ、予定通りとはいかなかったが、なんとか光の玉を
――瞬間! 背筋にゾッと悪寒が走る。
僕の思考を読んだかのように……視界の端に映していたヌッペラウオどもが、
二つの顔が、揃って上弦の三日月じみた形に口を開けている。
そう、ここまでが奴らの予定通り。
一撃必殺の光の玉を見せ、大きく回避しようとする僕らの逃げ道に火柱を置き、意識と態勢が乱れた状態に爆風と石の雨を浴びせた。そして、今、足を止め、行動を終え、生まれた小さな隙。
満を持して、ここで奴らはチェックを掛けてくる。
横並びの顔が三日月型の口を大きく開げ、横並びの大火球を、同時に、高速で撃ち出す。
しかも、それぞれが今まで見てきた大火球の二倍近くもありそうな特大火球だ。向かってくる速さ――弾速も今までとは比べものにならず、回避は極めて困難だろう。
……いや、まだ終わっていない。二つの特大火球は、こちらへ迫るにつれて徐々に混じり合い、火勢を増しながら、やがて一つの超特大火球と化し、
対する僕らはどうしても一手が足りない。
あと三メートル……いや、せめて一メートルで良い、それだけの距離を縮められていればっ!
しかし、ようやくバランスを取り戻したカーゴにとっては、たったそれだけがあまりにも遠く、前へ踏み込むことも、横や後ろへ逃げることも、今この瞬間だけは一手遅れてしまう。
そして、先ほどカーゴの制御をしながら石の雨を迎撃するという無理を行ったばかりの月子は、今だけは新たに別の精霊術を使うことができない。
普段であれば問題にもならない、ほんの数秒程度の隙が……やはり行動を一手遅らせてしまう。
一手だけが足りない。
迫り来る超特大火球を前に、僕は切り札を切る決断をしようと――。
「ばうっふぅっ!!」
雄叫びが聞こえたのと同時、カーゴは背後から凄まじい衝撃を受けて吹き飛ばされる。
車体後部のトランクリッドが外れるほどの衝撃に、僕らも座席前のテーブルに頭をぶつけるが、今はそんなことはどうでも良い。
元いた地点から二メートル近い前方へと飛ばされたカーゴの側面をかすめ、ただの余波だけでボディの外装を焼き焦がしながら超特大火球が通り過ぎていく。
その極大の炎に飲み込まれていく黒い
「
いまだ溶岩を
こちらの攻撃が届く射程距離――目指す二十メートルまでは、まだあと少し。
だが、ここからであれば、まくれる!
「ウオオオッ!!
月子の
そうして宙に浮いたカーゴを、僕は風の精霊術【
瞬く間に地上十メートル近い高さへと至ったカーゴの下方より火柱が迫るも、もはや火の粉や熱波ですら脚の先にも届きはしない。
空中から前方を見下ろせば、もう
「なんだ、一匹だったのか」
そいつは小さな胴体に不釣り合いなほど巨大な
よく見れば、頭の後ろに突起状のえらが生えており、尻尾の先にはひれが付いているな。
どうやらトカゲではなく、サンショウウオ……
胴体は火口の光に照らされ、ぬるぬると光る
到底、頭を支えられそうにない二本の細く長い首に、胴体がぶら下がっているような貧相な姿。
「覚悟なさい」
ハンドルから両手を離した月子が願えば、巨大な双頭を目がけ、やはり巨大な岩塊が放たれる。
唸りを上げて高速回転する円錐型――
カーゴに残った四本脚の先端に、それぞれを肉付けしていた岩石が凝縮されてゆき、錘が四本、出来た順に前方の
高速で撃ち込まれてくる大質量の弾丸を前にしては、さしものヌッペラウオも迎撃を諦めたか、凄まじい轟音と共に
そのコミカルな動きには多少なりと
やがて最後に飛んできた四本目の錘を回避するため、奴は穴の中央でボコボコと激しく泡立つ高温のマグマ溜まりへ飛び込もうとする。
「
「ああ、もう離しているよ」
この戦いが始まってからずっと、僕はある物をひたすら掴み続けていた。
ベア
ソレは、たとえ月子であっても直接制御できないほど遠くにずっとあった。
少しずつ、少しずつ、集まってくれと頼むことしか、合図があるまで留まっていてくれとただ請い願うことしかできなかった。
僕は、彼女に代わってその位置と状態を把握し、支え、ゆっくりと押していただけ。
……にも
――落ちてくる。
上空で渦巻き、僕らの頭上を覆い続けていた黒雲が、一塊の水となって。
遠目にはゆっくりと感じられるスピードで落下してきた水塊は、先ほど見せつけられた超特大火球にも匹敵するサイズである。
遙か上空より、真っ直ぐ
そして、山全体を揺るがすほどの大爆発が起こった。
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