第十三話: 覚悟を見せたクマ
ヌッペラウオどもが飽きもせずに撃ち込んでくる大火球を岩石の壁による
「問題は距離だな」
「はい、どうしても十五……いえ、二十メートルまで近付かなければ」
敵の現在地は、やや丘になっている上方
真夜中であるため周囲は真っ暗だが、ヌッペラウオが陣取る
辺りが開けた岩場であることは日があるうちに確認済み、加えて、光と闇の精霊術【
しかし、だとしても
このようなゴツゴツとした岩場では、カーゴビートルはスキー板を使って滑ることができず、六本脚で重い車体を持ち上げての移動が基本となる。
しかも、行くのは上り坂だ。ひっきりなしに飛んでくる大火球を
「カーゴ、それにベア吉とヒヨス、三方向から同時に攻めるのはどうだろう?」
「狙いを分散させられるのは良いと思います。ただ、決定的な攻撃手段を持っているのは私たちだけですから、もしも気付かれてしまえば困ったことになってしまいますね」
「ふむ、鈍重なカーゴを足止めされたら……。やはり時間を掛けず一気に行きたいところか」
風で車体を浮かしながら後押しし、ベア
「わっふ!」
僕の考えを読んだかのように、ドアから顔を突っ込んできているベア吉が吠え声を上げた。
反対のドアから頭を突っ込んできているヒヨスを含め、皆の視線がそちらへ集中する。
「ばうっふ! わっふ! わっふぅ!」
「待て! そんな危険なことをさせられるか!」
「ばうっふ!」
決意に満ちた再びの吠え声の後、真っ直ぐ僕たちを
「いえ、
「君まで何を言うんだ! ベア吉は度重なる襲撃で何度も炎に焼かれて傷ついているんだぞ」
そう、現在、僕らの中で最も傷ついているのがベア
この二日の間、突然の襲撃を受けて
そのとき、一頭だけで
既に、その毛皮はボロボロになり、まだ回復しきっていない
「大丈夫です。ベア吉はできないことを言う子ではありません」
「月子……」
「にゃっ!」
「おい、ヒヨスまで賛成に回るか……ふぅ……」
どうやら反対は僕だけのようだな。
確かに、生き物の格としては
「本当に、捨て身とかではないんだな?」
「わふっ」
「……分かったよ。頼むぞ」
「ばうっふ!」
そうと決まれば、ことは迅速に、だ。
手早く全員の準備を済ませ、僕たちは行動開始のタイミングを計る。
いい加減、疲れるなり弾切れなりせんのかと心底呆れ返ってしまうほど撃ち込まれ続けていた大火球により、
てらてらと揺らめくその赤い色が、大きな振動と炸裂音に合わせてオレンジ色に輝いた瞬間、一斉に
ゴオオウ!と激しく燃え盛って飛ぶ大火球をすれ違いにしつつ、カーゴは高速で駆けてゆく。
キツネの尾のように広がり、後に残されていった火の粉が【
今度はなかなかに狙いも正確で、本来ならば横っ飛びで回避すべきタイミングだが!
「ぼぉうっふ!」
一声、ベア吉が上げた勇ましい雄叫びと共に、カーゴはまったくコースを変えぬまま、目前の大火球へ向けて直進する。
カーゴより前方へ伸ばされた
登り斜面にも
そして、勢いと速さを
「う、うわあっ!」
流水の守り【
大火球が直撃し、威力の大半を一身に引き受けたのは、前方にいるベア吉だというのに――。
「「ベア吉!」」
瞬く間に掻き消えていく炎の波を、まだ遅いと吹き散らさんばかりの気勢で僕らは叫ぶ。
が、気付けば、まったく落ちていないカーゴの速度……いや、むしろ更なる加速!
猛炎と熱波、白煙と蒸気、それらが霧散した後に現れたのは、未だ力強く駆けている勇姿だ。
「わっふぅっ!」
しかし、ベア
前半身には、素晴らしい手触りをしたあの黒い毛皮がまったく見て取れない。
焼け焦げて無くなってしまったのだろうか? いや、そうではなかった。
大火球に飛び込む直前まではなかった分厚い岩石が、ベア吉の前半身を
金属板の外装を持つ巨大なカーゴを牽くは、岩石塊の
その圧倒的な猛威を
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