[全10話で完結]幽霊カメラマン

青時雨

第1話 幽霊犬

僕は休日、ほんと時々カメラを持つくらいだった。

カメラで撮るのは浜辺に落ちてる綺麗な石とか、なんでもない晴れた空とか、ちょっと眩しそうな顔してる猫とかそんな感じだ。

別になくても困らないけれど、暇を持て余した予定のない週末なんかにカメラを持って散歩に出かけるくらい。少し遠くまでね。


明確に僕がカメラを必要とするようになったのは、友人の葬式以降だ。

めちゃくちゃ仲がいいわけではないと思ってたけど、今になって1番仲のいい友達だったことに気がついた。

あいつのことだから、俺に何も言わずに死んでいくことは絶対にない。と、思う。

だから、おかしいなぁ〜変だなぁ〜と思いながら、白い花に囲まれた写真の中の君を見つめてた。

その日から、なんか幽霊が見えるようになった。

正直、そういうの信じてなかったんだけど、信じたよね。見えるんだから、信じるしかないよねもう。怖いけど。

その幽霊くんは眠気まなこな俺を「ワン!」って吠えながら「起きろ!」って起こすわけ。

犬の幽霊なんているんだ。そうかいるか。いるのか?って驚きと混乱で、飛び起きた。

その幽霊くんに俺はカメラの前まで連れてこられた。



「遊びたいの?。でもこれ高いからだめだな。もっと枝とかさ…」


「ワンッ《違うッ》」



違うそうだ。

試しにカメラを手に取ると、幽霊くんがその場で一回転していい笑顔するのよ。

そういうことね、と思ってシャッターを切ったら、ちょっと透けた可愛い犬が写ってて俺も思わずにっこり。

幽霊くんにも見せたら満足だったみたいで「ワンッ!《よかろう!》」って合格を頂きました。


袖を引っ張られて手を差し伸べたら、電車の切符を渡された。彼岸知らない土地行きじゃなくて安心した。



「ここに行くの?」


「ワン《そうだ》」


「俺が?」


「ワンッワワンッ《当たり前だろ》」


「…どうして?」



幽霊くんの答えは沈黙だった。

好きなように捉えろ、とでも言うように欠伸をすると、部屋の奥へと走り去って行った。

たった今写真に収めた犬の幽霊には、もう二度と会わない気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る