第11話 世界を取り戻す一振り
仮住まいの小屋を出た
凪は両手で握り真正面に構え、力を込め意識を集中させ始めた。
「我が手にあるは流殲牙
流るる総て殲滅する牙なり
我が名に与えられし凪の
凪は唐竹に流殲牙を振り切った。
切っ先が地面に触れた瞬間、触れた地面からチョロチョロと水が湧き出てきた。
私はまっさきに凪の後ろへと隠れ腰にしがみついた。
そうでもしていないと、この後の衝撃に耐えられないからだ。
チョロチョロとした湧き水が勢いを増すにしたがって、厚い雲に覆われていた空はみるみる晴れていく。
この付近の水という水が一点に集中している。
私がそうやってこの技を想像したからわかる。
「
その一言とともに大波が発生して廃墟を押し流した。
バキバキと廃墟を粉砕する轟音と衝撃波に、私は凪に必死でしがみついた。
この技を使ったからには、流殲牙の触れた切っ先より上にある物すべてが押し流されて大地すら凪ぐ。
地形はまるで整地されたかのように、平らに均されていた。
私の考えた凪の必殺技。生で見ることができた……。
「さぁ、土台は用意した。世界を創るぞ……一葉」
水も滴るいい男は得意げに私の肩を叩いた。
「すごかったよ……晴天一面天地平定」
「思いついた一葉がすごいんだ。俺がこれから受けるあらゆる賞賛は一葉のものでもある」
自画自賛してしまったようなものなのか、と恥ずかしい気持ちになった。
だが凪の曇無い信頼を向けられるのは気分がいいに決まっている。
「それに水を集めたのは、廃墟を薙ぎ払うためだけじゃない。俺には一葉が身につけた空間把握能力も与えられている。空間把握能力と俺に紐づけられた水を操る力を組み合わせるとこうなる」
凪は平らになった地へ手をかざすと、水が氷になりながら縦に伸びていった。
そして数日前まで住んでいた和風な平屋が氷で再現された。
「一葉の
「そんな3Dプリンターみたいなことできたの? いや……凪ならできるか」
私の設定した能力に凪の自我が加わり、一人の人物として私の思いつかないことをしてきた事にたまらなく凪の命を実感してしまった。
「あのままだと寒くて住めないだろう。だが、氷の平屋を交差ブーリアンで型抜きしたら手早く作業が進むのではないか? 俺の作る氷も予想通り
「凪……天才じゃん!」
交差ブーリアンとは重なった物体の共通部分を抽出する操作だ。
しかし凪への賞賛もまた自画自賛なのだろうか。
でも構わない。
今、私は楽しくてしかたがないのだから。
氷でできた平屋を大きな立方体のオブジェクトで囲むと交差ブーリアンを適用させた。
すると一瞬で平屋オブジェクトの複製が完了した。
新しくこの世界で作り直した物体であるからには
「凪、
こうして私と凪で
質感設定などはやり直しになってしまうが、
その日、一日をかけて
住まいは以前の平屋に戻ったが、質感設定が初期状態に戻ってしまいグレー一色だった。
夜にはお互いに疲れてしまい、ため息とともに敷布団へと横になった。
でも、そのため息は達成感を伴った前向きなものだった。
「お疲れさま……凪の方が大変だったでしょ」
「あぁ、でも俺の無理なんて一葉が今まで乗り越えてきた無理と比べたら大したことはない」
「大したことなくても、大変だったでしょ? お互いに無理しないように見張らないとかもね」
「変なところまで一葉に似てしまったな。そんな疲れた俺を哀れに思うなら充電させてくれないか?」
私は軽い気持ちで手を広げ横に寝そべる凪を受け入れようとした。
「はい。私は充電器ですよ~どうぞ」
でも、凪は私のことを思いのほか強く抱きしめてきた。
「一葉はなかったことにしたが、俺にとっては取り消されていないことがある」
凪は小さな声で囁くように私に語りかけてきた。
「ん? なんのこと?」
「俺の性格設定だ。『他人にはよそよそしいが、私には甘えっ子』そう設定ノートに書きかけて慌てて消しゴムで消しただろ?」
「そっそれは! だってあの時は中学生でしょ? それは流石に黒歴史と言わざるを得ないでしょ」
恥ずかしすぎて耳が熱くなってきた。
あの頃は夢女子以外の何者でもなかった。
あまりの恥ずかしさにジタバタ暴れて凪の手から離れようとしたが、凪は「少し聞いて欲しい」と静かに呟いた。
ずるいじゃん。
そんな真面目な顔されたら聞くしかないじゃん。
「俺は完成した瞬間から一葉に甘えたいという衝動がずっとあった。でも、世界が変わってしまって危険に備えて気を張っていた」
私の中で急に罪悪感に似たような、気まずさを凪に感じてしまった。
「なんか……私、凪のことを自分に都合がいいように歪めてしまったのかな」
そう呟いた途端、凪は私の肩を掴んで顔を眉間にシワを寄せてこちらを見た。
「それだけは違うと信じて欲しい。俺は『生まれたい?』という問いに同意して一葉の手を握ったんだ」
「そうか……あの時」
そうだ。私はこの世界に来た初日に確かめたじゃない。
今度は私の方から凪を強く抱きしめた。
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